RIETI政策シンポジウム

メタナショナル経営とグローバルイノベーション-液晶産業の革新戦略-

イベント概要

第5報告・Q&A

[セッションの概要]

当セッションでは、まず、日本の中小・ベンチャー企業に関連する事例をもとに、東アジア・グローバル経営における経営管理上の必要条件とその仕組みの持続可能な条件を明らかにするとともに、メタナショナル的対応との関係性について報告がなされた。続いて、日本企業が直面してきた競争状況の変化を、4つの要素(技術、投資、市場、設備・部品)に分解し、それぞれの視点で日本企業が取った行動の分析・示唆を行った。

[三本松報告の概要]

三本松報告では、「日本の中小・ベンチャー企業の関連する事例」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

  1. 本研究は、トランスナショナル企業論上のフレームワークに関連して、その課題であったグローバルなバリューチェーンとダイナミックな企業成長を組織能力(組織ルーティーン)の視点で新たに説明しようとするものである。
    知識経済化し、かつ、グローバル最適な分業が進展する現状において、中小・ベンチャー企業が今後とも持続的成長を図るには、その製品・サービス供給において可能なイノベーションのフィールドを、国内のみならず東アジア地域、グローバル市場に拡大し、必要な経営管理を実施することが求められる。
    先進的なイノベーション主導で東アジア・グローバル経営を実践(または志向)している中小・ベンチャー企業12 社の事例で全体フレームワークの妥当性を確認することで、物とサービス別にその経営管理上の必要な条件と、仕組みの持続可能な条件を明らかにした。経営管理上の必要な条件は、物とサービスの商品特性は異なるが、共通な経営管理上の条件は、「通常、個別最適に陥りやすい各機能チェーンを全体最適化する仕組みを構築運用し、最適化した業務ルーティンにより事業運営を行うこと」。また、仕組みの持続可能な条件は、「参加者間のWINWIN関係の構築と運用」である。
  2. 東アジアグローバル経営への道筋は、6つのレベルに分けることが出来る。レベル1が、輸出段階。レベル2が、現地合弁企業と現地投資する段階。レベル3が、現地で自社投資・現地生産する段階。レベル4が、グローバル展開する複数の子会社機能を統合する段階。レベル5が、本社機能の本社子会社間での分担・統合段階。レベル6が、本国を離れた本社による東アジア・グローバル経営統合段階である。レベル4以降、メタナショナル、トランスナショナルに連動する。
  3. 東アジア・グローバル経営における中小・ベンチャー企業の最新動向として3点挙げる事ができる。1点目は、自動車関連産業を中心に、既存品の量産化に関連し、東アジア内各国での現地生産、地域内販売、その他地域への輸出が行われる段階に来ていること。2点目は、半導体・液晶関連産業において、新製品のグローバル最適な開発・生産・販売モデルが出現して、新製品のイノベーション範囲が東アジア地域内、グローバルに拡大していること。3点目は、経営の東アジア化に関連し、現地の経営人材に、東アジア最適な人が着任するケースが出て来ているということである。
  4. 中小・ベンチャー企業の代表的な事例としては、オーテック(株)、ナノスコープ(株)、ローツエ(株)の3社が挙げられる。特に、ローツエ(株)は、半導体・液晶関係のロボット製造ベンチャーであるが、韓国子会社は三星電子と協力して新製品開発し、これを自社のグローバル新商品にしている。現地で顧客企業とナレッジ交流をして新製品開発をしており、ナレッジマネジメント的に見れば、現地子会社が現地顧客と連携して、メタナショナル的対応をしていると捉えることが出来る。

[許斐コメントの概要]

