概要
インド経済は1991年に貿易自由化、国内規制緩和、そして公共部門の民営化という継続的な改革プロセスに入った。それ以降、一人当たりGDPは大幅に増加し、失業率も全体として安定的に推移している。しかし労働参加率は急激に低下し、女性については2020年以降回復傾向にあるものの、若年層の失業率は依然として高水準にある。労働力の大半はインフォーマルセクターにとどまり、農業から他部門への労働力移動は緩慢で、農村部や工場で働く未熟練労働者の賃金に持続的な上昇を示すエビデンスはほとんど見られない。
主な研究結果
インド労働市場の強さ
- 現在の1人当たりの実質GDPは1991年比で約4.5倍、就業者1人当たりの実質GDPは約3.7倍に達している
- 1991年以降の失業率はほぼ一貫して8%未満を維持
- 現在、農業分野の労働力の割合は全体の45%未満、GDPへの寄与は約16%であり、1991年の60%超と約30%からそれぞれ大幅に減少している
インド労働市場の弱さ
- 若年層(15~24歳)の失業率は当該期間を通じ概ね20%超で推移しており、高学歴の若者ほど失業率が高い傾向にある
- 若年層の男女ともに2005年以降に労働参加率が急激に低下。女性の労働参加率は対男性比で一時低下したものの、2020年以降は回復
- 農業分野における就業者1人当たりの生産量は、経済全体の平均の40%未満に低下。一方で労働力の40%以上が依然としてこれらの分野に従事している
- 労働力の約90%が雇用保障や法制度の保護がないインフォーマルセクターに集中し、定期的な賃金・給与所得者は約25%にとどまる
- 1990~2022年の期間、組織化された製造業の純付加価値における賃金比率が約26%から約16%へ低下する一方、利益は約22%から約52%へ上昇した
筆者からのメッセージ
過去35年間、インド経済はGDP成長率や労働者1人当たりの生産量の面で良好な成果を示してきた。経済構造にも顕著な変化が見られ、総生産に占める農業の比重は大幅に低下し、労働力の約20%が農業から他分野へ移動した。失業率は全体的には比較的穏やかに推移している一方、若年層の労働参加率は大幅に低下し、特に高学歴層で失業率が高止まりしている。雇用の質は依然として懸念事項であり、労働力の大半は雇用保障や収入の安定性、法的保護を欠くインフォーマルセクターに集中している。また、組織化された製造業における付加価値に占める賃金比率は劇的に低下した。加えて、農業分野における労働者1人当たりの生産量は他部門に比べ極めて低水準かつ低下傾向にあるにもかかわらず、いまだ労働力の5分の2以上が農業に従事していることは深刻な課題である。
本稿は、2025年10月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。