新春特別コラム:2016年の日本経済を読む

政権運営の安定性と実体経済

伊藤 新
研究員

今年は日米両国で大きな政治イベントがある。日本では参議院議員選挙が行われる。一方、米国では大統領選挙と連邦議会選挙が行われる。これら選挙の結果いかんによっては政権運営が安定性を増すかもしれないし、政治の不安定性が高まるかもしれない。

これまでの実証研究では、政治の不安定性もしくは政策の不確実性の高まりは実体経済へ負の影響を及ぼすことが明らかになっている(たとえば、Julio and Youngsuk 2012; Baker, Bloom, and Davis 2015)(注1)。日米両国で実施が予定されている選挙はその後の政権運営にどう影響するか。このコラムではその点について考えてみる。

大統領と連邦議会のねじれ関係

米国では4年ぶりに大統領選挙が行われる。民主党が2017年以降も引き続き政権を担当するか、それとも共和党が8年ぶりに政権につくか注目される。それに加えて、大統領と連邦議会の関係に変化が起こるかもまた注目される。

2014年に行われた中間選挙において共和党は民主党を破り、議会の上下両院においても過半数の議席を得た。その結果、上院と下院で多数派の政党が異なるというねじれ現象は解消された。しかし、政権を担当する政党と議会で多数派である政党が異なる状況-これは分割政府(divided government)と呼ばれる-は今もなお続いている。

戦後の連邦議会史を振り返ると、分割政府はこれまでにたびたび生じている。したがって、現在の状況は決して特異でない。しかし、近年、党派間の対立がその激しさを増すなかで、分割政府が備える負の側面が目立って現れている。すなわち、民主、共和両党が政策決定過程で激しく対立し、お互いになかなか歩み寄ろうとせず膠着状態に陥るため、政策決定が滞る。こうして、政権運営が不安定であると政府の政策についての先行き不透明性が高まる。

大統領選挙と合わせて連邦議会選挙も行われる。上院では全議席のうち3分の1が改選され、下院ではすべての議席が改選される。政権運営の不安定性が減少するかどうかは両方の選挙結果に依存する。もし政権を担当する政党が上下両院で多数派となる-これは統一政府(unified government)と呼ばれる-ならば、新たに就任する大統領は安定した政権運営を行うことができる。

衆参ねじれのジンクス

目を米国から日本へ転じると、この夏には3年ぶりに参議院議員選挙が実施される。この選挙で起こる可能性があると考えられるのは次の2つである。1つは、与党が過半数 (122)を上回る議席を得て、引き続き参議院で多数派となることである。与党の非改選議席数と改選議席数はそれぞれ76と59である。与党が参議院で多数派となるためには少なくとも46 (=122-76)議席を得る必要がある。

もう1つは、野党が協同することで与党を破り、参議院で過半数の議席を確保し、多数派が入れ替わることである。このとき、衆議院と参議院における多数派はそれぞれ与党と野党となり、国会ではねじれ現象が生じる。野党の非改選議席数と改選議席数はそれぞれ45と62である。野党が参議院で多数派となるためには77 (=122-45)議席を得る必要がある。

後者に関連して、このところ政界関係者のあいだでささやかれているジンクスがあるという。それは「9年目のジンクス」と呼ばれており、1989年以降、自民党は8年おきに惨敗しているというジンクスである(時事ドットコム2015/12/26-14:24, http://www.jiji.com/jc/zc?k=201512/2015122600068)。実際のところ、1989年、1998年そして2007年の選挙において、自民党を中心とする与党は参議院で過半数の議席を得ることができなかった。

さきほど米国について述べたのと同様に、衆参ねじれのもとでは政権運営が厳しくなる。このことはデータからも確認できる。下の図は、新聞社など報道機関が行う世論調査における政党ごとの支持率を活用して作った日本における政権運営の不安定性指数(1978-2014=100)を描いている(注2)。データは1978年6月から2015年12月までである。指数の値が大きければ大きいほど、政権運営が不安定であることを示す。

図:政権運営の不安定性指数
図:政権運営の不安定性指数

直近の2015年12月における指数は76.2である。図からはその指数が1989年、1998年そして2007年の選挙後に急激に上昇していることが見て取れる。

1999年以降、その指数は大きく低下している。1999年に自民党は公明党などいくつかの政党と協同して政権を担当することを決めた。こうして連立与党は参議院において過半数の議席を確保することができ、政権運営の不安定性が減少した。指数の動きはこのことを如実に映し出している。

その一方で、2007年の選挙のあとの数年間、その指数はほぼ横ばいで推移している(注3)。2つの時期に見られる違いを生み出している可能性があると考えられる1つの要因は、2大政党化の進展である。参議院において協同することが可能な政党が減少したため、与党は過半数の議席を確保することが以前よりも難しくなった。政権運営の厳しさという意味では、1998年よりも2007年における状況のほうが深刻だったとみられる。

2016年は「9年目のジンクス」の周期にあてはまる。もし仮に「9年目のジンクス」が今回破られないとしたら、衆参ねじれが再び起こる可能性がある。その場合、政権運営は現在よりも苦しくなる。これは経済活動に対してマイナス要因として働く。

2016年1月8日掲載
脚注
  1. ^ Julio, Brandon and Youngsuk Yook (2012). "Political Uncertainty and Corporate Investment Cycles." Journal of Finance 67(1), 45-83.
    Baker, Scott R., Nicholas Bloom, and Steven J. Davis (2015), "Measuring Economic Policy Uncertainty." NBER Working Paper No. 21633.
  2. ^ この指数についての詳細な説明は、伊藤新「政府の政策に関する不確実性と経済活動」RIETI Discussion Paper Series、近刊を参照。
  3. ^ 2009年の衆議院選挙で民主党が過半数の議席を得て、自民党に代わって政権を担当することになった。それにより衆参ねじれは解消された。このことを反映して指数が低下している。

2016年1月8日掲載

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