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新型コロナウイルスの大流行に伴う政策不確実性の高まり(動画)

伊藤 新
研究員

政策不確実性指数とは何か、新型コロナウイルスはどのように指数に現れているのか、私たちは「見えないリスクを見える化した」政策不確実性指数という武器で、不確実性の時代にどう立ち向かえばいいのか。
こうした疑問について、日本の政策不確実性指数を作成している伊藤新(あらた)研究員がわかりやすく解説します。

政策不確実性指数については、こちらの記事も併せてご覧ください。

日本の政策不確実性指数は、毎週こちらのページで更新しています。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。

プレゼンテーション資料 [PDF:805KB]


経済産業研究所・研究員の伊藤新と申します。本日は、新型コロナウイルスの大流行に伴って政策をめぐる不確実性が高まっていることについて、新聞報道をベースにした指標を基に解説したいと思います。

この図は米国の政策不確実性指数を描いた図になります。これはスタンフォード大学のブルーム氏、そしてシカゴ大学のデービス氏らの研究チームが開発した1985年以降の政策不確実性の月次指数を描いたものです。この指標では、主に以下の3つをとらえようとしています。1つ目はどういう政策がいつ講じられるかという意味での不確実性、2つ目は誰が政策決定を行うのか、政策を実施しているのかという意味での不確実性、最後の3つ目が現在あるいはこれから将来取られようとしている政策の経済効果についての不透明性や不確実性についてです。

具体的にこの指数はどういうふうに作られたかということについて述べます。

彼らの研究チームは、米国の主要10紙に掲載された新聞記事の中で経済不透明性、不確実性、そして政策に関係するカテゴリー、の3つの用語を含む記事を基に指数を作っています。政策に関係するカテゴリーの用語として、連邦議会とかFRBあるいはホワイトハウスというような言葉が含まれています。これを見ていただきますと、2020年の3月の米国の指数は422.6となりました。前月の2月と比べますと、約97%の上昇となっています。過去30年間を振り返ってみますと、この3月の指数は過去30年間で最も高い水準に達しています。

続きまして、これは米国の日時ベースでの指数を描いた図です。直近の1カ月間、先月の3月8日から4月6日までの指数の平均値は491.6となっています。トランプ政権が発足した2017年1月20日から3月7日までの指数の平均値と比べますと、約5倍の水準となっています。このように直近の足元を見ましても、新型コロナウイルスの世界的規模の流行によって政策を巡る不確実性が高まっているということが見て取れます。

欧州の方はどうでしょうか。

これは英国、フランス、ドイツ、スペインの5カ国における主要な新聞を基にして作られた欧州の政策不確実性指数を描いています。欧州における3月の指数は353となっておりまして、これは前月の2月と比較しますと70%増となりました。ただ過去30年間を比べてみますと、2016年の英国での国民投票があったときとか、米国で大統領選挙があったときに、最も高い水準を示しています。今回3月の指数の上昇というのは、これら2016年に起きた出来事に次ぐ大きな上昇となっております。

欧米では指数の上昇が見られますが、日本についてはどうでしょうか。

こちらは日本における政策の不確実性指数を描いたものです。この図、この指標は、シカゴ大学のデービス氏、IMFのエコノミスト、そして私からなる研究チームが米国で作られた指数の作成方法を基にして作ったものです。具体的には、日本における主要な新聞、すなわち朝日新聞、毎日新聞、日経新聞そして読売新聞の4紙に掲載された記事の中で、経済のカテゴリー、不透明不確実のカテゴリー、そして政策のカテゴリーの用語を少なくとも1つずつ含む記事を基にして作られています。例えば、政策に関するカテゴリーの用語ですと、税制とか、歳出、日本銀行、あるいは国会とか首相というような単語が含まれています。直近の値である先月3月の指数は200.2となりまして、前月2月と比べますと86%増となりました。これは米国の96%に近い水準でして、欧州の72%を上回る水準、上回る増加率となっております。

過去20年間を見渡してみますと、何度か感染症が起こりました。それらは、2003年のSARS、あるいは2009年の新型インフルエンザ、2012年のMARS、そして2014年のエボラ出血熱です。この図を見ていただきますと、2003年、2009年、2012年、2014年にこれらの感染症が起きた際には、不確実性指数は大きなジャンプが見られていません。しかし今回の2020年、2019年末から始まった新型コロナウイルスの感染拡大によって、指数は大きく上昇しております。これまでの感染症と今回は大きく違うということが、図表からも見て取ることができます。

では、どのような分野の政策がこのような政策の不確実性を大きく高めることになったのでしょうか。それを見るために、以下では個別の政策に関する不確実性指数の動きを見ていきたいと思います。

この図は金融政策に着目して作成した不確実性指数です。具体的には、先ほど話しました政策の不確実性に関する記事の中で、特に金融政策に焦点を当てて書かれている記事の数を数えることによって、この指数を作っています。3月の金融不確実指数は272.5となり、前月比で190%増となっています。この上昇は、過去30年間を見ても一番大きな上昇率となっています。

