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「アジアにおける企業再建と再生」プロジェクト

プロジェクトの目的

アジア通貨危機の原因の1つとして、コーポレートガバナンスの脆弱さが挙げられていた。このプロジェクトでは、タイと韓国の共同研究を通じて、コーポレートガバナンスの改革、とりわけ、ファミリー・ビジネスを中心とする所有・支配構造の変化が通貨危機中に経営が破たんした企業の再生に与えた効果を分析することによって、東アジアのコーポレートガバナンスの諸問題を再検討し、中国における国営企業リストラと銀行改革のためのレッスンを探ることを目的としています。

プロジェクトのポイント

(1)研究プロジェクトの背景

このプロジェクトの主な目的は、アジア各国の倒産法制度の効率性を評価することです。倒産法制度の評価は、米国企業を中心に行われてきました。これは、1970年代後半から米国経済の衰退によって企業倒産が急増したからです。研究は、直接・間接倒産費用の計測(Weiss, 1990)、法的整理(bankruptcy)と私的整理(informal workout)に関する比較分析(Gilson, Kose and Lang, 1990; Gilson, 1997; Asquith, Gertner and Scharfstein, 1994; Franks and Torous, 1994; James, 1995, 1996)、法的整理後の業績回復(Hotchkiss, 1995)、DIP(debtor in possession)ファイナンスの役割(Dahiya et al., 2003)など多岐にわたります。日本に関しては、Eisenberg and Tagashira(1994)、Xu(2004a,b)が挙げられます。最近、スウェーデンに関するThorburn(2000)の研究が報告されています。

アジア各国の法的整理(bankruptcy)の実態については、La Port(1998)のlaw and financeのアプローチを応用して、法的整理企業数対企業数比率を、債権者権限、担保債権に対する弁済の優先順位、法制度オリジンなどの各国法制度の特徴へ回帰させるClaessens, Djankov and Klapper (2003)とKlapper and Claessens (2002)などの研究論文が散見されます。

また、金融危機後の回復については、金融危機を経験したスウェーデン等のヨーロッパ諸国と通貨危機に見舞われたアジア諸国の公開企業の業績推移を簡単に分析したClaessens et al. (2001)が挙げられます。ただし、データ入手の制約で、WorldscopeやDatastreamにデータが収録されている有力上場企業が分析対象とされる研究がほとんどです。また、司法費用といった直接倒産費用や法的整理処理期間などの間接倒産費用の計測、法的整理による企業再生の効率性の評価、私的整理と法的整理の選択、経営危機後業績回復の要因などに関する実証分析は皆無に近いといえます。その上、未公開会社や中小企業の分析はまったく見当たりません。

(2)平成16年度の研究成果

このような問題に答えるために、2005年3月7-9日にRIETIで開催した国際ワークショップで、アジア5カ国からの海外共同研究者に研究成果を報告していただきました。研究成果は、インドネシアの法的整理の非効率性、韓国の倒産法改革の成果と中小企業再生の政策課題、有効な倒産法制度改革が行われなかったことがフィリピンの不良債権処理を遅らせていること、タイにおいてDIPが倒産後経営業績に対して有意にプラスの効果を及ぼすことを示唆します。また、転換経済の中国では国営企業の政策倒産中心に行われてきた企業破たん処理が国有銀行の不良債権の主な原因だったことが明らかにされ、破産法改正の問題点から中国のコーポレート・ガバナンスと法制度の不備が浮き彫りにされています。

(3)平成17年度の研究内容

このような研究成果を踏まえた上で、2005年度は、再生企業の業績回復にフォーカスをあて共同研究に取り組んでいく予定です。とりわけ、日本と韓国は不渡りや会社更生法や和議法や政府主導型私的整理などの制度上の共通点が多く見られるため大きな成果が期待されます。また、破産法を中心に中国のコーポレート・ガバナンス改革と法制度整備の分析に取り組みたいと考えています。

(1) 中国:中国における破産法による法的整理の実態、破産法の改正およびその効果、国営企業のリストラ:破産、DES、M&A、MBO、外資への売却
(2) 韓国:韓国における通貨危機中の私的整理企業の業績回復、企業破たん処理におけるM&Aの役割、統一倒産法の実践
(3) タイ:タイにおける法的整理企業の業績回復とDIP

研究の成果

※プロジェクトの研究成果として発表された論文等(うち一部はDP(ディスカッションペーパー)及びDPになる予定のCP(コミッションペーパー)を含む)を公表いたします。

●2005年11月19日に開催されたコンファレンスの紹介

研究会の主な参加メンバー

  • 胥 鵬(独立行政法人経済産業研究所 ファカルティフェロー・法政大学教授)
  • 砂川 伸幸(神戸大学助教授)
  • 亀坂 安紀子(青山学院大学経営学部助教授)
  • 小塚 荘一郎(上智大学教授)
  • 田頭 章一(上智大学教授)
  • 鶴田 大輔(政策研究大学院大学助手、CRD非常勤研究員)
  • 広瀬 純夫(信州大学専任講師)
  • 松尾 順介(桃山学院大学教授)
  • 丸山 宏(横浜市立大学教授)
  • 三重野 文晴(神戸大学助教授)
  • 渡邉 真理子(アジア経済研究所研究員)

  • 中原 裕彦(法務省民事局参事官室)

  • 秋吉 史夫(独立行政法人経済産業研究所 リサーチアシスタント・東京大学大学院生)
  • 松田 琢磨(独立行政法人経済産業研究所 リサーチアシスタント・東京大学大学院生)
  • 矢尾板 俊平(独立行政法人経済産業研究所 リサーチアシスタント・中央大学政策文化総合研究所準研究員)

海外の研究協力者

  • 李曙光(中国:政法大学)
  • 張春霖(中国:世界銀行北京事務所)
  • Soogeun OH (韓国:Ewha Womans University)
  • Dongsoo Kang (韓国:Korean Development Institute)
  • Pairoj Vongvipanond (タイ:Institute for Social and Economic Studies, Dhurakijpundit University、タイ)
  • Nuttanan Wichitaksorn (タイ:Institute for Social and Economic Studies, Dhurakijpundit University、タイ)