中国経済新論:中国の経済改革

変動幅の上限撤廃で進展する金利の自由化

巴曙松
国務院発展研究センター金融研究所副所長

国務院発展研究センター金融研究所副所長。1999中央財経大学博士号取得。中国銀行杭州市分行副行長、中国銀行香港有限公司リスク管理部総経理補、中国証券業協会発展戦略委員会主任などを歴任。2003年8月より国務院発展研究中心金融研究所副所長。主に金融市場の監督と金融システムのリスク管理、金融政策と企業融資政策などを研究している。著書に『中国貨幣政策有効性の経済学分析』『金融的江湖』などがある。

2004年10月28日に中国人民銀行は、金融機関の1年物預金の基準金利を5.31%から5.58%へ0.27%ポイント引き上げることを発表した。金融市場の関心は主に金利水準の調整にあるが、むしろ注目すべき点は、中国の金融市場の発展に大きな影響を与える金利自由化、特に都市・農村信用社以外の金融機関の貸出金利の上限が撤廃されたことである。都市・農村信用社についても、5.04~12.83%の比較的広い幅の中で貸出金利を決めることができるようになった。今回の金利自由化措置は、金融資源の有効な資源配分に向けての大きな一歩である。

1.貸出金利の変動幅拡大に伴う金利上昇効果

基準となる金利水準自体の引き上げに加え、貸出金利の変動幅の拡大も、一部の企業が銀行融資を受ける時に支払う金利を上昇させることを通じて、投資抑制に良い効果をもたらす。この意味から見て、貸出金利の変動幅の拡大は、今回のマクロ・コントロールにおいても大きな役割を果たす政策手段のひとつである。

また、金利の自由化という観点から見れば、貸出金利の変動幅拡大自体は金利自由化のプロセスのひとつであり、上限の撤廃は貸出金利が相対的に自由化されたことを意味する。したがって、今回の政策が実体経済に与える影響は0.27%ポイントの金利調整の影響よりも大きい。

マクロ・コントロールの成果を確実なものにするという点から見ると、貸出金利の変動幅の上限が撤廃された後は、金融機関が業種と企業のリスク区分に応じて金利の差別化を実施できるようになることが重要な意味を持つ。たとえばリスクの高い過熱業種には貸し出し利息を高くする、あるいは過熱業種の中であっても比較的高い効率の企業には金利を低くするといった具合である。このような金利の差別化により、市場メカニズムを通じて資源配分を改善するという目的が達成できる。

2.貸出金利の上限撤廃による中小企業の融資難の改善

これまで中小企業の資金調達支援策といえば優遇金利の設定が一般的であった。中小企業にとっては、今回の貸出金利の上限撤廃によって融資獲得の可能性が上昇することの方が、金利水準が上昇することよりも重要な変化である。中小企業のリスクは比較的高い。したがって、銀行が中小企業向け貸出金利を比較的低い水準に保たなければならない場合、金融機関の収益はリスクをカバーすることができなくなる。このため、金融機関は中小企業向け融資を減らさざるを得ず、その結果、中小企業が融資を受ける可能性が低下することになる。中小企業融資を支援する目的で設けられた中小企業向け優遇金利は、むしろ中小企業の金融機関からの融資を抑制してしまう。海外の一部の国では、農家や中小企業向けの貸出金利がかなり高く設定されている。このような高金利は中小企業のような弱小団体に対する搾取ではないかとさえ疑われることもある。しかし、実際にはそのようなことはない。中小企業はフォーマル(正規)な金融システムから融資を受けることができなければ、利益率の高いビジネス・チャンスを諦めるか、インフォーマルな金融システムから高金利で融資を受けるしかない。したがって、中小企業がフォーマルな金融システムから受ける融資の金利がインフォーマルな金融市場からの資金調達コストより低ければ、中小企業の財務コストの削減には有利であると言えよう。

3.商業銀行のリスク判断と価格設定の能力の向上

商業銀行の機能でもある、リスク判断と価格設定を行う能力は市場競争力を最も左右する重要な要素である。厳格な金利規制が長期にわたって実施されていたため、商業銀行のリスク判断と価格設定の能力は低く、銀行間格差もあまりなかったため、銀行システムにおける真の市場競争はこれまで制約されてきた。

貸出金利の上限撤廃によって金利の決定権が中央銀行から商業銀行に移ったことは、商業銀行にとって大きな挑戦ともなる。今まで、中国の商業銀行は、中央銀行の定めた貸出金利と変動幅を受け入れることに慣れてきた。しかし、貸出金利の上限撤廃後は、金利の決定も商業化原則に基づくため、伝統的に形態別・所有制別で貸出金利を決めていた銀行にとってその挑戦は決して易しいといえない。同時にこれは、商業銀行の資産・負債管理に対する新たな挑戦でもある。商業銀行は、貸出金利の上昇範囲に十分な余地を持つようになったため、銀行の資産価格の変動が大きくなるからである。従来の制度の下では、貸出金利の変動幅が限られ、中国の商業銀行は新しい資産・負債管理システムを開発する十分なインセンティブがなかった。しかし、新しい金利制度の下では、金利の激しい変動に対応しうる資産・負債管理システムおよびリスク管理システムを構築することができるかどうかが今後の銀行競争の鍵を握ることになる。

4.金利自由化に伴う中国金融システムの構造調整の促進

さらに、金利決定が自由化されることは以下に挙げる4つの事象を引き起こすため、中国の金融システムに対して、新たな構造調整段階を迎えることにつながると見られる。

第一は、貸出金利の上限撤廃に伴い、商業銀行間の競争が新たな段階に入ることである。金利規制の下で、商業銀行の金融商品が同質化し、少数の新商品が出てきたとしても、ほとんどが似通ったポートフォリオであった。しかし、金利の変動上限の自由化により、銀行による革新の余地が大きくなる。かつては厳しい金利規制の下で、各銀行は「預金立行」や「貸出立行」という言葉のように、規模の拡大という戦略しかなかったが、このような状況は今後変わっていくだろう。

第二は、金利自由化により、リスク管理能力の高い優秀な銀行と、リスク管理能力の乏しい銀行との経営格差が拡大することである。貸出金利の上限撤廃後、貸出規模の拡大は収益の拡大を意味しなくなる。顧客に対するリスク判断とリスクの価格設定が行われるようになり、バランスシートに含まれる金利リスクをコントロールできる銀行だけが利ざやの確保あるいは拡大、ひいては収益能力の強化を達成できるようになる。

第三に、商業銀行はリスクに対する価格設定の自主権を手に入れたことによって、より望ましい価格設定メカニズムに基づいて、新規顧客、特に資金ニーズの高い中小企業や農家などを開拓することができる。中小企業向け貸出は、今後、銀行業務の新しい成長分野になるだろう。

第四は、資金の「体外循環」を緩和する、つまりフォーマルな金融市場への資金還流である。インフォーマルな金融市場からフォーマルな金融市場への代替が進むことで、インフォーマルな金融市場の金利水準は低下せざるを得なくなるだろう。

2005年1月14日掲載

出所

博士珈琲
※和訳の掲載にあたり先方の許可を頂いている。

2005年1月14日掲載

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