中国経済新論:中国の経済改革

民営経済の発展を妨げる障碍を排除せよ

新望
中国改革研究院経済研究所所長

1964年甘粛省生まれ。1985年蘭州大学経済学部卒。卒業後同校にて経済学、高等教育学等を教える。1996年、張家港市委員会党学校の招聘に応じ同校にて教鞭を執る。現在、蘇州大学蘇南発展研究院研究員、無錫社会経済比較研究所研究員、張家港市党委員会党学校上級講師を兼任。著書に『永聯研究』『蘇南研究』などがある。

「すべての労働、知識、技術、管理と資本の活力が競い合ってほとばしり出るようにし、社会の富を創り出すすべての源泉を十分に湧き出させなければならない」。この中国共産党第16回全国代表大会における報告の一文は、われわれにとって印象深いものになっている。しかし、実際にはそれぞれの要素の活力が競い合ってほとばしり出る状況になっているのか、また、社会の富を創り出すすべての源泉を十分に湧き出させているのか。民営経済が直面している多くの障碍を見ても分かるように、必ずしも満足できる状況ではない。このような障碍は民営企業の潜在的活力を厳しく抑えるだけでなく、国民の富を湧き出させることを制約しており、さらに、権力者の腐敗といったレントシーキングの機会を与えてしまっているのである。

中国の民営経済発展を妨げているのは、主に観念、法律、政策、行政、そして社会という五つの外部障碍による。

一、観念の障碍

中国民営経済の発展には、理論、観念、イデオロギーといった面において障碍が存在している。理論の曖昧さは、民営経済の発展に混乱をもたらし、民営企業は機会主義的な心理状態に陥ることになる。理論が政策より立ち遅れ、そして政策が実践に追いつかないことは、中国の民営経済の発展を考える上で二つの大きな課題となっている。

中国の民営経済発展に対する障碍の殆どは、中国の伝統的観念及びイデオロギーに由来している。こうした観念性の障碍は根強く、普通の人々ですらあたりまえのように思っている。例えば、「民有企業」ではなく、「民営企業」という名前を使うのは、「私有化」の疑いを避けるためであるという説がある。実際、民営経済という名称は単に経営メカニズムの打破を強調するものであり、所有権制度の突破を強調する「民有経済」の方が意義は広い。しかし、民営経済を研究する殆どの人々が「民有」より「民営」のほうを好んでいる。これは、人々の観念における非常に敏感な部分に触れたくないからである。一部の人々の考えの深層では、「民有」が「私有」と殆ど同義で、そのいずれも「諸悪の源」と考えられている。

また、理論的には公有制を主体、国有経済を主導とする路線が一貫して主張されている。このような「主体」と「主導」の観点は、所有制に関する一種の非常に有害な先入観が込められている。資源配分における市場の基礎的な役割を認めた以上、公有制、非公有制のどれが主体であるのか、それは市場に任せるべきである。現在、わが国の経済体制における一つの際立った矛盾は、資源配分において市場が基礎的な役割を果たすようになった一方で、公有制の企業が主体的な地位に留まっていることから生じている。すなわち、国有経済は計画経済の産物であり、とりわけ大型国有企業の所有権メカニズムと制度は、市場メカニズムとの間に根本的な矛盾を持っている。しかし、民営経済は市場経済の産物である。もし市場が資源配分における基礎的な役割を維持するなら、民営経済の主体地位を認めなければならないのである。

一部の人々は、中国が社会主義国家である以上、公有制を強調することは、当然であると考えている。なぜなら国有企業が社会主義国家の経済基礎を成すからである。これもまた誤解の一つである。実は、あらゆる政権運営の経済基礎を成すのは、税収である。中国の制度移行は、ある意味で、国家の財政収入の主な源泉を政府による企業経営から、所有権保護を通じて得られた税収に変えるプロセスである。このプロセスが完成してはじめて民営経済の発展と国家の財政収入の増大との間に長期かつ安定した関係が生まれるのである。国家によって経済実体を直接に支配あるいは経営する方法は、短絡的かつ愚かなものである。

西洋には、社会主義には五十七種類が存在するが、そのどれが本物なのか分からないという言い方がある。確かに、社会主義は、一種の思想思潮であり、一つの波乱万丈の実践運動でもある。様々な社会主義には「公平」志向の「政策」を強調するという共通点がある。しかも、各国での実践からみると、その政策志向は分配政策に現れることが多い。言い換えれば、ミクロのレベルで効率が確保できた基礎の上に、マクロ(とりわけ再分配)政策において公平を重ねて求めるのである。すでに現在の世界においては、所有制を基準にして制度の優劣を判断する国は稀になっている。

