RIETI政策シンポジウム

メタナショナル経営とグローバルイノベーション-液晶産業の革新戦略-

イベント概要

  • 日時:2007年3月14日(水) 10:00-18:00
  • 会場:パレスホテル ゴールデンルーム (東京都千代田区丸の内1-1-1)
  • 第1報告・第2報告

    [セッションの概要]

    本セッションでは、東アジアにおける地域特性と液晶産業のイノベーションについての問題意識を背景に、日本、韓国、台湾、中国での液晶ディスプレイ産業の特徴を通し、各国の競争優位性について分析結果が報告された。日本はメタナショナル経営から液晶産業というイノベーションを創造し、世界に普及させた。今日において、すでに韓国・台湾企業から追い越されそうな状況にある。この競争環境において日本企業が勝てる戦略に着目した報告であった。

    [田村報告の概要]

    田村報告では、「液晶ディスプレイ産業の地域別動向」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 各国液晶メーカーの関係について、まず、各国のパネルメーカーの投資関係をみると、日本、韓国、台湾のパネルメーカー間に協力しあう関係があることが明らかである。中国に関しては、SVA、NECといった日中企業間の投資関係があった。技術ライセンスについては、日本から台湾、韓国、中国に供与されている。OEMに関しては主にモニターの調達であるが、台湾で主に生産され、日本に輸出されている。部材、装置については日本から各国に流れていくのが現状である。
    2. 液晶パネルの地域別売上高を見ると、ノートPC用パネルについては、主に第4、第5世代の生産にシフトしており、日本のシェア数が減少、韓国のサムソン、LPLの売上が高く、台湾が追い上げているという状況にある。一方中国はまだ低調である。次に、モニター市場の特徴としては、コモディティ色が強い。その結果、特に2005年、2006年に台湾が韓国を上回り、引き離す展開にある。テレビ用パネル市場については従来日本と韓国は肩を並べていたが、TVブランドを有する上位2社(サムソン/LPL)が存在する韓国が強い。産業用、パチンコ用のパネル市場において断トツトップシェアの日本は70%以上をキープしている。携帯用液晶パネル市場においては、日本が2006年において60%以上をキープしている。
    3. 地域別特徴を見ると、日本は部材、製造装置、川上分野が強い。あらゆる新技術・新製品開発を行なっている。LCD TV市場においてブランド力が強く、世界の40%以上を占める。日本メーカーは中小型TFT LCD市場で健在であるが、その上位メーカーは設備投資を継続し、LTPSなどの技術導入と同時に部材の垂直統合を実現している。
      韓国は財閥による大企業体質で、人件費が台湾より高い。しかし、大量生産・垂直統合により低コストを実現させ、半導体事業の成功体験や、潤沢な収益を糧にLCD事業に投資し、短期間でトップシェアを実現した。自社ブランドを優先し、OEM生産には消極的である。日本以外の世界各国でブランド力がある。台湾企業はブランド力が弱いがノートPC/モニター等製品分野でのOEM生産ビジネスが強い。大量生産による低コスト体質は韓国と同様である。LCD TV世界市場での台湾ブランドシェアは5%以下である。
      中国企業には、将来に向けてLCD 搭載製品の大規模需要が期待できる。LCD TV 世界市場での中国ブランドシェアは、国内需要増大により10%まで上昇した。
    4. 今後の生産能力としては、台湾企業がさらに韓国を緩やかに引き離す展開にあると予測される。日本メーカーは強みのブランド力・新製品開発力を更に高めていくことが不可欠である。日本企業は、シャープのように垂直統合の増大により今後浮上してくるだろう。

    [中田報告の概要]

    中田報告では、「液晶ディスプレイ産業における日本の競争力」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 液晶技術は、日本で独自に研究開発され、日本がリーダーシップを発揮して液晶産業を創造し、成長させてきた。その成功要因は、日本企業が長期的かつ明確な商品目標を設定し、試作レベルにある技術を市場が受け入れられる商品にする技術の研究開発を行なってきたことにある。さらに、研究と開発を直結させ、「技術の融合」的なプロジェクトチームを形成し、組織構成員間で濃密な相互作用が導かれたことにある。
    2. 液晶は、各企業が、他社より大きなガラス基板を用い、より大きな液晶パネルを生産しようと、ガラス基板の拡大を原理として「カスタマイズ装置」、「カスタマイズ工程」を用いて競争する。そのため、液晶産業では、標準ガラス基板サイズ、「技術ロードマップ」や「標準化装置」がない。また、液晶パネル工程での分業は不可能である。つまり、液晶工程のアーキテクチャは「すり合わせ型」工程といえる。
    3. 液晶製品はTV用液晶パネル、パソコン用液晶パネル、中・小型液晶パネルに分けられる。パソコン用液晶パネルはノートパソコン用に「モジュール化」され、「コモディティ化」している。パソコンメーカーは多数の会社から購買することにより、同じ品質のパネルを低価格で供給することを求める。
      一方、TV液晶パネルには高画質という高パフォーマンスが要求され、長期にわたる研究開発と多額の設備投資が必要され、「擦り合わせ型」のビジネス・アーキテクチャが適している。
    4. 液晶産業において日本はなぜ韓国、台湾に抜かれたのか。まず、日韓台3カ国の液晶への投資戦略に違いがある。日本の投資の特徴は前年度の利益の影響に左右される。それに対して、韓国企業は企業ビジョンを作り、それに基づいて投資を行ってきた。台湾の場合は、2003年に外部資金調達をして大きな投資を行った。
      また、韓国、台湾は後発者優位性を発揮し、日本より積極的に暗黙知が埋め込まれた第5世代装置を導入してきた。先発者である日本企業はまだ以前の生産装置が残っていたので積極的な導入を実施しなかった。
      さらに、韓国、台湾は半導体産業で蓄積された研究・生産のノウハウを生かしてクリーン技術、歩溜まり管理などの技術を学習した。
    5. シャープの例をあげると、クリスタルバレー構想によって工場建設を実施している。シャープは亀山工場や多気工場の周辺に部品、素材メーカーを誘致させ、液晶産業クラスターを作り上げた。さらに、材料・部品・装置メーカーと一緒に基礎研究から設計・試作までのR&D活動を行っている。つまり、日本の競争力源泉は、クローズド・イノベーション・ネットワークにおける「暗黙知のすり合わせ」にある。