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組織における上司の信頼の重要性
従業員が上司を信頼できれば、企業は現場の意思決定を従業員に委任でき、生産性と収益性がともに向上する

Kieron MEAGHER
オーストラリア国立大学

Andrew WAIT
シドニー大学

概要

フォーマルな雇用契約では、従業員がいつ何を行うべきかのすべてを詳細に規定することはできない。インフォーマルな関係、特に上司と部下の信頼関係によって、上司はより生産的な方法で業務を調整できる。信頼性の高い企業は収益性も高く、成長も速い。例えば、上司が信頼されている場合は、上司は従業員が約束された報酬を信じるという自信を持って、従業員に決定を委任することができる。多くの場合、従業員は上司よりも(現場の)情報を持っているため、これは重要である。その結果、フォーマルな雇用契約だけに依存する企業は、利益を得る機会を逃すことになる。

従業員が上司を信頼する(あるいは、しない)場合の意思決定権限の分散化

主な研究結果

信頼のある組織のプラス面
  • フォーマルな雇用契約は不完全であるため、このギャップを埋めるためにはインフォーマルな契約が必要となる。インフォーマルな契約とは、マネジメントと従業員の双方向の信頼に基づくものである。
  • 信頼は、従業員と上司との個人的な関係、上司の評判、社会規範から生まれる。
  • 信頼により、より効果的なタスクの割当てと組織構造が可能になり、企業は従業員の知識とスキルをより効果的に活用できるようになり、収益性が向上する。
  • 製品市場での競争は、企業の生産性向上を促すため、組織内のより高い信頼を生み出す可能性がある。
マイナス面
  • 上司は、経営が厳しい時期に過去の約束を守ることが難しくなるため、市場の低迷時には信頼が失墜する可能性がある。
  • 外部からのネガティブなショックの影響については、時間とともに信頼は得られず失われる傾向にある。
  • 労働力の流動化により信頼形成はより困難になる。雇用関係が短ければ、約束を破ることによる上司の評判への悪影響は軽減される。
  • 信頼は、社会規範、経営慣行、個人の関係の組合せであるため、組織で管理するのは困難である。

著者からのメッセージ

従業員は上司よりも多くの情報を持っている場合が多いため、権限を委譲することで、企業の生産性と収益性は向上する。上司は、従業員が自主性を悪用しないと信頼できなければならず、従業員は上司が約束を守ると信頼する必要がある。上司が信頼されていれば、上司は約束した将来の報酬が従業員のやる気を適切に引き出すのに十分であるという確信を持って、従業員に意思決定を委任することができる。その結果、信頼は会社をうまく経営するための重要な要素となる。より良い企業経営を促進するための政策オプションの1つとして、第二次世界大戦後に米国が政府主導で実施した研修プログラムの現代版の管理者研修プログラムを推進することがあげられるだろう。

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本稿は、2023年4月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2023年7月6日掲載)を読む

2023年7月26日掲載