許斐コメントでは、「LCDの競争変動を考える」をテーマに、以下の点についての指摘がなされた。

  1. 日本企業が直面してきた競争状況の変化を捉えるためには、4つの要素を押える必要がある。1点目が技術の問題。2点目が投資(資金調達)・リスクの問題。3点目が市場の問題。4点目が設備・部品の問題である。
  2. まず1点目の技術の問題。技術という側面から見ると、技術をいかに吸収し開発するか、モデル開発をどうするか、技術の開発・権利化をどうするか、権利行使戦略をどうするかとかいう問題があったはずで、それに対する戦略はどの会社もさしたるアドバンテージはなかった。もう少し戦略的に資源をマネジメントすることが、今後も課題として残る。
  3. 2点目の投資の問題。これは非常に深刻な問題である。1993年の米ドルの政策変更を引き金にバブル崩壊が起こり、会計制度の問題、会社法の変更などに伴い、日本企業は効率的に限られた財務リソースを調達することが安定経営に繋がるという状況に立たされた。その結果、シャープのように特定のニッチ、強みのある所に絞る戦略が出てきた。ただ、これは市場を絞る、つまり成長市場の需要に応えないということを意味し、結果そこに隙間が出来た。台湾企業のように、グローバルに財務リソースを求め、それを投資する事業力や事業意欲をもっていたかというとそうはいえなかった。
  4. 3点目の市場の問題。イノベーションというのは、単なる技術発明でもないし事業化でもない。市場ニードといかに適応するかが重要であり、販売(市場)まで世界を知っていなければならない。製品だけに限定していている状況では発展がない。たとえばテレビでも、世界は日本のように、ディスカウンターがあり、どこの店へ持って行っても回転率と利益率が良ければいい場所に置いて販売してくれるというような、フリーマーケットではない。
  5. 4点目の設備・部品の問題。設備メーカーの技術が退化している傾向にある。モノを作って商品化するというだけの技術では十分とはいえず、技術開発の主導権を握ることへの意識が重要だと考える。
  6. 上記4つの要素のコアには経営力がある。これは、広く世界を多元的に見る力のことで、メタナショナル的視点にも繋がる考え方だといえる。

[Q&Aの概要]

Q. サムソンはソニーの投資資金を受け入れることが正しい選択だったのか? ソニーが果した役割というものはあったのか? ソニーとサムソンの合弁会社に対し、サムソンにとって技術、ナレッジ面からみて、どのようなメリットがもたらされたのか?

A. サムソンにとって、ソニーとの合弁には2つのメリットがあった。1点目は、液晶産業では大量の資金がかかる(新しいパネル生産に3億ドルの資金が必要)なか、合弁によってソニーと資金面でリスク分担ができたこと。2点目は、ソニーから安定的な需要ルートを確保できたことがある。
結果、世界TFT-LCD市場において、特に大画面LCDのシェアを見ると、現在、サムソンとソニーは1位、2位である。ソニーに提供することで、サムソンの市場シェアはLGやPhilipsなどの競争相手を超えた。一方、ソニーもこの合弁企業から提供されたパネルによって、シャープとの競争において市場シェアを増加させている。私は、両社がWIN-WIN関係にあると強調したい。
サムソンがソニーの技術を取り入れているかどうかについて、私は強く疑っている。ソニーに技術があるかどうかは関係なく、サムソンは自社で技術を開発することができた。液晶市場においてソニーはメジャーではなく、自前のパネル生産工場も保有していない。その様な中、どうやってソニーがサムソンに技術移転を出来たのか。確かに、ソニーからの投資がサムソンのTFT-LCD市場における競争優位性を支えたが、ソニーとの合弁によってサムソンが劇的に日本の製造業者との交渉能力や日本人製造業者からの技術応用能力を高めたことは意味しない。

Q. 投資すべき分野は理解できても、投資ができるとは限らない。資金調達、投資能力の問題がある。日本の電気メーカー大手にその能力が欠けていたのはなぜだと考えるか?

A. 当時の企業の目的意識には、株主に対する利益貢献や配当利益拡大などがなかった。そのため、日本企業にはその能力も備わっておらず、投資すべき分野が分かっていても対応できなかったのが実情だと考える。今後、国内だけで戦うことが賢くない選択になる中、リスクの高い投資をどのように決断していくかが重要になってくる。