本シリーズは、RIETI理事長中島厚志が研究内容や成果、今後の課題などについてRIETIフェローにたずねます。
シリーズ第10回目は、主に特許データでイノベーションを実証的に研究にされている山内勇研究員を迎え、イノベーションという観点からみた日本企業・産業の課題などについて聞きました。
知的財産制度と日本のイノベーションの関係
中島 厚志 (理事長):
山内さんは、特許データを使った研究やイノベーションに関連する知財絡みの研究をされていますが、そもそもどういうきっかけで、この研究に入られたのですか。
山内 勇 (研究員):
大学院の頃は労働経済学の理論的な分析をしておりました。今とはかなり違う研究ですが、初代RIETI所長の青木昌彦先生がやられていた比較制度分析を労働の雇用制度に当てはめ、数学的なモデルを使って研究するということをやっていました。
転機となったのは、知人の紹介で知的財産研究所で働くことになったことです。そこで特許庁からの委託事業の一環で、知的財産制度が日本のイノベーションにどう貢献しているのか、学術的、実証的に研究することになりました。それ以降、この研究の分野に入ってきました。
知的財産研究所に入る少し前には、特許制度の中でも職務発明制度というものを研究していました。それは発明者にどういうふうにお金を与えるとインセンティブが高まるかという話なので、労働経済学とすごく相性がいい分野で、かつ知的財産制度とも関係あるところでした。しかし知的財産研究所で担当することになったのは実証研究ですので、最初はすごく戸惑いがありました。
というのも、特許データがあまりにも膨大で、国内の特許だけでも当時で1000万件ぐらいありました。そのデータをいきなり渡されて、イノベーションに対する知財の貢献を分析してほしいとのことで、入った当初はすごく大変でした。
中島:
労働経済学の特に理論からスタートしたとすると、特許データを使ったイノベーションの研究は別の分野だと思いますし、結構苦労はあったのではないですか。
山内:
そうですね。当時は私もプログラミングのスキルもほとんどなかったですし、実証研究はあまりやったことがありませんでした。それがいきなり最新の統計手法を使って分析する必要が出てきたので、勉強にはなりましたが、反面、苦労も大きかったように思います。
中島:
研究を通じて、この職務発明制度やイノベーションについて、どういうことがわかってきたのでしょうか。
マネジメントの観点からみたイノベーション
山内:
実は職務発明制度の研究は完成しないままに、別の知財に関するイノベーション研究に着手することになりまして、最近ではその流れで、イノベーション・マネジメントを中心に研究を進めています。今RIETIで特に取り組んでいるのは、オープンイノベーションの分野です。イノベーションというのは、一国の経済成長の源泉にもなっているものです。イノベーションを起こせなくなった国はプレゼンスも当然下がっていきますので、いかにイノベーションを促進していくかというのは、イノベーション研究者の根本的な問いになっていると思います。
イノベーションを促進するにはたくさん観点がありますが、たとえば私が取り組んでいるのは、主にマネジメントの観点です。ただマネジメントといっても、当然技術のマネジメントもあれば、組織のマネジメントもあり、事業戦略のマネジメントもあります。それぞれの分野でいろいろ研究が蓄積されているわけです。特に日本ではよく、技術で勝っているのに事業で負けていると言われることがありますが、私はそれはマネジメントの問題だと思っています。
マネジメントというと、経営学で扱われることが多いのですが、最近では経営学と経済学の差がだんだんなくなってきていると感じています。特にアメリカでは、経営学者もエビデンスを重視して、実証分析を行います。そういう意味では、実証分析のツールは、経済学も経営学も標準化されてきており、扱う対象が違うだけになってきていると感じています。
ただ、日本ではまだまだそこまでいっておらず、経済学は平均値の学問で、何か分析したい変数以外の要因の影響はすべて取り除いてしまう。ですから企業の属性の効果は取り除いてしまうわけですが、経営学は、むしろうまくいっている企業の特徴を見るということで、外れ値を見るという学問だという考えが根強いと思います。
マネジメントの観点で見ると、今、しきりに強調されているのはオープンイノベーションだと思います。私はその中でもオープンネスの構造、オープンとクローズのバランスに関して研究をしています。オープンイノベーションは政府も促進していますが、当然何でもかんでもオープンにすればいいというものではなくて、最適なバランスがあるわけです。その観点から研究を行っています。
