経営不振に陥った中小企業の存続期間と債務構成

執筆者 胥鵬  (ファカルティフェロー / 法政大学経済学部) /鶴田大輔  (政策研究大学院大学 / CRD)
発行日/NO. 2006年2月  06-J-009
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備考

(この論文は経済産業研究所の研究プロジェクトの一つである「企業金融研究会」の成果の一部である。この研究会の成果の全体像と各論文の位置付け等についてはこちらを参照)

概要

本稿は2001年に経済産業省・中小企業庁により設立されたCredit Risk Database(CRD)の大規模なマイクロデータを用いて、連続債務超過かつ経常赤字に陥った中小企業が法的破綻にいたるまでの存続期間の決定要因を分析する。とりわけ、中小企業の債務構成に注目し、企業間信用と銀行融資の比率やその動きが法的破綻のタイミングに与える影響について明らかにする。本稿の分析結果は以下の通りである。まず、総負債に占める買入債務の割合は経営不振中小企業の法的破綻に陥る確率を高める。また、企業間信用の割合は法的破綻数年前から大幅に減少する傾向が見られる。かつ、企業間信用の減少率が大きい企業ほど、経営不振に陥ってから法的破綻にいたるまでの存続期間が短くなるが、銀行融資の比率やその動きは存続期間に影響を与えない。これらの結果は、企業間信用の下記の特徴と整合する。第一に、無担保債権の企業間信用は、取引先企業が法的破綻に陥るとより大きな損失をこうむるため、担保債権者の銀行と比べると企業間信用を供与する取引企業は事前に企業の信用情報をより迅速に獲得しようとするインセンティブを持つ。第二に、取引先企業は他の業者とのネットワークが存在するため、銀行よりも債務者企業の信用情報を低いコストで早く獲得できる。第三に、一般的に取引先企業の数は多く、残高維持や債権放棄といった債権者同士の私的な交渉は困難である。債務構成のほかに、総資産回転率、経常利益率といった企業ファンダメンタルズが相対的に良好な企業ほど長く存続する。収益性については中堅企業ほど効果が強い。また、固定資産比率が高く、手元流動性が高い企業は、存続確率が高く存続期間も長い。他方、企業規模、有利子負債利子率、企業間信用に占める支払手形の比率が高い企業は、存続確率が低く存続期間が短い。最後に、信用保証や特別信用保証制度などの中止企業再生支援施策を受けた経営不振中小企業は短期の存続確率が高くかつ長く存続する効果が確認されている。