概要
個人の特権や不利な状況は、単一の社会的アイデンティティによって決まるわけではない。性別による分業は女性と男性それぞれの労働供給、参入する産業や職業、収入や昇進に影響を与えるが、(階級や年齢同様に)人種、民族、あるいは性的にマイノリティであることも、雇用機会に影響を及ぼす。研究によると、マイノリティ女性の経験は、性別の影響とマイノリティであることの双方の影響を受けており、独自のものであるが、性別の影響がマイノリティであることの影響に先行する傾向が示されている。

主な研究結果
評価できる点
- 労働市場における個人の地位は、性別、人種・民族、出身地、性的指向、年齢、階級などの社会的カテゴリーが複雑に絡み合った結果として形成される
- 自国出身の白人女性とマイノリティ女性の賃金格差は、男性同士の格差よりも小さい傾向にある
- 米国、ブラジル、南アフリカの黒人女性に見られるように、職業的な分離は一部のマイノリティ女性の賃金に特に深刻な影響を及ぼす
- 性別のあり方は人種によって、人種のあり方は性別によって影響を受ける
- 男女格差の是正には、多数派の女性とマイノリティ女性に対して異なる介入策が必要となる場合がある
注意すべき点
- 人種・民族グループは国ごとに異なるため、比較分析は複雑になる
- 男女格差の交差性に関する研究は、主に米国で賃金に焦点を当て、行われてきた
- 複数(2軸以上)の不利な要因が重なる場合の労働成果については、実証的エビデンスが不十分である
- 米国以外の多くの労働市場データには、マイノリティ集団を識別するための情報が含まれていない
- 一部のマイノリティ集団については、サンプルサイズの制約が存在する
筆者からのメッセージ
多くの国において、学歴や職務経験など賃金に関連する特性を考慮しても、女性の平均賃金は男性を下回る。しかし、女性と男性はそれぞれ同質の集団ではない。人種・民族的、あるいは性的マイノリティの女性の経験は、多数派の女性やマイノリティの男性とは異なっている。それは、程度の異なる差別や特権に直面している、あるいは労働に関連する特性自体が異なるためである。また、年齢や社会階級も労働の成果に影響を及ぼす。したがって効果的な政策対応には、集団内の多様性を考慮することが求められる。
本稿は、2025年7月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。