概要
価格が硬直的な場合、為替レートの変動によって、外的ショックが吸収され、純輸出の変化も緩和される。しかしながら、為替レートの変動は、企業の競争力や限界費用、労働需要にも影響をもたらす。労働市場制度が(たとえば、労働組合の組織率が高いことや硬直的な労働協約のために)賃金調整を妨げている国の企業の競争力は低くなり、そのために、労働需要が外的ショックの影響を受けやすく、失業のリスクは高くなる。
主な研究結果
- 価格が硬直的な場合、柔軟な為替レートは外的ショックを吸収し、純輸出の安定化に寄与する。
- 金融当局は、通貨圏においてより労働市場制度の弱い国(外的ショックに対してより脆弱な国)の景気変動に、より重きをおいて最適利子率を選択するべきである。
- 為替レートの変動は、企業の限界費用と労働需要の変化を増幅させることにより、雇用や失業に影響を及ぼす。
- 労働市場制度は国によって異なり、企業の競争力に及ぼす影響も異なる。労働市場制度が弱ければ賃金と限界費用が上昇し、企業の競争力は低下する。
- ユーロ圏諸国の労働市場制度は非対称的であることが特徴的であり、周辺国は望ましくない外的ショックやその他の共通のショックに対処する能力が低い。
本稿の主旨
為替レートの変動は企業の競争力に影響を及ぼし、ひいては各国の雇用と生産のダイナミクスにも影響を及ぼす。為替相場の変動による悪影響が労働市場に広がる場合、金融当局は為替相場の変動を抑えるべきである。ユーロ圏では、脆弱な労働市場制度が周辺国の競争力を低下させている。短期的には、金融緩和政策は共通通貨ユーロの切り下げを誘発することによって周辺国の競争力を向上させ、ユーロ圏全体にプラスの波及効果を及ぼす。
本稿は、2017年8月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。