具体的に金融政策のどういう面での不確実性が上昇したかと考えると、大きく2つあると思います。1つは新型コロナウイルスの感染拡大に伴って経済が大きく冷え込む、あるいは将来の経済の先行き不透明感が強く高まる中で、日本銀行をはじめ世界の中央銀行が経済活動をサポートするためにどのような政策措置を講じるかという意味で、不透明性、不確実性が高まったというのが1つの点です。もう1つの点は世界の中央銀行が講じたさまざまな政策措置が経済に対してどういう影響を持つかという意味で、不透明、不確実という度合いが高まったかというのが2点目になります。

続いて、この図は財政政策に着目して作られた不確実性指数を表しています。3月の財政政策の不確実性指数は175.6となっています。前月と比べますと72%の増であります。財政政策も前月と比べ上昇をしていますが、金融政策ほどの上昇率ではありません。

最後に、これは貿易政策に着目して作られた不確実性指数です。3月の貿易政策不確実性指数は97.5となっています。前月比で見ますと56%減となっています。97.5という水準は過去30年間と比べて長期的な平均とほぼ同じくらいの水準と同じくらいとなっています。

以上米国、欧州、日本における政策の不確実性の高まりについて見てきました。日本の指数から言えることは、2018年から2019年にかけては、米中の貿易摩擦を受けて、貿易政策の不確実政策指数が過去に見られない水準まで上昇しました。つまり、日本における政策不確実性の高まりというのは、貿易政策が大きな要因になっていましたが、2020年に入ると、今回の新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、財政政策や金融政策あるいは公衆衛生政策をめぐって、不確実性が高まっていることが見て取れます。

最後に、こうした政策をめぐる不確実性と経済の影響について、少し話して終わりたいと思います。これまでの過去の研究を見てみますと、政策不確実性が予期せぬ高まりを見せた場合、その後1年後あるいは2年後にわたって投資を下げたり雇用を減らすことが、多くの実証研究から明らかにされています。これらを受けて、今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う政策の不確実性の高まりを見たときに、感染拡大によって需要のチャンネルを通じて経済活動が抑制をされたり、あるいはサプライチェーンの機能が衰えてしまったりしたことによって経済活動が減少するという実際に起こる経済の影響だけではなくて、こうした政策の不確実性の高まりによって経済へ影響を及ぼす、経済に与える影響というものについても注意を払う必要があると思います。

以上で私の報告は終わります。

Q&A

Q:政策不確実性指数はどのように誕生したのですか。

A:政策の不確実性指数の開発が始まったのは、世界金融危機が起きた2008年〜2009年ごろからです。世界金融危機の発生を受けて、金融政策が今後どうなるのか、あるいは財政政策が今後どういうものが取られるかというので不透明性、不確実性が高まりました。

そうした政策の不確実性の高まりが経済にどういう影響を及ぼすかが、1つの大きな関心事となっていました。そうした関心に応えるには、政策の不確実性をどう測るかという手法面での課題がありました。

先ほどの報告の中でも述べましたが、米国の研究者たちが政策の不確実性を定量化する手法として、新聞報道に着目して指数を開発しました。そうした手法が米国だけではなくて、欧州、日本、あるいは他の国々に適用され、現在は20カ国を上回る国々で政策不確実性指数が開発され、多くの人たちに利用されています。

Q:世界各国で政策不確実性指数が作成される中で、日本の政策不確実性指数は伊藤さんが作成しておられますが、そもそもなぜこのテーマに興味を持たれたのですか。

A:実はRIETIでは不確実性を研究する研究者が何人かいらっしゃいます。例を挙げますと、森川所長はアンケートを基に政策の不確実性についてアプローチしています。ただ、アンケートベースですと、昔にさかのぼって実施することはできない、あるいは毎月アンケートをしなければならない、という意味でデメリットがあります。そうしたデメリットを克服し、比較的長い期間にわたってデータが使えるようにするため、米国で開発された新聞報道を使って指数を作る方法を日本に適応して作成してみようとしたのが、この指標を開発しようと思った始まりです。

Q:政策不確実性指数を私たちは今後どのように活用していけばいいのでしょうか。

A:1つ目としては、政策当局が足元の経済状況、あるいは将来の経済状況を評価する際の1つのリスクとして、この政策不確実性というのが挙げられます。下ぶれリスクとしての政策の不確実性を把握する際の1つのツールとして、この指標が有用だと思います。内閣府など政府の経済分析を行っている部局では、この指数の活用が実際に行われています。

民間企業の方に視点を移してみますと、例えば、外国に輸出している大企業などにとっては、日本経済だけではなく、世界経済の状況を判断する際に、外国における政策の不確実性にも興味があると思います。その際に、自社が輸出している国の政策をめぐる不確実性が高いのか低いのかを知る際に、この指標を利用するのは有益だと思います。一方、中小企業とこの指標は直接的な関係は強いとは思えません。ただ、中小企業の経営者あるいは従業員の方たちが、株価や金利などの経済指標の中の1つとしてこの政策不確実性指数をウォッチすることによって、日本経済全体あるいは世界経済全体に対する教養や知識を高めることが考えられると思います。

2020年4月21日掲載

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