中島:
そこからどういうことがわかってきたのでしょうか。
山内:
まず私が着目しているのは、オープンとクローズの割合です。それとイノベーションのパフォーマンス、たとえば新製品の投入確率や利益が得られる期間の関係を分析しています。企業が持っている技術の中で、特許化できるけど、あえて特許化せずに、ノウハウにしている割合とイノベーションの成果との関係は逆U字の関係がある。つまり、持っている技術を全部特許出願すると、当然パフォーマンスが落ちてしまいます。
中島:
ほかに真似されるということですね。
山内:
そうです。クローズにしすぎても情報が入ってこないので、イノベーションのパフォーマンスは下がる。最適なバランスがあるわけです。だいたいその最適値というのが、日本だと平均30%ぐらいです。ただこれは平均値なので、業種や企業の置かれているポジションによってだいぶ変わると思います。
日本ではノウハウで秘匿している割合の平均値は20%ぐらいなので、平均的には、オープンに特許出願しすぎているということがいえるのではないかと思います。
最近、先進主要国の中で、日本だけ特許出願が減っているという事実があります。もちろんそれが技術開発の能力が落ちているのだったら問題ですが、生まれてくる技術の数が変わらなくて、特許出願が減っているということであれば、それはある意味いい方向に進んでいると私は考えています。
中島:
ちなみに、アメリカなどではどのくらいオープンにしているのかという数字は何かありますか。
山内:
実は今まさにRIETIでアンケート調査を実施する予定ですが、まだ見たことがありません。
中島:
ということは、今おっしゃっている3割ぐらいとか、あるいは逆U字型の形状という研究成果というのは、山内さんが世界的に見ても先頭を走っている?
山内:
理論的にその逆U字は多くのところで言われていることですが、それをデータで示せるという点では確かに貴重な研究だと思います。
中島:
着眼点のよさというのもあるのでしょうけど、日本の特許データの開示やデータの処理の仕方が、色々な情報を抽出できるものになっているということもあるのですか。
山内:
日本のデータ整備は確かに進んではいますが、クローズネスというものを測るための指標としては、特許データというのは足りない部分があります。
中島:
確かにオープンになっているものしかわからないわけですからね。
山内:
そうです。ですから、そこはアンケート調査と組み合わせて分析しなければいけないところです。
中島:
だけどそういう中で、日本ではオープンイノベーションが足りないといわれています。それはどう解釈すればいいですか。
山内:
オープンイノベーションにはいろいろな観点があって、今私が申し上げたのは、特許出願のオープンネスです。一般に言われるオープンイノベーションは、他組織との連携など、他者との知識のやり取りを通じたイノベーションですので、その意味では、オープンネスが足りないという理事長の主張はまさにおっしゃるとおりだと思います。
中島:
産学官の連携や、ほかとの情報交換をもっと密に組織的にやれば、もっとイノベーションが進むという観点では、日本はまだやる余地があるということですか。
山内:
そうだと思います。特に日本の、技術で勝って事業で負けるというのは、技術開発戦略のマネジメントの問題だと思っています。たとえば日本では部材が強いので、iPhoneやスマートフォンのサプライヤーのプレゼンスがすごく高いわけですから、技術的には当然iPhoneを作ることができるわけです。ただ、それをビジネスモデルとして構築することができなかった。そういう意味では、潜在的なニーズを把握して、戦略をフレキシブルに変えていくということがうまくできないのだと思います。
技術力が事業の業績に与える効果は低減していきます。たとえばデジカメの画素数の競争を考えてみても、100万画素が200万画素になれば、それは非常に付加価値を高めますが、1000万画素が1100万画素になっても、それほど付加価値は増えません。でも日本はそこに追加投資をするわけです。
これは韓国企業との大きな違いだと思っています。日本では "hidden champions-隠れたチャンピオン"が多い。つまり小さい市場でシェアを持っている企業が非常に多いわけです。他社の真似できない技術力を持っているからという見方もできますが、裏を返すと、本当はそこに投資すべきでない、他社が投資したくないところに投資している結果そうなっているのだと考えることもできます。
