Wカップによる地域づくりに求められる視点25項目の解説

今回のWカップ事後調査において、各自治体に対して「開催前の意図」、「それに対する成果」についてどのように評価しているかアンケートを実施した。アンケートした25の質問項目は、1999年に実施した「国際スポーツイベントによる地域づくりに関する調査研究事業」から抜粋したものである。この調査研究は調査費600万円のうち(財)地域活性化センターが半額の300万円、残り半分を10のWカップ開催自治体で等分に(各30万円を)負担して実施されたものであり、この調査研究にコミットした開催自治体にとっては、これらの項目に基づいて事後評価をすることが開催前の意図を最も反映しやすい形であると考えたからである。
この調査報告書を基にして、「国際スポーツイベントによる地域づくりに求められる視点」から、25項目をどのように設定したか、下記に言及する。なお、ここでいう国際スポーツイベントとは、一つの自治体で連続して開催することが難しい非継続型のスポーツイベントを指すものである。

まずこれからの地域づくりに関して、

  • 「住民参加による地域社会の共通目標の構築と理解の深化」
  • 「活力・魅力ある地域の創造と住民生活すべてにわたる豊かさの実現」
  • 「地域の創意や自発性が生かされ、透明性と公平性を備えた地域社会の実現」

の3つのポイントがあげられる。

さらにWカップのような国際スポーツイベントおよびそれに伴う活動は、こうした地域づくりを進めていく上で以下の3つの点で貢献する。

一つ目は「地域づくりの理念や目標像の理解促進とその地域が有する優れた魅力の発信」である。国際スポーツイベントの有する豊かなメディア性を有効に活用すれば、地域内においては地域の人々が地域づくりの理念や目標像を理解することに促進し、一方地域外には地域が有する優れた魅力を発信することができる。

二つ目は「ゆとりや豊かさを実感出来る地域社会の創造」である。国際スポーツイベントの開催が地域経済や産業の活性化に寄与し、文化・スポーツについてハード・ソフトの両面の整備により、質の高い生活の享受に貢献するとともに、地域住民の国際意識の醸成と国際理解の促進に役立つことである。

三つ目は「新しい時代にふさわしい社会システムの構築」である。国際スポーツイベントは、世界が注目すること、期間や場所が限定的であるということで、新しい社会システムの実験や普及の場として適しており、例えば開催理念の世界への発信、まちづくりの理念や目標像の浸透等普及・PRを行ったり、青少年の国際交流・国際理解教育の実践、社会実験の実施をすることもできることに加えて、開催準備を進める上でインフラ整備を行うなど、ハード・ソフト両面のストックの充実を図ることもできる。ほぼ全ての自治体において重要項目として言及されていた「ボランティア」の項目は、今後の行政と住民の新しい関わり方の萌芽として期待されていると思われる。

こうした3つの貢献を大項目とすると、それらはさらに10の中項目に体系化することができる(別表参照)。

すなわち、第一の「地域づくりの理念や目標像の理解促進とその地域が有する優れた魅力の発信」という点からいえば、「地域アイデンティティの確立」「地域からの情報発信・地域イメージの向上」の2項目に、第二の「ゆとりや豊かさを実感出来る地域社会の創造」という点からいえば、「地域経済・地域産業の活性化」「文化・生活環境の整備拡充」「地域スポーツの振興」「地域の国際交流の推進」の4項目、第三の「新しい時代にふさわしい社会システムの構築」という点からいえば、「交通通信基盤の整備」「住民参加の促進、ボランティア・NPOとの協働」「環境保全(環境への配慮)」「セキュリティ・ホスピタリティの向上」の4項目の計10項目に分類することができる。

さらに国際スポーツイベントによる地域づくりの視点について具体的に57の小項目に分類すると別表の通りとなる(別表参照)。これら57の項目の内、Wカップに関しては開催10自治体規模の大小があるため、Wカップの特性と共通する視点を鑑み、代表的な25項目を抽出抜粋した。

なお地域づくりのための各施策は、個々の項目は独立に存在するものではなく、「国際スポーツイベントによる地域づくりに求められる視点」に立脚したものとして、総合的な成果を高めるために、それぞれが関連した要素であることは言うまでもない。

