Special Report

緊急レポート:戦略的外交を迫られる日韓───米国のイラク派兵要請を巡って

YOO, Michael
リサーチアソシエイト

日本列島が阪神タイガースの優勝で沸いている間、韓国ではイラク問題についての熱い論争が連日続いている。論争の中心は、アメリカが要請したイラク派兵問題だ。9月15日時点での報道によれば、アメリカは公式・非公式のラインを通じ、韓国政府に対して約1万人余の戦闘兵力の派遣を要請したということだ。ベトナム戦争当時5万人余の戦闘兵と支援兵を派遣した経験を持つ韓国は、現在アメリカの要請に対してどのように応えるかを巡って論争を繰り広げている。

発足当時から反米的性向が強いことで知られている盧武鉉政権は、具体的な返事を延ばしながら、派兵の可否を国民の意思によって決めるという原則的対応に終始している。アメリカの一部メディアでは、もし韓国がアメリカの要請に応じない場合、現在休戦ライン上に配置された1万5千人の米第2師団をイラクに回す可能性があるとの報道がなされた。韓国の立場からすれば、今回の派兵問題は朝鮮戦争以降50年間にわたり同盟関係を築き上げてきたアメリカとの関係をAll or Nothingにしかねない難題として浮び上がってきたわけだ。韓国政府は、アメリカとの対話を通し、派兵の規模と性格を議論すると言っているが、現在、具体的に論議されている選択肢は大きく三つにまとめられるだろう。

韓国で論議される3つの選択肢

第一は、派兵自体を拒否することである。韓国政府はアメリカが行っているイラク戦争について決して肯定的な反応を見せなかった。600人余の支援兵を派兵したものの、これは決して、アメリカを支持した上での決定ではなかったのである。派兵拒否は、韓国政府が主張する「正々堂々とした対米関係」と、反米を主張する若者の考えに符合するものであり、国内政治的側面では有利だ。しかし、国際政治的側面では多くのことを失う以外にない。

第二は、条件付き派兵である。派兵の数を1万人単位ではなく数千人に減らし、兵士も戦闘兵ではなく支援兵とする。また、韓国軍を国連軍の指揮下に置き、その管轄地域も非危険地域にするという条件付きで、派兵するという考えだ。条件付き派兵は合理的な考えのように見えるが、二つの点で限界を持っている。アメリカはイラク派兵を一日でも早く推進するという意志を見せているし、1万人単位の派兵が受け入れられない場合、足りない部分を米第2師団で補おうとする考えがあるからだ。アメリカが韓国戦線を支えている主力地上軍である第2師団をイラクに回すというのは、朝鮮半島から米軍が撤収するということを意味する。ワシントンの中には、朝鮮戦争当時に3万5千人余の米兵が韓国で死亡したにもかかわらず、韓国が同盟国の要請に応じない場合、すべての関係を切るべきだとする考えも存在している。韓国政府が条件付き主張を行う余地はあまりにも狭い。

結局、三番目に考えられるのは、アメリカの要求に応じることだ。驚くべきことに、盧武鉉政権はその反米志向にもかかわらず、アメリカの要求に全面的に応じる可能性が高いと予想されている。その理由は、米韓の同盟国としての義務や友情のためではない。北朝鮮問題のためだ。韓国政府はアメリカの反北朝鮮政策に対して否定的な考えを持って来た。アメリカが先に北朝鮮に対して平和的メッセージを送ることにより、北朝鮮が核をあきらめるだろうというのが、韓国政府の認識だ。核問題の透明性より、北朝鮮開放と経済支援の方が先だということだ。韓国政府は1万人の派兵問題を通じて米韓同盟関係だけではなく、米朝関係の改善を視野に入れている。

つまり、「戦闘兵1万人派兵=北朝鮮に対する宥和政策」である。ワシントンが韓国政府の考えに対して具体的にどのように対応するのかは、まだ分からない。しかし1万人派兵に対する代価が北朝鮮に対する一時的な宥和政策である場合、ワシントンが受け入れない理由はないだろうというのが一般的な予測だ。すなわち、韓国が1万人の戦闘兵派兵を決めた場合には、11月初めに予定されている第2次6者会談で北朝鮮の主張をまず取り上げる可能性が高くなる。順番的には、平和条約締結やアメリカの対北朝鮮への強硬政策緩和が先となり、核問題の透明性保障が次に来るというのが6者会談の新しい見通しとなるだろう。

北東アジアの外交・軍事面に重大なインパクトをもたらす米国の要請

不思議なことは、韓国で論議されている派兵問題が日本ではまったく報道されず、議論もされていないということである。米政府は9月初めにパキスタンやトルコを含めた全世界の10あまりの国々に対し、イラク派兵を要請した。日本はアメリカが派兵を要請した諸国の中でも、もっとも重要な同盟国である。ワシントンは日本で派兵問題がまだ議論されていない理由が自民党総裁選挙と関連があると見ている。自民党に負担を負わせることになるイラク派兵問題を急いで議論しない方が良いというのが日本政界の立場だと、ワシントンは考えている。しかしアメリカがイラク派兵を急ぎ、積極的に動いているなかで、この問題が日本政局のホットイシューとして登場することは必至だ。もし韓国が1万人の派兵を決めたとすると、日本に対しては韓国以上の負担が迫られることになる。日本が1千人余の非戦闘員のイラク派兵を決定した際にあげられた根拠の一つは、「韓国が660人余を送るのだから、日本は1千人位を送るのが良い」というものであった。しかし軍事力の面で自衛隊が果たせる役割に限界があるという点で、日本のアメリカに対する支援は「人」ではなく、「金」になる可能性が高い。ワシントンの一部ではもう金銭的支援の規模が100億ドル程度にまで及ぶという予測すら出ている。イラク派兵をめぐる日本の動きは、10月中旬APEC会談を控えて東京に立ち寄るブッシュ大統領の訪日を前後にして、具体的に現われることになるだろう。

イラク派兵問題を巡るアメリカの必死の要請が、北東アジアに関する外交・軍事面での論議をこれまでとは全く違う方向に導くことは明らかである。イラク派兵問題について一貫して沈黙している日本と、朝鮮半島の緊張緩和を条件として動いている韓国。今、両国は重大な決断を迫られている。

2003年9月18日

2003年9月18日掲載

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