そういう意味では、マネジメントの問題が技術と事業の関係では非常に大きいわけです。オープンイノベーションという観点から、いかに競争力を高めていくか、経営学の分野では、見えない顧客のニーズをつかみ、付加価値を高めていくべきだという議論があります。
既存の顧客だけではなく、潜在的な顧客、ユーザーの意見やニーズをつかまなければいけないわけで、これにはオープンイノベーションが非常に重要になってくるわけです。既存の顧客のニーズをつかむためには、IoTなどの促進策はかなり有効だと思います。もちろん、そこで集まったデータを分析すれば、潜在的なニーズをつかむこともある程度できるかもしれません。ただ、企業が利益を確保する手段としては、早く顧客との関係性を確立することが非常に重要という調査結果も出ています。潜在的な顧客をつかむためには、オープンイノベーションといっても、情報が入ってくるのを待つだけではだめです。自分が持っている技術や知識を開示することで初めて、潜在的な顧客が見えてくるということもあると思います。ですから、いかに自分の持つ技術・知識を開示していくかという観点、つまり、これまで言われてきたインバウンドよりも、むしろアウトバウンドの観点からのオープンイノベーションが今後の日本ではより重要になってくるのではないかと思います。
中島:
ただそれは、全部開示するのではなく、最適な比率で開示しなくてはいけないということですね。
山内:
おっしゃるとおりです。
イノベーションと流動性
中島:
今、韓国企業との比較を出されましたが、特に近年、日本企業の衰退、あるいは韓国企業のほうが日本企業よりも競争力を持ったということが、とりわけ電機産業などでは言われていますが、そこについては何か考えてらっしゃいますか。
山内:
実はその点に関しても研究を進めております。特に一時期、日本の電機産業の衰退は、日本の技術者が韓国企業に行って技術流出をさせたことが一因だと主張する方が結構いらっしゃいました。それが本当に起きているのか、データで確かめてみたいと思い、その研究を始めたわけです。
中島:
これも特許データですか。
山内:
はい。特許データには、その発明者の名前も、発明した場所も書かれていますから、それを整理すると、日本人の発明者が韓国企業でどういう特許出願をしているか、わかるわけです。
まず、どういう発明者が韓国企業に行っているかをみてみると、もともと日本企業の同期の中で生産性が高かったシニアの人、それから生産性が同期の中で割と低かった若い研究者、その2つのタイプの人たちが韓国企業に行っている。つまり、韓国企業に転職する発明者のタイプは二極化しているという事実がわかりました。
中島:
前者はわかるような気がしますが、後者はどう解釈したらいいのでしょう。
山内:
後者は、恐らく、日本企業の業績が悪くなって、行き場を失ったというか、実力を発揮できない方たちが韓国企業に行ったのではないかと思います。
それは韓国企業にとってもメリットがあって、特に特許の中でも製法特許、つまりノウハウを要とするような特許を出している人たちが韓国企業に移っていました。ですから、若い人たちを韓国企業が雇うのは、日本の技術を、ノウハウを含めてキャッチアップするという短期的な目的で採用していたようです。
実際、若く生産性の低い人たちを引き抜いてきた場合、その人たちは、韓国企業で、韓国人と一緒に共同研究をしている。一方で生産性が高いシニアの人を引き抜いた場合は、韓国企業の中でむしろ日本人同士で研究を行うことが多いという傾向がみられました。これは結局、シニアの生産性が高い人たちは、韓国企業での研究開発プロジェクトにおいて、人選も含めて、かなり裁量が与えられているのではないかと解釈しています。
中島:
いずれの場合にしろ、人材が韓国企業に流出することで、韓国企業の生産性を加速させているということですか。
山内:
はい、部分的にはそうだと思います。特に生産性の高い人が韓国企業に行った後、そこで特許出願をする、その特許出願が日本企業の特許出願をブロックしているケースが目立ちました。つまりそれは韓国企業の競争力を非常に高めているし、日本企業の研究開発活動にとってはかなりマイナスになっているということです。もちろん、他者の技術知識を活用することは悪いことではありませんが。
中島:
そうだとすると、別に韓国企業に流出しなくても、国内企業への人材移動でも同じではないのですか。
山内:
