概要
最近、グーグル社のような大企業は従業員の健康への投資を大規模に行っている。業績の良い企業の従業員ほど幸福度が高いというエビデンスがある一方、幸福度の高い従業員が企業業績向上に貢献しているのかに関する研究はあまりない。従業員の健康と企業業績との因果関係を探ることは、企業が従業員の労働環境改善のための支出を正当化する上で重要である。相関研究や臨床研究のなかには正の関係性を明らかにしたものがあるが、そのエビデンスはわずかである。
主な研究結果
- 複数の研究において、前向きな気分の被験者はよりクリエイティブな業務に時間を使うということがわかった。
- 前向きな感情はイノベーション能力に影響を及ぼす。
- 実験で得られたエビデンスは、前向きな感情は概して記憶力を高めることを示した。
- 前向きな感情は業務のパフォーマンスを高めると多くの研究において報告されている。
- 実験研究は、多くの場合、実験という環境で与えられた課題をやり遂げる動機のない少数の被験者を対象にしている。
- 実験によって得られたエビデンスは、被験の対象が学生で、労働者ではない。
- 実際のデータをもとにした研究の多くは因果関係を実証することを目的におこなわれたものではない。
- 一部の研究によると、前向きな感情は生産性向上にほとんど効果がない、もしくはマイナスの影響さえ持つという。
本稿の主旨
実験室の中での研究や実世界で得られるエビデンスはいずれも従業員の健康に注意を払うことは企業にとって有益であることを示している。幸福感は努力を促し、質に影響を及ぼすことなく生産量を拡大し、生産性が向上するようである。一時的な幸福感の上昇や根底にある幸福感の長期的な変化は生産性向上と関連している。ほとんどのエビデンスは相関関係や実験研究を基にしているため、最終的な指針を示すにはさらに研究が必要である。とはいえ、入手可能なエビデンスは、従業員の幸福度を向上するという方針を取り入れるべきだと示唆している。
本稿は、2016年12月にIZA World of Laborにて掲載されたものを、IZAの許可を得て、翻訳、転載したものです。