Special Report

サービス産業の生産性の計測:現状と課題

1. はじめに:生産性計測の現状

国内の景気動向について観察する時も、経済成長を国際比較する際にも、生産性は主要な経済指標として用いられている。 同時に生産性は非常に身近な言葉で、日常的にも個人の仕事ぶりや家事、レジャー活動の際に生産性という言葉を使う。たとえば、新たな電化製品の導入や作業の工程を工夫することにより、家事が時間短縮された時、渋滞を避け予定より速く目的地に到達できた時などはその生産性(効率性)の高さを喜ぶ。また研修や勉強により新たなスキルを身につけ、仕事の効率が上がり、収入アップしたときも自身の生産性の上昇を認識する。

国や産業、企業において生産性を議論する際には、技術進歩(technological progress)が中心となる。技術進歩には生産に必要な材料の投入量、コストや時間を削減するものと、革新的で生産品の価値(価格)を一気に何倍にも高め、企業の増収増益に大きく貢献するものが考えられる。技術開発を伴う生産性の向上が期待されるのは、それが成長の源泉であると同時に、それなしには持続的な経済成長が困難だからである。この時、頭に浮かぶのは自動車、家電製品、パソコンなどの製造業の製品開発などであろう。

経済学において、生産性の計測に関する研究は、長期に渡り製造業中心であった。わが国も、製造業を中心に「ものづくり」において技術力が高い国という印象を国内外問わず持たれており、製造業の生産性、技術力の成長力が源泉と考えられてきた。

しかし近年のわが国は、GDPベースで計ると、非製造業が70%以上を占め、その中でもサービス業(注1)はGDPシェアの20%を超え(運輸、卸売・小売業を含めると45%以上)、2000年以降は製造業のシェアを上回っている(注2)。対GDPシェアを見ても明らかな様に、すでに製造業のみで経済全体の活動を説明できる時代ではなく、非製造業の技術構造を明らかにし、それに基づく理論・統計モデルを用いた生産性計測を行う必要がある。特にサービス産業は経済活動にとっても労働市場の大きさからも非常に重要な業種であるにも関らず、データの入手困難さや主要産業と認識されなかった経緯から先行研究は稀少で、供給、需要構造とも明らかではない。

わが国ではここ数年でサービス産業が注目を集める様になったが、理由は皮肉にもその生産性の低さであった。2005年のOECD加盟国の労働生産性比較において、日本は30カ国中20位で、一方、製造業に限定すれば6位であった。これにより、サービス産業の低迷が生産性の上昇の足かせになっていると捉えられる様になった。2012年の結果においても、全産業ではOECD34カ国中21位でOECD主要7カ国の中で最下位であったが、製造業は全体で7位(2012年)であった(注3)。

ここで着目すべきは、サービス産業の生産性の定義である。国際比較、官公庁レポート、既存研究においても、多くが労働者1人当たりの売上高や付加価値で測られた「労働生産性」を生産性の指標としている。

労働以外の投入要素の影響を考慮した生産性の指標として、全要素生産(Total Factor Productivity、以下TFP)がある。投入要素とは、労働者数、資本(機械や設備)、原材料、エネルギーなど生産に必要な全ての要素である。この手法は1950年代後半から幅広い産業に対し、国際的に使われている指標で、TFPは労働生産性よりも生産活動の実態を反映した指標として、製造業を対象として理論・実証研究で用いられている。

サービス産業においても労働生産性よりは、TFPを使用した方が望ましい。しかし、前述のように長く経済学で主要産業と認識されなかった経緯と、製造業と比較して各事業所の規模が小さく、詳細な(特に機械や設備の)調査項目の回収が困難と考えられ、統計データの整備が遅れているのが現状である。

周知の様に、サービス産業は業種が多岐に渡り、労働集約的な産業もあれば、通信や運輸サービスなど資本(機械や設備など)集約的な産業も存在するため、必ずしも上述のような労働生産性が適切な生産性指標とはいえない。