そうです。ただ韓国企業と国内企業では、かなり移動のパターンに違いがあります。実は国内企業に関しても分析をしております。そもそもの研究のきっかけは、日本では、政府も、人材の流動性や多様性を高めてイノベーションを促進していくというスタンスをとっていますが、果たして本当に流動性が生産性を高めるのかということに関して、ちゃんとしたエビデンスはありませんでした。もちろんシリコンバレーのようなイノベーティブな地域で流動性が高いという事例ベースの研究はありましたが、定量的なデータが無かったため、それをやってみたわけです。
もちろん移動すれば、移動した組織の生産性は高まります。ただ問題は、移動した人の生産性は平均的には高まらないということです。しかも高い生産性の人が動いた場合は、その人の生産性は下がり、低い人が動いた時には上がるわけです。
中島:
それはどういうことが理由ですか。
山内:
いろいろあると思いますが、たとえば低い人が動く場合は、もともと元の組織で適性や相性が悪かったとも考えられますし、若手ですので、単に育成期間だったとも考えられます。また、そもそも業績の悪い企業だったから異動するということもあると思います。生産性の高かった人が下がるのは、ある意味、教育やマネジメントを目的に、ほかの企業は引き抜いているので、その人自体の生産性が下がるということは大いに考えられます。
中島:
生産性が高い人は下がり低い人は上がるとして、流動性があることによって結局日本企業の生産性は上がるのですか。
山内:
実はスピルオーバーまで含めると、全体的に組織の生産性というのは上がることがわかりました。スピルオーバーというのは、新しい人を雇うことによって、動いてない人たちの生産性も上がるということです。
中島:
それは海外との競争ということだけではなく、日本全体のイノベーション力や企業の生産性を高めるためには、もっと人材の流動性を高めることが必要だということですね。
山内:
まだ移動者が去ってしまった後の組織の生産性までは分析していませんが、トータルで雇用者数が一緒という条件のもとでは、やはり流動性を高めることはプラスに働くと考えています。
ただ注意しなければいけないのは、やはり生産性が下がる人がいるという点と、あと大企業だと、あまり流動性を高める効果がないという点、また、グループ内の異動ではスピルオーバー効果がほとんどない点などが、研究結果からわかっているということです。それを踏まえると、大企業の優秀な人を中小企業、特にグループ外の中小企業にプレイング・マネージャーとして移動させるようなタイプの流動性の高め方が、一番生産性を高めることになるでしょう。
中島:
全体としての生産性が高まるということですね。ほかにはどのような研究をされているのでしょう。
山内:
ほかにRIETIで取り組んでいるのは、サイエンスソースの研究です。これもオープンイノベーションの1つだと思いますが、民間企業の発明者たちが、どのように科学的な知識を活用しているかという研究です。RIETIで、特許を出願した発明者を対象にしたアンケート調査を実施して、その発明の研究開発過程で何を知識源としていたかを調査しました。
中島:
ひらめきが多いのではないですか。
山内:
そうです、着想です。実は民間企業の20%くらいの発明者が、学術論文がそのひらめきのもととなっていると回答していました。思ったより、科学的知識の貢献は大きいなと驚きました。
中島:
それだけの学術論文を自分の知識として吸収できるような研究期間の長さや学歴なども、発明に影響しているということですか。
山内:
まさにおっしゃるとおりです。科学的知識を発明に活用するには、その発明者の活用能力が非常に重要で、特にPh. D.を持っている発明者や自分でも論文を書いたことがある発明者ほど、科学的な知識を発明に結びつけています。今の政策のスタンスとしては、大学でも事業化できる研究に予算をつけるという方向にありますが、基礎的な研究を行う人材の育成というところもやはり今までどおり支援していく必要があると思います。
中島:
教育が大事で、どのような態度、姿勢で研究をしていくかという基礎的な部分を身に付けるということも欠かせないということですね。
山内:
はい、そう思います。
中島:
大変興味深いお話です。山内さんはいろいろと研究されていますが、今後どのように研究を伸ばしていこうと思っていらっしゃいますか。
今後のRIETIにおける研究の目標とは
山内:
イノベーションを促進するという意味では、先ほどもお話ししましたが日本企業が技術を生かしきれていないのはやはりマネジメントの問題だと考えているので、その点をもう少し深めたいと思っています。たとえば自動運転技術にしても、日本は特許出願では世界的にもすごいシェアを持っています。ただ、運転支援システムのマーケットでは、海外企業には全然かなわないわけです。
