9月11日にアメリカで起こった同時テロが世界中に衝撃を与え、米軍の対アフガン空爆へと発展するなど、事態が深刻化している。これを機に世界経済の同時不況が一層深まれば、中国経済も打撃を受けることとなろう。しかし、意外な面で影響が出始めている。
まず経済の面では、アメリカの本格的報復攻撃がエスカレートし、戦争が長期化すれば、朝鮮戦争当時の日本のように、軍需品による「特需」が発生し、中国の輸出が伸びるであろう。現に、ニュースにも採り上げられているように、事件後、米国の国旗に対する需要が急増したが、その大半は中国産である。また、米国の景気後退が長引くことになれば、中国大陸の出身者の中国への還流を促す要因として働くであろう。80年代以来、多くの中国人が留学生として米国に渡り、その中で卒業しても現地で就職し、各分野で活躍している人が大勢いる。これら高い技能を持つ人材が帰国すれば、中国のハイテク産業に新たな活力をもたらすことが期待できる。
政治の面においても、米国対テロリズムという構図が鮮明になるにつれてこれまでギクシャクしてきた米中関係が転機を迎えようとしている。
冷戦の終結に伴い、旧ソ連の代わりに中国は、アメリカにとって最も「潜在的な敵」であるように見なされるようになった。1999年ユーゴにある中国大使館に対するミサイル攻撃や今年の両国軍用機衝突事件に象徴されるように、アメリカの中国に対する対抗的な姿勢や傲慢な態度は中国の民衆の感情を決定的に傷つけてしまったのである。従って、中国の民衆の中には、それはアメリカ政府が自ら進めていた拡張政策に支払う償いであると考えた者も少なくない。また、一部の中国の評論家は、今回の事件は米国の覇権が終焉を迎えることを象徴する出来事だと見ている。
この庶民の感情論に対して、中国政府は冷静な対応をしており、このチャンスを捉えて対米関係の改善を図ろうと、早くも米国に協力する意思を表明した。米国は真の敵が現れることによって潜在的な敵としての中国に対する圧力をその分だけ緩めざるを得ない。その上、テロに勝つためには、国連の安保理常任理事国としての中国の協力がどうしても必要になってくる。中国自身も新疆ウィグル族の独立運動に悩まされているだけに、イスラム過激派との戦いは米国との共通の課題である。また、今回の事件によって、中国が強く反対している米国のミサイル防衛計画(NMD)は、安全保障にとっていかに役に立たないかを露呈し、同計画は見直しを余儀なくされるであろう。このように、中国から見た米国の脅威も後退している。
2001年10月12日掲載