概要
複数の仕事を掛け持ちする「副業」は、多くの国で非正規雇用の重要な収入源となっている。デジタル化に後押しされ、新しいワーキングスタイルは今後も拡大していく可能性があるが、多くの誤解もみられる。例えば、主に経済的な理由で低スキルの個人のみが副業をしているとか、不景気の時に副業する傾向が増えるというなどの思い込みである。最近の文献では、複数の仕事を持つことで労働者のスキルが向上し、起業家精神に刺激を与えるなど、副業と雇用の流動性の間に強い関連性がみられることが明らかになってきている。
主な研究結果
副業のプラス面
- 特に労働者の本業の就労時間や収入面に制約がある場合、複数の仕事を持つことで手取り収入の増加や経済的安定の確保が期待できる。
- 副業することによって仕事上のタスクのバリエーションが増えれば、モチベーションが上がり、仕事への満足度が高まる。
- 新たなスキルの習得を促進する。
- 将来の転職やキャリアの見通しに良い影響がある。
- 起業家精神が育まれ、労働者のスキルにより適した仕事に出会うきっかけとなり得る。
副業のマイナス面
- 不当な労働条件や無計画な労働時間、社会保険未加入など、劣悪な雇用環境のリスクがある。
- 労働災害と非労働災害両方のリスクが高まる。
- 心身の健康(ウェルビーイング)への悪影響やアイデンティティの葛藤をもたらす恐れがある。
- 特に子どもを持つ人にとって、ワークライフバランスが損なわれる可能性がある。
- 組織に対するコミットメント低下の要因となり得る。
著者からのメッセージ
本業以外の仕事を持つことは、労働者の本業の就労時間や収入が不十分の場合に、望ましい生活水準の維持に役立つ。また副業で身につけたスキルがその後の転職(自営業への移行を含む)につながる可能性がある一方、副業により肉体的・精神的負担が増え、全体的な仕事の質が低下する恐れもある。そのため副業関連の政策には、法律を無視するような劣悪な労働条件から立場の弱い労働者を守る保護的役割が求められ、かつ労働市場の流動性や起業家精神をさらに高める戦略的役割も期待される。
本稿は、2023年12月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。