中国経済新論:経世済民

中国脅威論との戦いの記録

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

2001年4月から2004年の3月までの三年間、私は野村総合研究所から経済産業研究所に出向し、赴任早々から猛威を振るっていた中国脅威論に遭遇した。それと戦う陣地として『中国経済新論』というコーナーを研究所サイト内に立ち上げた。私は日中両国が競合ではなく、補完関係にあるために、中国の台頭は日本にとってウィン・ウィン・ゲームであると主張してきた。2003年後半になると、日本経済が回復に向かい、しかも中国要因がそれに大きく寄与しているという認識が一般的になり、私の主張もようやく広く受け入れられるようになった。この意味で、今回出版された『共存共栄の日中経済』(東洋経済新報社、2005年)は、私の中国脅威論との戦いにおける「勝利宣言」である。

1995年に出版した『円圏の経済学』から数えて、本書は私の単著として4冊目になる。これまで、円の国際化、アジア通貨危機、中国の台頭、日中関係など多岐にわたるテーマに取り組んできたが、「競合Vs補完」を軸に国と国の相互依存関係を分析するという点において一貫している。その焦点は、「米国が風邪を引けば、アジアが肺炎にかかる」という議論に象徴される「所得効果」よりも、為替変動などに伴う「価格効果」に当てている。そのおかげで、円高が円安へ、中国発デフレが中国発インフレへ、人民元の切り下げ論が切り上げ論へと変わっても、それぞれの影響について、迷うことなく「解答」を用意できたのである。まだ少数派の意見だが、「人民元の切り上げは日本のためではなく、中国自身のためである」という本書の主張も、いずれ「正論」として認められる日がやってくるだろう。

(日本金融新聞 2005年3月15日掲載)

2005年3月31日掲載

2005年3月31日掲載