伝統的観念における「公」の概念は中国の伝統的体制が持ってきた「官本位」の意識と関連している。これに対して、「私」は、「反君」、家族の排除であり、「上」、「官」に対する不敬と結び付けられる。つまり、「公有制」とは民衆の伝統的観念からすると「官有制」にほかならない。これはマルクスが言う「公有制」とは異なる概念である。もしわれわれが「公」を「公民」と理解するならば、民有、民営、民享の民営経済も「公」のものではなかろうか。

民営経済は世界各国の経済発展を強力に推し進めている。国家にせよ地域にせよ、国有経済の比率があまりにも大きすぎると、その経済が行き詰まることになる。国内、海外に関係なく、民営経済が発達するところでは、市場経済も発達する。国有企業が国民経済に占める割合は西側の先進諸国では普通5%、発展途上国では10%に留まるのに対して、中国では30%になっている。中国では、国有経済が三分の二の社会資源を利用しているのに対して、産出している付加価値は全体の三分の一に過ぎない。もし上述のデータに信憑性があるとすれば、中国の経済発展はまだ十分に発展の余地があることになる。この潜在力は、制度革新を通じて、より多くの社会資源を民営経済に委ねることで、より多くの雇用と富を創り出すことになろう。仮にわれわれが、三分の二の社会資源を民営経済に、そして三分の一の社会資源を国有経済に再配分すれば、中国のGDPは現在より50%増えることになる。第十六回党大会の報告では、これからの二十年間に、中国のGDPをさらに四倍に増大させることが目標とされている。これを実現するためには、多くの措置が採られなければならないが、最も重要なのは、より多くの社会資源を民営経済に委ねることによって、その活力を活かすことである。

二、法律の障碍

漸進的改革の特徴の一つは、新法と旧法が共存し、旧法が徐々に新法に移行することである。これまでの分析によって明らかにされたように、理論観念と指導思想が中途半端で未成熟であるため、こうした移行期における法律が民営経済の発展に様々な障碍をもたらしたのである。それは、まず民営経済の所有権に対する法的保護が欠けていること、そして民営経済の利益が法律で差別されていることである。

制度経済学は、所有権の経済成長における重要性を強調している。私有財産を保護する法律制度の整備は、民営経済の健全なる発展を保障する最も重要な要素と見なされている。私有財産保護については、憲法による保護が最高レベルのものである。「憲法」第一章第十二条の規定によると、社会主義における公共財産は「神聖不可侵」なものであり、国家は社会主義の公共財産を保護すると定められている。同時に、国は、国民の合法的収入、貯蓄、住宅及びその他の合法的財産の所有権を保護するとしか書いていない。こうした表現からは、公有財産と私有財産との地位の格差が理解できる。さらに、これに対応するように、「会社法」では、「会社における国有資産の所有権は国家にある」と定められている。しかし、自然人あるいは社会法人と国有企業が共同で経営している有限責任会社に対して、「会社法」では、自然人あるいは社会法人がその会社に投入した資産が彼らの所有であることを示さなかった。

経済学者樊綱は「中国財富報告」の中で、私有財産は中国の資産性財産のおよそ57%に当たることを指摘し、その大きさは、すでに国家と集体のそれを超えているという。新しい富を獲得した社会階層は、まず手に入れた財産がより安全であることをなによりも望んでいる。彼らは、自らの財産が、予測不可能な理由で奪われるのではないかと危惧している。従って、憲法のレベルで彼達が望んでいることは、あらゆる財産が何の差別も受けず、すなわち公有財産と同様に私有財産が取り扱われることである。言い換えれば、合法的手段で獲得した財産でさえあれば、すべて「神聖不可侵」なものでなければならないことである。

私有財産がきちんと保護されることは、法治を基礎とする市民社会の成長には有益である。公民と国家とは対等の立場にあり、契約関係によってお互いに制約し合っている。公民社会における公民の主体意識及び法治意識と、統制経済及び専制主義とは火と水のように全く相容れないものである。「憲法」、「民法」及び「中小企業促進法」の中で私有財産に対して保護することは、公民の個人権利をもって国家権利を制限する根本かつ前提であり、中国における公民社会の形成だけでなく未来の憲政・民主の建設にも重大な意義を持っている。従って、財産権は、決して金持ち達だけの権利ではなく、貧しい人々の権利でもある。