小西・西山(2009) (4)では、東証一部上場企業(注4)に限定して各企業のサービス部門(注5)の情報をサービス産業の業種ごとに集計することによって、労働生産性とTFPを計測した。両指標を比較することによって労働生産性が生産性の指標として妥当であるのかを検証した。表1は各業種の両指標の相関係数である。2007年の不動産業を除いて両指標は正の相関があった。もしも、労働生産性とTFPの相関が高い(両指標の平均的な挙動が似ている)なら、TFPに含まれている資本の影響が無視できる程小さいといえる。つまり、当該業種の生産活動では、機械や設備への依存度が少ないと考えられるので、労働生産性を生産性の一次近似として捉えても構わないであろう。しかしTFPとの相関が低い場合には、労働生産性とTFPでは増減の挙動が統計的に異なることを意味し、サービス産業の生産活動にも製造業と同様に資本(機械や施設など)の影響を考慮した生産性計測が望ましいと解釈できる。

表1:労働生産性とTFPの相関係数の推移(注6
運輸卸売小売不動産飲食・宿泊
20010.930.210.900.880.86
20020.670.710.120.620.88
20030.270.390.210.740.50
20040.390.730.800.120.79
20050.660.720.610.440.97
20060.290.480.790.390.84
20070.540.420.74-0.010.49
20080.140.460.750.540.86

以上は、既存の手法についての議論である。TFPでは、インプットの投入量が変化しないのに総生産量が増加した場合、「生産性が上がった」と解釈される。つまり投入要素の質の向上、技術進歩、効率性、発明など、インプットの投入量以外の全ての変化を含むこととなる。また、データを使って計測されたTFPには、好景気、不景気、大きな事故、異常気象など事前には予測が不可能な事象も含まれる。加えて研究者や他者には見えない各企業の現場で起きる事故や需要ショックも含まれる。よって、バイアスを取り除いて、生産性を正しく取り出すことが重要である(Konishi and Nishiyama (2013) (5)参照)。

またサービス産業において資本のデータが整備され、バイアスを除去したTFP計測ができたとしても、製造業を想定して開発された既存の指標をそのまま応用するのは適切なのかは、簡単にはわからない。以降で、サービス産業の特徴を捉えながら、どの様な課題があるのかを議論する。

2. サービス産業の生産性計測の難しさ

サービス産業の生産性は以下の2つの計測上の難しさがある。

1) データ(特に資本ストック)が十分に存在しないため、TFPの計測ができない。
2) 業種が多種多様なためTFPの適用が妥当でない。

1)については、製造業と似た構造を持つ業種について、統計調査の拡充をすることによって解決できるだろう。しかし、製造業においても実証研究では計測されたTFPに生産性や技術進歩以外の物が含まれてしまうという問題が起きる。その要因の1つは、理論上は企業の生産活動のみを表し、各変数に数量データを想定するのに対し、計測に用いるのは金額ベースのデータが多いため、市場で決定される価格情報を含み、需要要因が含まれることに依る。また稼働率や在庫などのデータが入手できない時もバイアス要因となる。この点がTFP実証分析における難しさで、需要要因が含まれていると、TFPが変動した時に、生産性と需要ショックのどちらの影響か識別することができない。これでは企業にとっては投資行動、国にとっては政策を正しく実施することができない。需要と供給の識別は、提供と消費が同時に起こることが多いサービス産業にとってより深刻な問題になることは明らかである。森川(2014) (6)はこの種の問題を解決すべく各種サービス産業のTFPを数量データで計測し、当該事業所が直面する需要要因をコントロールすることで生産性の計測を行っている(注7)。

一方、2)のTFPでは生産性を記述できない業種には、TFPに代替する生産性を新たに定式化する必要がある。サービスの多くは提供と消費が同時に行われるため、製造業よりも需要の影響が大きいという特徴があり、TFPの計測では純粋な技術力に基づく生産性を識別することができない。さらに業態が多種多様であることより付加価値の源泉がわかりにくい。

