メインバンクの財務状況と企業行動:
中小企業の個票データに基づく実証分析

執筆者 小川一夫  (大阪大学社会経済研究所)
発行日/NO. 2005年11月  05-J-031
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備考

(この論文は経済産業研究所の研究プロジェクトの一つである「企業金融研究会」の成果の一部である。この研究会の成果の全体像と各論文の位置付け等についてはこちらを参照)

概要

本稿はわが国におけるメインバンクの財務状況の悪化が顧客企業の行動にどのような影響を及ぼすのか、実証分析を行った研究である。本研究には3つの特徴がある。第1は、中小企業を対象にそのメインバンクの健全性が企業行動に与える影響を分析して点である。第2は、中小企業を対象に平成13年から15年にかけて中小企業庁が調査した企業金融環境に関する個票データを使用した点である。この調査には中小企業のメインバンクに関する情報が含まれており、メインバンクの財務状況が、融資関係を通じて顧客企業に与える効果とその他の経路を通じる効果を識別することができる。第3は、企業活動を多面的にとらえてメインバンクの財務状況との関連を調べた点である。

得られた実証結果は以下の通りである。メインバンクの不良債権比率が上昇すれば、顧客企業への貸出は抑制的になり、設備投資、雇用は減少する。また、メインバンクからの借り入れの減少を補うために流動資産が取り崩される。融資機能の低下に加えて、メインバンクから顧客企業へ提供される種々のサービスの低下を通じて、設備投資、雇用のさらなる減少が生じる。他方、将来の資金需要を手当てするために流動性の積み増しが行われる。