第3回

金融安定化策の中間報告発表見送りについて-「竹中プロジェクト・チーム」に期待すること

鶴 光太郎
上席研究員

不良債権の抜本処理を議論してきた「竹中プロジェクト・チーム」の中間報告が与党の反対などにあい、22日の公表が見送られ、月末までに不良債権処理のセイフティ・ネット策と本報告をセットで発表するという段取りになった。

プロジェクト・チームが「密室」での議論を繰り返し、与党への根回し・説明が十分ではなかったことが大きな反発を生んでいる面もあろうが、大胆な政策を一気に進めるためにはやむをえない事情もあろう。むしろ、「こんな対策では株価に影響が出る」と騒ぐ政治家は、「子供」(銀行)の心身を鍛え直そうとしている「先生」(竹中PT)に対して、少し熱が出た(株価が下がった)くらいで怒鳴り込む「過保護な親」のようで見苦しい。どこまで「子供」を甘やかして駄目にすれば気が済むのであろうか。竹中大臣が「too big to failの考え方はとらない」と雑誌でのインタビューで発言して物議を醸したが、その主張はまったくの正論である。大銀行しかり大企業しかりである。その意味で、流通業で政府がお墨付きを与えてしまった「too big to fail政策」は禍根を残したといえる。

中間報告で与党や銀行業界から反対されたと伝えられている項目として、自己資本に組み込まれている「繰り延べ税金資産」(貸し倒れ引当の際に損金として認められずに前払いした税金)の扱いがある。これを大幅に圧縮することは、「税効果会計のみをいじっている」、「突然のルール変更だ」との批判もあながち的外れとはいえない。資産や引当をどう評価し、設定するかはどこまでいっても「グレーゾーン」の問題であり、どのように決めても恣意的な部分は残ると考えられる。だからこそ、問題の本質を「基準」や「ルール」に置いてしまうと議論は収束しない可能性がある。一方、多くの銀行にとって貸し倒れが発生し損金が確定しても、銀行が赤字になれば戻ってこないような「繰り延べ税金資産」が自己資本の中で非常に大きな割合を占めていること自体、「自己資本の脆弱性」を端的に示す証拠として強調されるべき点である。

また、RCC(整理回収機構)の活用についても、従来から、銀行に損をさせない買い取り価格にするべきでは等、その買い取り価格を巡って延々と議論がされてきた。しかし、スタンダードな銀行理論は、RCCのようなAMC(アセット・マネジメント・カンパニー)は安く債権を買い取ること(銀行からすれば大胆な損切り)で、債権回収へのインセンティブが高まるし、不良債権を切り離した銀行は本来業務に専念できるという二重のインセンティブ効果を強調している。したがって、高い価格でRCCが不良債権を買い取ればRCC側に回収に努力するインセンティブがなくなり、最終的な国民負担が増加するだけである。銀行に損をさせないことを前提にしたRCCであれば、単に損失の「飛ばし」先でしかなく、本来の機能は期待できない。

「竹中プロジェクト・チーム」の最終報告に期待したいのは、いわゆる「竹中三原則」(資産査定の厳格化、自己資本の充実、ガバナンス強化)の内のガバナンスの部分である。国有化の問題もガバナンス強化のための(一時的な)オプションの1つと理解し、それが目的となるべきではないであろう。背任の際の刑事罰強化(アメリカのS&L破綻処理時なみ)や資本注入時の経営陣の交代などはもちろん重要であるのだが、日本の銀行の場合、経営陣が交代しても、内部昇進の玉突きで上がってくる経営者は「金太郎飴」のようにまったく同じタイプであり、銀行経営が変わるとは到底考えられない状況である。他の業界や外国から経営者を招くような大胆な改革こそ求められているといえる。

2002年10月24日

2002年10月24日掲載

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