以下にその具体的な25項目をあらためて示し、これらについて簡単な解説を付記していく。

1. 住民意識の一体化 ワールドカップという国際的スポーツイベントを地域で開催したことにより、ひとつのことに向けて住民の意識が一体となっていたこと。
2. 住民の連帯感の醸成 ワールドカップという国際的スポーツイベントを地域で開催したことにより、ボランティア等の参加を通して住民が連帯感を持つようになったこと。
3. 地域の誇りや住民の自信の獲得 ワールドカップを開催した都市として国際的に知名度も向上し、住民が地域に対して誇りと自信を持つようになること。
4. 地域文化の見直し ワールドカップを通して地域に根ざした個性のある文化の創造や歴史、文化的財産の継承・保存・再生などを意識するようになったこと。
5. 地域名のメディア露出 ワールドカップを通じて様々なメディアに地域名が露出したことにより、知名度や地域イメージが向上したこと。
6. 外来観光客数の増加 ワールドカップ開催中または終了した後、国内外からの観光客数がワールドカップ開催前と比較して増加していること。
7. 商店街の活性化 ワールドカップの開催に当たって地元商店街でイベントやバナーの掲出などを行ったことにより商店街への観光客が増加したこと。
8. 地域経済への波及  
9. 交通渋滞解消/自動車交通の定時制の確保 必要に応じて幹線道路等の整備・建設を実施すること。また交通施設の安全性・快適性の向上に対して施策を実施すること。
10. 鉄道交通の整備 必要に応じて鉄道交通網の整備・建設を実施すること。また鉄道交通の安全性・快適性の向上に対して施策を実施すること。
11. 街並など景観の向上 ワールドカップの開催に当たって都市サインの統一、公共施設の緑化等、街並みや景観の形成・維持・向上を意識したこと。
12. 住民の美化運動の実践 ワールドカップの開催に当たって住民が参加してのガーデニング等美化活動が活発に行われたこと。
13. ボランティア活動参加者の増加 ワールドカップを通してボランティアの参加者が増加したこと。
14. ボランティア活動組織の増加 ワールドカップを通してボランティア参加者による新しい団体が増加したこと。
15. 地域ホスピタリティの向上 外国人観光客の活動しやすい環境づくりや交通施設等のバリアフリーなど福祉の街づくり等を実施したこと。またそれに伴う行政やサービス産業のサービス水準が向上したこと。
16. 国際意識の向上 ワールドカップを通じて外国人観光客や参加選手等との交流や国際交流を目的としたイベント等を実施することで、住民が国際交流や国際協力など海外へ理解を深めようとするようになったこと。
17. 国際交流の進展 ワールドカップを通じて海外都市との交流や外国人留学生の受け入れなど国際交流・国際協力が推進されていること。
18. 青少年への国際理解教育や社会教育の実践 ワールドカップを通して海外への理解を深めるためのイベントや教育が実施され、ワールドカップ終了後も継続していること。
19. 環境保全意識への高まりへの寄与 地域の自然や緑の保全・回復、環境にやさしい街づくりの推進、環境教育の推進等がワールドカップを契機として実施されるようになること。
20. スタジアム等スポーツ施設の充実 開催会場となるスタジアムの整備・建設を実施したこと。またスタジアム周辺施設等のワールドカップに必要なスポーツ施設を整備・建設したこと。
21. スタジアム等スポーツ施設利用の活発化 競技施設を活用したスポーツイベントの実施やスポーツ・レクリエーション環境の整備等により住民が積極的にスポーツ施設を利用していること。
22. 地域スポーツの活発化 ワールドカップを契機として新たなスポーツイベント等を開催するようになり、住民がスポーツに積極的に参加するようになったこと。
23. スポーツ参加率の上昇 ワールドカップを契機としてスポーツをする住民がワールドカップ以前よりも増加したこと。
24. スポーツイベント運営ノウハウの獲得 各種スポーツイベントの運営に必要なノウハウがワールドカップを通じて共有され、今後他のスポーツイベントに活かしていく状態ができていること。
25. サッカー人気の高まり 同地域をホームタウンとするプロサッカーチームの試合に来場者数が増加したこと。地域のメディアにサッカーの露出が多くなったこと。同地域で開催するサッカーのイベント等に参加者が増加したこと。