銀行のエクスポージャーと債権放棄における企業銀行間交渉
イベント・スタディによる検証

執筆者 秋吉史夫  (東京大学大学院経済学研究科) /広瀬純夫  (信州大学経済学部)
発行日/NO. 2006年4月  06-J-037
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概要

破綻の危機に瀕した企業に対して多額の貸出を行っている場合、倒産処理を行って貸出損失を確定してしまうと、貸出を行っている銀行自身が経営危機に直面する恐れがある。このような事態を予想する銀行経営者は、倒産処理を躊躇し、追貸しを行ったり、抜本的な再建には結びつかない不十分な規模の債権放棄を実施したりするなど、当座しのぎの策を講じて、破綻の危機にある企業の延命措置を図ろうとする。このような、銀行自身が危険にさらされている構図は、債権放棄に関する交渉の場で、債務者企業の交渉力を強化する可能性がある。本論文では、このような可能性について、債権放棄に関するイベント・スタディの手法を用いて検証を試みたものである。対象サンプルとした債権放棄のイベントは、1993年1月から、2004年1月までの期間で、日本経済新聞、日経産業新聞、日経流通新聞、日経金融新聞の日経4紙に対して、「債権放棄」「債務免除」をキーワードとして抽出を行って得られた報道により特定した。その結果は、メインバンクのリスク・エクスポージャーが高い貸出先では、債権放棄の要請を行ったタイミングで、債務者企業の株価は有意に上昇する一方で、メインバンクの株価は有意に低下している。つまり市場は、メインバンクにリスク転嫁を図る形での問題先送りの債権放棄が行われ、債務者企業の株主を利するような合意に達すると予想しているものと考えられる。このため、抜本的な問題解決を図るには、監督当局がモニタリングを強化して銀行の資産内容を厳格に吟味し、処理の促進を直接的に促すことが、非常に重要な役割を果たす可能性がある。