貨物輸送業について考えてみよう。輸送業の生産性を考える上で、物を運ぶというサービスが何を付加価値として生み出すのかを始点とする。トラックの性能、ガソリンの質、道路整備状況などをコントロールすれば、輸送企業はドライバーの運転技術(経路選択を含む)、積替え時間や、倉庫や配送センターの配置などのロジスティックなどを組み合わせて、生産性を向上させると考えられる。また製造業と異なり、輸送サービスでは時間が重要な投入要素となり、荷主(需要側)の要望に応えて運ばなければならない。私たちは、荷物が何日で届いたかは気にするが、居間のテレビがどれくらいの期間で生産されたのかを気にしないし、それで質や性能の違いを認識しない。「時間」が輸送サービスの技術および消費者の満足にとって非常に重要な要素となるのである。理論モデルでは輸送業者の生産関数と荷主の需要関数(または効用関数)の両者を構造的に定式化して生産性を識別する必要がある(Konishi, Mun, Nishiyama and Sung (2013) (7) 参照)。

また別の例としてKonishi and Nishiyama (2010) (8)の美容業の例を紹介しよう。美容業の付加価値は、来た時よりも見た目がよくなっていることとする。ヘアカットなどの技術が向上すると所要時間は短くなり、結果として単位時間あたりのサービスの質が高くなるので顧客の満足度は増え、再来店の確率が高まる。また、美容師の生産性が上昇するので店の売り上げも上がる。この研究では、美容師のカットの標準時間を投入要素とする生産関数と顧客の来店行動を同時に説明する需給一体型の構造モデルによって、生産性を識別する。実証結果では、各美容師は経験年数の蓄積により、最大提供量(キャパシティ)が増加し、その生産性の上昇が観察された。この手法は、時間がサービスの生産性や質、また顧客の満足度に関係があるエステ業、レストラン業、医療クリニック、法律事務所、IT産業のシステム構築などに応用可能である。

サービス産業の生産性や技術力の観察には、日々の最大提供量や標準時間の入手が重要である。しかし通常は、最大提供量と実際の提供量の小さい方が観察される。たとえば、営業時間中に20人をヘアカットできる美容師がいて、来客が4人の場合でも、1人に2時間かけたりはしない。しかし来客4人という情報しか分析者には見えず、それを以て、1日に4人しかカットができないとするのは、明らかに技術の過小評価である。実際はどれくらいの時間でカットができるか、または何人切れるのかの情報があって初めて、需要に影響を受けない生産性の計測が可能となる。よって、標準時間の計測や、入店を断った日の提供量などのキャパシティの情報収集が求められる。

サービス産業の技術力や生産性を計測するためには、各業種がどの様なサービスや財の提供の構造を持っていて、どの様な付加価値を生み出しているかを定義することが先決である。その上で需給両方のデータを収集して実証分析を行う必要がある。

3. サービス産業の特徴と製造業が学ぶこと

サービス産業の中でも以下の特徴を持つ業種は、計測されたTFPから需要要因を取り除くのがより難しくなるため、前述の様に独自の指標の開発が必要となる。

1) 同時性(提供と消費が同時)
2) 不可分性(一部分を受け取ることができない。また消費の場所と提供の場所が同じ。)
3) 消失性(在庫が持てない。目に見えない。)

そしてこれらの3つの特徴により、サービス産業は国内産業で地域密着型の企業が多い。よって、サービス産業では国内にある工場などの生産拠点が海外に移転して、産業競争力や生産能力が衰退する産業の空洞化が起きにくいと考えられる。製造業で問題となる産業の空洞化が、サービス産業で起きにくいのは、まずサービス提供のプロセスをシェアすること、まとめること、分解することが難しいからである。次に、顧客満足度は主観的な好みと従業員ごとに異なるサービスの質や技術に依存しているため、企業は地域の好みを探るためのコストや従業員のための教育や研修コストを支払わなければならないからである。

