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世帯内における貧困を測定する
標準的な貧困指標は問題を極端に過小評価する可能性があり、世帯全体モデルが役立つ

Caitlin BROWN
マンチェスター大学経済学部講師

Rossella CALVI
ライス大学経済学部助教

Jacob PENGLASE
サンディエゴ州立大学経済学部助教

Denni TOMMASI
ボローニャ大学経済学部助教

概要

貧困対策の重要な要素のひとつは、困窮する個人を正確に特定することである。しかし、消費データは通常、世帯単位で集計されるため、貧困を個人単位で測定することは困難である。世帯単位のデータに基づいて算出される一人当たりの指標では、世帯内における不平等と消費のスケールメリットが無視されてしまう。世帯全体のモデルは、世帯内の不平等と消費のスケールメリット双方を考慮しつつも、個人単位の貧困を推定できる代替的かつ有望な枠組みを提供するものである。

Individual consumption does not necessarily match household per capita expenditure, Bangladesh

主な研究結果

  • 個人単位の貧困を測定する際には、世帯内の不平等とスケールメリットを考慮することが重要である。
  • 困窮する個人が非貧困世帯に属する場合もあり、一人当たりの世帯消費や同様の指標に基づく貧困指標で判断すると、困窮する個人の分類を見誤る可能性がある。
  • 世帯全体のモデルは、世帯単位のデータから個人単位の貧困を推定する枠組みを提供できる。
  • 世帯全体モデルを用いて推定された貧困指標は、一人当たりの貧困指標を改善できることがエビデンスによって示されている。
  • 個人単位の貧困を推定するために必要なデータを揃えるのは、かなり手間を要する可能性がある。
  • 世帯全体モデル自体が、世帯における構成員のニーズの違い(例:子供vs大人)を考慮できるわけではない。
  • 同定結果は、消費とそれ以外の家計行動の重要な側面(労働供給、貯蓄、自家生産など)を分離可能として仮定しているが、通常、可能ではない。
  • 一人当たりの貧困指標も、世帯全体モデルを用いて推計された貧困指標も、消費にのみ焦点を当てている。

本稿の主旨

貧困は個人単位の概念であるが、通常、世帯単位のデータを用いて測定される。標準的な世帯の一人当たりの消費を測定しても、世帯内の不平等や消費におけるスケールメリットは考慮されないが、これは重要である可能性がある。個人単位の消費データを大規模に収集することは困難であり、費用もかかる。世帯全体モデルは、個人単位での貧困を測定するための有望な枠組みを提供するもので、必要なのは個人的に割り当てできる財1種類に関するデータだけである。標準的な貧困指標では、特定の個人(例えば、女性や子供)の貧困状態が大幅に過小評価されてしまう可能性があること、また、困窮する多くの個人が非貧困世帯に居住しているという結果が示唆されている。

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本稿は、2022年5月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2022年8月3日掲載)を読む

2022年10月31日掲載