私有財産を保護する法律制度の整備においては、私有財産を権力者による侵害から保護することが最も肝心である。社会もしくは公共利益のために個人財産に対する徴収を求める背後には、常に特定の利益集団が見え隠れしている。多くの土地は徴収されると不動産業者によって商業的な開発をされるケースが非常に多い。私有財産に対する徴収は法律に定められた手続を厳格に守る必要があるが、実際には、権力が決定的な役割を果す場合が多い。個人の私有財産を徴収する場合は、現在施行されている法律による「合理的な補償」ではなく、それに対する完全な補償が必要である。

現在の中国社会によく見られる資本逃避及び民間投資の低迷といった現象は、私有財産を保護する法律制度の未整備と関係している。近年、盛んに外資が導入される一方で、国内資本が大量に海外に流出してしまっている。そして積極的な財政政策による内需の拡大が図られると同時に、巨額の民間資本(10兆元に及ぶ預金)が十分に利用されていないといった奇妙な現象を、われわれは目にしている。

私有財産に対する保障が不十分であると同時に、民営経済に関する法律の整備も遅れている。これは、「外資」企業の領域内では、(外部からの圧力もあって)比較的法律が整備されてきたことと対照的になっている。民営企業に関わる法律としては少数の個別の規定、例えば、「私営企業の暫定条例」などが存在しているが、こうした法律はただ一部の民営経済の組織と活動という細かい部分を対象にしているものである。所有制の調整という戦略的視点からは民営経済に対する立法の必要性についてまだ十分に認識されてはいない。

現在の法律規定において、民営企業は依然として差別を受ける不平等な状態が続いている。例えば、「企業所得税法」及び「個人所得税法」によると、民営企業の経営者は33%の企業所得税に加え、20%の個人所得税も払わなければならない。このような不合理な法律は徐々に改めるべきである。

三、政策の障碍

中国の民営経済が誕生した背景には、政策が柔軟に運用されるようになったことが大きい。しかし今日、民営経済は逆に多くの不適切な政策の被害者になりつつある。第十六回党大会の報告では、「国内民間資本の市場参入分野の拡大」、「各種の市場主体が生産要素を平等に使用できる環境の創出」が政策として打ち出された。しかし、市場参入と要素使用のいずれの面においても、民間資本は多くの政策面での障碍に直面している。それは主に以下のものからなっている。

1.土地使用の政策
土地は国家の所有であるが、国有企業、集体企業は事実上、土地の所有権を持っており、土地の賃貸収入は、こうした企業に帰属している。民営企業には土地の使用権がなく、土地を購入する際、高いコストを負担しなければならない。これに関連しているのは、資源税と資源の含み益の帰属問題である。多くの価値のある資源が国有企業によって運営されているが、それらの企業から資源税が徴収されることは殆どない。

2.市場参入政策
(1)企業を始めるための手続きは煩雑で、時間がかかるだけでなく、コストも高い。
(2)現在、民営経済はおよそ三十に及ぶ産業分野において何らかの参入規制を受けている。特に、国有企業によって独占されているインフラや基礎産業といった分野では、民営企業が多くの障碍に直面しており、投資できない状況になっている。
(3)金融、教育、観光、文化・スポーツ、衛生といった成長の見込まれるサービス分野に対する民営投資の参入が非常に難しく、業界における寡占体制が民営投資のこうした分野への参入を制限している。例えば、法律では、「あらゆる組織及び個人が営利を目的に、学校及びその他教育機関を創設することを禁止する」と定められている。その結果、民間資本によって作られた学校が自らの合法的な収益をもって投資資金を回収し、また再投資を通じて更なる発展を求めることが不可能となっている。
(4)自動車などの大型製造業の分野では、民営投資による市場参入の機会が少ない。政府と企業の癒着と数社の大企業による支配が民営資本の産業への参入を妨げている。民営資本による製造業に対する投資は非常に多いが、その投資先の殆どは、服飾、食品、玩具、日用品といった労働集約型及び資源集約型の伝統的な製造業分野に限られており、自動車、超大規模集積回路、民用衛星、民用飛行機といった資本及び技術集約型の大型製造業分野には、殆ど行き渡っていない。
(5)地方政府の産業政策も民営資本の社会サービス業への投資を妨げている。一部の地域では、観光、公共交通(タクシー)、建築、労働力輸出などの業界については、民営経済が平等で参加することが制限されている。また、一部の地域では、広告と印刷業でさえ民営経済に開放されていない。さらに、北京では、国有経済がすでに退場した業界でも、民営企業が過半数の株を持つ企業の参入が許可されていないのである。