これらにより、サービス産業は分割してアウトソーシングしにくく、よって生産コストが低いところであればどこにでも進出できるという訳ではない。実際、「製造業のサービス化」という言葉がよく聞かれる様に、製造業についても付加価値の大部分が販売、レンタル業、アフターサービスなどの非製造部門によって得られるケースが増えている。それを、本来業務から離れたコストの増大と捉えるか、産業の空洞化のスピードを遅らせるだけでなく、新たな付加価値、差別化や競争力を得ることができる契機とするかによって、企業の価値が変わってくるであろう。

4. おわりに

安倍政権下の成長戦略の中で、サービス産業の生産性向上は重要課題として位置づけられており、その注目度は益々高まっている。なぜ注目されているかというと、冒頭で紹介した様に、日本のサービス産業の生産性が国際比較で低いという結果が続いているからである。そして、なぜサービス産業を対象とした研究が増えてきているかは、その事実に「日本のサービスは生産性が低いのか? バラエティや質は高いのではないのか?」という疑問が湧くからある。

私はサービス産業の生産性の計測には、供給側だけでなく、需要側の情報も使うことが重要であるとの知見を得た。既存研究の様に、企業(供給)側の情報のみで生産性を計測すると、以下の問題が起こる。

1) 激戦区か過疎地に立地しているかなど、市場規模によって生産性が変動してしまう。
2) 他企業での購買行動が観察されないため、正確な生産性が測れない。

また、サービス産業では、生産性という言葉が意味するものが、技術、クオリティ、バラエティ、満足度など、主観と客観が混在した複合体になっている可能性がある。それら1つ1つを取り出すのは困難だが、顧客を満足させ、再来店や再購入を促す要因として複合的な生産性を取り出すことは可能と考えている。

今後の課題として、サービス産業の生産性を計測するには、消費者に関するビッグデータを利用する意義は大きい。また、企業のビッグデータは、経営業務に活かすために収集されており、分析のために収集される訳ではないので、収集・加工に工夫が求められる。たとえば、サービス提供時間、予約状況、満席状況など営業活動の全てを記録する様なデータがあれば、生産性計測に有用だろう。

データ収集や蓄積の効率化のためにも、私たち研究者や政策立案者が仮説を設定し理論や手法の開発を進めることによって、どの様なデータが必要かを明らかにすることが重要である。そうすれば、ビッグデータの収集に明確な利用目的が加わり、生産性だけでなく、さまざまな経済事象の分析に役立つだろう。

内閣総理大臣賞・各省大臣賞である「日本サービス大賞」が創設されたことにより、サービス評価のための共通尺度の作成、見える化を進める必要が出てきた。この追い風にのり、統計データ整備が進み、この分野の参加者が増え研究が一層進むことを期待する。

2015年11月20日
脚注
  1. ^ 本レポートでは、サービス業と記述する場合は狭義のサービス業を表し、日本標準産業分類(第13回改訂)の大分類L~Rに属する業種を指す。広義のサービス業は第三次産業を表し、サービス産業と記述する。日本標準産業分類については総務省HPを参照のこと(1)。
  2. ^ 労働市場においてもサービス業は1990年代以降増加傾向で2012年ではそのシェアは約35%、一方製造業は、1990年代以降減少傾向が続き、2012年では約17%となっている。『国民経済計算』(2)を用いて算出。
  3. ^ OECD諸国の産業比較および国際比較に関するレポートは、日本生産性本部HPの『日本の生産性動向』(3)の「3。労働生産性の国際比較」を参照。
  4. ^ 上場企業であれば、『有価証券報告書』の情報によりTFPの算出に必要なデータが入手できる。
  5. ^ 部門データを用いることにより、主産業がサービス産業である企業のみでなく、たとえば製造業のサービス部門(小売、不動産、金融など)もサンプルに取り込むことができ、業種分類に縛られずより実際の産業構成に近い分析が可能となる。
  6. ^ 小西・西山 (2009)より抜粋。
  7. ^ サービス産業のみならず製造業との比較も行っており、わが国の生産性の実証分析が網羅されている。
文献

2015年11月20日掲載

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