中国経済新論:実事求是

「IT小国」中国の幸運

関志雄
経済産業研究所 上席研究員

昨年以来、NASDAQの急落をきっかけに、米国をはじめとする世界経済が深刻なIT不況に陥っている。これを受けて、アジア地域の輸出と経済成長がともに大きく落ち込む中、一人中国経済だけは、堅調を維持しており、今年の成長率も7%台半ばが予想されている。この背景には、意外にも、中国経済におけるIT産業の比重がいまだに小さく、先進国の不況の波をそれほど被っていないことが挙げられる。

他のアジア諸国と同様、中国のIT産業の中心は、海外市場に大きく依存するITハードウェアの製造である。しかし、近年急増しているとはいえ、中国のIT製品の輸出は輸入部品に大きく依存しているため、ITの純輸出の経済成長への寄与度は必ずしも高くない。IT製品の生産規模と今回のIT不況の影響との関係をみると、外需におけるIT製品の比重が大きい(小さい)ほど、直近の成長率の落ち込みが大きく(小さく)なるという関係が見られる。実際、IT製品の輸出の不振で今年にマイナス成長が予想されるシンガポール、マレーシアでは、IT製品純輸出の対GDP比が20%を超えている。これに対し、輸出と成長率の落ち込みが比較的小さい中国とインドネシアは、IT製品の輸出と輸入がほぼ均衡している。他のアジアの国々はおおむね、この両極の間に位置付けられる。

一方、海外市場との関わりが薄い通信やソフトウェアといった分野では、実際の利用状況は、未だ国際的に低い水準に留まっている。例えば、2000年末の普及率を見ると、インターネットの場合、わずか1.8%となっており、アジアNIEs諸国(20-30%)には遙かに及ばない。携帯電話の場合でも、急ピッチに上昇しているとはいえ、6.6%と、アジアNIEs諸国の平均(30~50%)を大幅に下回っている。これらの分野において、普及率が低い分だけ成長する余地が残っており、現に高成長が続いている。

近年日本では、「中国脅威論」から、中国経済のIT化が、実物以上に大きく採り上げられている。中には、IT化を急速に進めることを通じて、中国経済がNIEs、ASEAN諸国に追いつき、近い将来、日本経済にとって最大のライバルとなると予想する向きも見られる。しかし、足元の中国経済の堅調は、皮肉的にも、中国経済のIT化が、実際にはまだ緒についたばかりであり、中国経済が世界のIT循環の影響をそれほど受けていないことを物語っているといえよう。

2001年10月5日掲載

2001年10月5日掲載