3.融資
民営企業の直接及び間接融資のいずれも大きな困難に直面している。中国の民営経済が経済成長に与えた貢献と受けた金融支援との間には大きな格差がある。

近年、中国の資本市場は大いに発展し、株式、貸出、債券、投資信託、プロジェクト・ファイナンス、財政支援といった六つの融資方式及び数十の国内外にわたる外資融資のルートが形成された。しかし、短期貸出以外の融資ルートは民営経済に対して開放されているとは言い難い。国有経済と比べると、民営経済、とりわけ中小企業が融資を受けるチャンネルは限られている。受けたとしても、その規模が小さい上に、期限が短く、コストが高い。結局、各種の民営経済が持つ融資に対するニーズは殆ど満たされていない。これは、ほとんどの民営企業、特に民営工業企業が大きくならない理由の一つにもなっている。また、既存の金融サービスは資金に対する多様なニーズに対応できていない。

民営企業の多くは中小企業であり、その資本構造に対応した株式、債券と貸出市場の発展が必要である。しかし、株式融資、債券融資、外資の利用、政策融資、産業ファンド、プロジェクト融資といった融資の方式が民営経済のインフラ分野への参入を妨げている。さらに、民営中小企業の多くは、資金難という問題を抱えている。それを解決する唯一の方法は、金融業も民間資本に開放することしかない。

4.税負担
様々な名目によって徴収される税金が中小企業の発展にとって、一つの大きな負担となっている。張曙光教授の計算によると、民営企業の税負担は外資系企業よりおよそ5%も高くなっている。

5.労働力と専門人材の供給
現在、農村部の労働者が都市部で就職する際に様々な制限を受けている。都市部の中小企業は外来の労働者より高い賃金を払って現地の労働者を雇用しなければならない。さらに、戸籍、社会保障、肩書きといった伝統的人事制度の制約を受け、民営企業はなかなか高いレベルの人材を集めることができない。

6.対外貿易政策
政府は民営企業に対して、「世界に出よう」と呼びかけているが、実際、国際競争に参入するためには高いハードルを乗り越えなければならない。

7.国有企業に対する補助金とソフトな予算制約も、民営企業との不公正な競争をもたらしている。銀行の不良債権の処理に当たり、国有企業は「債務の株式化」により、百億元単位に上る利息が(実質的に)免除された。また、株式市場では国有企業が依然として上場企業の95%を占めている。

四、行政の障碍

民営経済が直面している困難は常に過小評価される傾向がある。なぜなら、こうした難しい状況は、決して法律上の制限と差別によるものだけではないからである。民営経済の弱い立場はまた、伝統計画経済体制およびそれに対応する権力構造にも由来している。もしこうした権力構造が変わらない限り、民間経済の発展は当然制限されるであろう。現在、中国の経済発展を主導する権力構成において、政府と国有経済は依然として存在が大きく、しかもお互いに支え合っている。

まずは政府のサービス及び法律の実施が不確実である。仮に国有企業が裁判で敗訴しても、執行されない場合もあるが、民営企業の場合は、少しの猶予の余地も残されていない。また税金未払いに関しても、国有企業の場合はそれほど問題にならないのに、民営企業の場合、その責任者が逮捕される。例えば、牟其中の「蘭徳公司」が破産した際、従業員宿舎は競売にかけられ、従業員全員が行き場を失ったのに対して、国有企業の場合、そのような扱いはない。もう一つの例は、「見せしめキャンペーン」という現象である。女優である劉暁慶が脱税で逮捕された後、中国国内の金持ち達の殆どが税金に関する「抜き打ち検査」を受けた。さらに、各種の政治色の強いキャンペーンにおいても、取り締まりの対象の殆どは民営企業に限られる。「インターネット・カフェ」はその最も典型的な例である。

次の問題は、地域分割と地域保護主義である。一部の地域では、地元の国有企業を保護するために、同じ地域での民営企業による競争、あるいは外部からの企業の参入を制限したり、業績の良い地元の中小企業が売り出される際、わざわざ他の地域からの民営企業、そして外国の企業を買手から排除したりしている。さらに一部の地域と政府機関では、法律が完全に無視され、不正取引を通じた権力によるレントシーキングの現象と、さらに民営経済の投資権益を深刻に侵害する現象が頻繁に発生している。

