中国経済新論:経世済民

役に立つ経済学を求めて

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

日中両国の文化と言葉を理解するエコノミストとして、両国の架け橋となるべく精力的に活動している。

香港の出身。経済学を志した最初のきっかけは、香港中文大学経営学部の1年生だった夏に中国大陸に旅行したことだったという。

「文化大革命を経て破綻寸前の状況にある中国を見て、大きなショックを受けました。なぜこんな悲惨な状況になるのか。その答えが、経済学を学べばわかるのではないかと思いました」

大学の二年目に経済学部に転籍、発展のモデルとして注目したのが、当時アジアで唯一の経済発展を遂げていた日本だった。副専攻で日本研究を選んだ関さんは、大学卒業後、東京大学に留学。しかし所期の目的を上げるに至らなかった。

「日本の経験を体系的に学びたいと思っていたのですが、大学院では経済理論の論文を読むばかり。しかも日本の大学院は博士号が大変とりにくいため、私は学位をとれずに帰国し、学者への道が断たれたのです」

香港で銀行の調査部に勤めた関さんに、1年後、転機が訪れる。野村総研の研究員として採用されたのだ。関さんはまた東京に戻ってくることとなった。

「大学院とは対照的に、野村総研での仕事は、非常に勉強になりました。毎日市場で問題意識を磨き、生きた経済をそこで学ぶことができたんですね」

その後「円圏」の研究で博士号も取得。敗者復活を見事果たした。

「でも私は、自分が経済学者と考えたことはないんです。あくまでも経済学という道具を使うエコノミストだと思っています。理論で貢献するよりも、経済学を現実の世界と結びつけることこそ自分の比較優位に沿っていると思います」

好きな言葉は「実事求是」と「経世済民」。あくまで事実を重んじ、理論をどう応用するかに心を砕いている。

『経済セミナー』2003年3月号 コラム「人」 より転載
※転載にあたり先方の許可を頂いている。

2003年2月26日掲載

2003年2月26日掲載