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気温、生産性と所得の関係
気候変動による気温上昇は、長期にわたり生産性向上を鈍化させる可能性がある

Olivier DESCHENES
University of California Santa Barbara, USA, and IZA, Germany

概要

気候変動は、干ばつや洪水、ハリケーン、山火事、気温上昇、以前に増して頻繁かつ長期にわたっておこる熱波など、環境条件を急速に悪化させている。多くの文献は、気温が上昇すると労働者の生産性や生産高が低下することを示している。こうした影響は、より貧しい国や農業、建設業、製造業など気候変動の影響を受けやすい経済部門において、より顕著に見られる。気候変動による経済的負担の軽減を軽減するためには、労働者の暑さへの曝露を軽減する新技術の開発と、職場における温度管理の改善が不可欠である。

夏の平均気温予測は上昇傾向

主な研究結果

プラス面
  • 気候変動による気温上昇は、現時点の気温が経済的生産を行う上で適温ではない(寒い)一部の国の所得を増加させる可能性がある。
  • 職場インフラへの投資や、周囲の気温を、生産性を最大化するレベルに維持できるような適応策を講じることで、気温上昇が生産性や所得に及ぼす悪影響をある程度軽減できる可能性がある。
  • 気温が国内総生産(GDP)水準に及ぼす限界効果は、気温がGDP成長率に及ぼす値よりもより正確に測定されている。
マイナス面
  • 気温上昇は、認知能力や身体的能力の低下、労働供給や労力の低下、あるいは労働と相互補完的な他の要素の生産性低下など、労働生産性に直接的な影響をもたらし、経済生産を減少させる可能性がある。
  • 気温上昇による悪影響を緩和する技術革新や生産性を向上させる適応策がない場合、気候変動がなかった場合と比較すると、「通常シナリオ」の場合2100年までに世界の平均所得は大幅に減少すると予想される。
  • 気候変動が将来の所得水準や所得増加率に与える影響については、高い不確実性がある。

本稿の主旨

最近の実証研究によって、世界各国において、いかに気温上昇が生産性やGDP水準を低下させてきたかについて報告されている。一方、気温上昇が経済成長率に及ぼす影響についてのエビデンスは、それほど明確ではなく、不確実性が高い。気温上昇による生産性への悪影響を緩和する新技術の導入や、現在ある適応技術の活用が進まない限り、気候変動による気温上昇は、温室効果ガス排出抑制に向けた取り組みが強化された場合でも、今後数十年にわたり、所得の低下や生産性向上の鈍化を引き起こす可能性がある。

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本稿は、2023年2月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2023年4月3日掲載)を読む

2023年4月4日掲載