第三の問題は、官僚主義が民営企業の成長環境を妨害していることである。一部の地域では、地方政府が民営企業に要員を派遣したり、また別の地域では、民営企業に対して、いくつかのノルマを与えたりしている。さらに、一部の地域では、地方政府が自らの条件を無視し、ひたすら民営企業の規模の拡大、あるいは技術と製品の高度化を求めようとしている。その上、一部の地域では、現地の政府によって、民営企業に対し家族経営の方式を放棄させられ、その代わりに所有と経営の分離が求められている。計画経済の面影を強く残ったこうしたやりかたは、悲惨な結果を招くことが非常に多い。

第四の問題は、投資環境の悪化であり、政府が役割を十分果していないことである。
(1)一部の地域では、経済詐欺と債務の不払いが頻発し、その結果、民営中小企業の投資、経営、発展に支障が生じてしまった。とりわけ、地方の保護主義などの要因のため、模倣製品の生産といった不法行為に対する中央政府からの有効な措置がとれなくなっている。
(2)投資の収益権がたびたび侵害されている。制度の不備によって、一部の地方政府による法的根拠のない徴収が頻繁に行われている。そのような費用は民営企業の税負担のおよそ半分に相当すると推計される。
(3)投資経営契約の履行が非常に困難である。民営企業に対する投資経営政策は安定性に欠け、場合によっては、政府の担当者が変わるたびに、政策も変化してしまう。
(4)投資者の所有権の安全性、完全性と独立性が保障されていない。この現象は、民営企業が国有企業を買収する場合、そして「紅帽」企業(本来は民営企業だが、集団企業の形式をとる企業)が所有権の改革を行う際、特に顕著である。

五、社会の障碍

社会の障碍は上述した各要因を総合的に反映しているだけではなく、また民営経済の発展にとって、中国個別の事情を反映しているとともに、最も現実的な障害ともなっている。各地域の民営経済が直面する社会環境を比較すると、われわれはこうした現実に気づくことになる。すなわち、民営経済の発展は社会環境と地域歴史文化の蓄積に加え、各地域各企業の自らの文化建設の度合いにも関係している。現在、民営経済の発展に影響する社会要因の中では、社会心理、社会風習、社会治安、社会道徳、そして社会秩序などの問題が最も際立っている。

近年、企業改革の深化と失業労働者の増加に伴って、労資の対立がますます問題化しており、また、一部のメディアによって民営企業家の「原始資本蓄積」に伴う「原罪」が暴露された。こうした中、民営企業家に対する批判が高まっている。今でも、様々な偏見や制限に直面している民営企業の経営者達は、やむをえず地方の行政管理機構との間に緊密な関係を築き、そして、賄賂などの不正手段による経営活動を展開せざるを得ない。これは、市場の競争秩序を破壊するだけではなく、資源配分の体制を歪め、官僚の腐敗をもたらしている。その結果、新たな官と商の癒着及び不公正の発生という問題が生まれ、民営企業は更なる不安定な政治リスクに直面せざるを得ない。

中国の中西部及び東北部における民営企業の後発地域では、社会治安が乱れており、民営企業の財産が奪われるといった違法行為も頻発している。一部の民営企業の経営者及びその家族の人身の安全が暴力団に脅かされる中、多くの企業はやむをえず大量のガードマンを雇わなければならない。

社会道徳が乱れ、信用が維持されず、市場秩序が破壊された結果、絶対多数の民営企業がその被害を受けている。交換の前提は所有権が公認されることであり、それには詐欺や力関係ではなく、むしろ理性と誠信が欠かせないのである。なぜ中国の民営企業、とりわけ郷鎮の民営企業が成長できないのか。それは、取引過程におけるモラルバザードの問題がそのネックとなっているからである。

NGO・NPOの未整備は、民営企業の発展を妨げる、深層にある障碍である。業界団体、商会、協会などの非政府組織は中小企業の競争力を向上させるために欠かせない存在であるだけでなく、国家が公民社会と成熟した市場経済となった重要な証明でもある。民営企業、特に中小企業にとって、市場分析、コンサルティング、企業診断、技術支援、商談、人材教育などを行うサービス機構の設立は、必要である。しかし、機構改革を経て生まれた多くの国家レベルの協会は、基本的に政府組織という性格から抜け出られていない。今後、民営経済の発展に伴って、業界団体、協会、商会、公会、学会、農会などといったNGO・NPOの育成は、ますます急務となるであろう。

2003年6月9日掲載

出所

中評網

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