この問題は、どこまで自分で投資して、どこからを他社から持ってくるかという問題に近いと思います。日本企業が、投資効率がすでに低減しているところでさらに技術開発を行いたいのであれば、その先に、さらにビジネスチャンスが広がっているという可能性を見込んで投資していく必要がある。あるいはそのビジネスチャンスを作っていかなくてはいけないと思います。
中島:
限界的な細かいところで技術力を高めようと思ってやるということもさることながら、やはりこれからのポテンシャルのあるところをどうやって見いだして、そこに研究開発を強めていくかということですね。
山内:
おっしゃるとおりです。事業担当者やマネージャーの資質の問題で片づけてしまえばそれまでですが、私はむしろ組織的なオープンネスの設定に課題があると考えています。もっと適切にオープンにしていけば、外からの情報が入ってきて、潜在的なニーズも把握できる。その上で技術開発をすれば、その先に大きなマーケットシェアが待っていると考えます。
中島:
まさに今、日本の企業や産業が抱えている課題の1つということでもあるわけですね。
山内:
そうです。そこで今RIETIで、どのタイミングで、誰にどんな範囲の技術を開示していくか、それによってイノベーション成果がどう変わるかというアンケート調査を設計しているところです。
中島:
確かにマネジメントの改善、あるいは課題に対して、具体的、客観的に、しかも数字で指針となるような研究成果が出てくると、大変に役に立つし、単に学術的だけではなくて、まさに日本の企業、ひいては産業経済自体がさらに発展していくために不可欠ということですね。
ここまでのお話で、日本の企業や産業の抱えているマネジメントの問題はわかりましたが、イノベーションという観点から、広く日本経済の課題は見えますか。
山内:
やはり同じ話の延長線上ですが、テクノロジカル・イノベーションとノン・テクノロジカル・イノベーションのリンクだと思います。技術で勝って事業で負けるのは、まさにノン・テクノロジカル・イノベーションの問題です。テクノロジーとしては革新的なものができてくるが、事業で失敗している。しかし、今はそれらの関係が密接になってきている。IoTなどITの進展によって、製造現場での技術の革新は、顧客のニーズと結びついています。
たとえば有名な例で、コマツのコムトラックスは、ショベルカーにGPSや通信システムがついていて、位置や車両データがリアルタイムに本社に送られているので、どこでどれだけ動いているかがわかるし、車両メンテナンスや稼働状況の管理といったサービスも提供できるわけです。これはまさにテクノロジカルでもあり、ノン・テクノロジカルでもある。こういう分野のイノベーションはどんどん進んでいくと思います。ただ、日本は、主に製造に関するイノベーションでIoTを結びつけていますが、ドイツでは企画、製造、販売、この3つをつなぐことを目指しています。だから、日本よりも広い観点でそれを進めているわけです。
アメリカはユーザーサイドのソフトで情報を拾ってきて、それを製造に生かすというプラットフォーム作りに力を入れています。そういう意味では、ドイツとは違うアプローチですが、やはり広い視点を持っています。日本はちょっと視点が狭いので、そこをもう少し広げていかないと、今後まだアメリカやドイツに追いつけないと思います。
中島:
ものづくりでも、どういうふうに顧客ニーズを集めるかというところも欠かせないと思います。逆に顧客ニーズを集める、ものづくりに活用するということで、最近ビッグデータが話題になっていますが、ビッグデータをどうやって集めるかということだけで終わってはいけないわけで、むしろそれをどう解析して、全体的にビジネスをどうやって拡張するかという広い視野で考えて、総合的に活用していくことが必要ということなのでしょうか。
山内:
おっしゃるとおりです。ビッグデータを活用して、製造と結ぶということ日本は今もやっていますが、もっと広い視野でやらなければいけないと思います。
中島:
お話を聞いてなるほどと思うのは、最初に経営学について、それを実証分析的にやるというトレンドも出てきているという話をされました。確かにものづくり、イノベーション、経営と全部つながっているけれど、その全体がワンセットになって、企業や産業の競争力、ひいては日本経済の活性化につながっていくということですね。
ぜひそういう問題意識を広げて、RIETIの中での研究を進めていただきたいと、今後期待しています。今日はどうもありがとうございました。
山内:
ありがとうございました。
2015年10月27日掲載