RIETI政策シンポジウム

メタナショナル経営とグローバルイノベーション-液晶産業の革新戦略-

イベント概要

  • 日時:2007年3月14日(水) 10:00-18:00
  • 会場:パレスホテル ゴールデンルーム (東京都千代田区丸の内1-1-1)
  • 第3報告・第4報告

    [セッションの概要]

    第1部後半では、韓国、台湾で成功を収めている液晶ディスプレイ企業の実情を通し、その成功とメタナショナル経営の関係について分析結果が報告された。液晶ディスプレイ産業の競争は激しく、業界で勝ち残る為にはスピードある意思決定と行動が必須である。それらはメタナショナル経営から生まれるイノベーションの創造と組織の有機的な統合が可能になることにより実現できる、という仮説のもと、飽和状態にある日本の企業と成長を続けている韓国、台湾企業の経営方針、構造の違いに着目した報告であった。

    [Song報告の概要]

    Song報告では、「韓国液晶ディスプレイ産業成長の背景―サムスン電子を事例として」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. サムスン電子が過去10年間、液晶ディスプレイ産業のトップに君臨できたのは、過去に成功した半導体事業で得たノウハウ、販売チャネル等の経験による。強いリーダーシップにより、液晶ディスプレイ事業への巨額の投資が素早く決定されたことで、効率的でスピードある技術移管、事業展開を可能にした。ライフサイクルの早いこれら産業においては、資金力とスピード経営が重要である。
    2. 半導体事業で得た開発技術、ナレッジはサムスン電子の社内だけでなく、関連企業、提携企業にシェアされ、液晶ディスプレイ事業の価値を共創した。
    3. サムスン電子に限らず、サムスン・グループの成功は、先見の明あるトップの強い意思決定力、スピード経営、リスクに果敢に立ち向かう姿勢と責任感が重要な要素となっている。将来の価値を創造する技術開発に対する巨額投資は、トップの強固な意思決定が必要である。一方で、日本の企業は、強いリーダーシップを発揮し、スピード経営を実行できる企業構造ではない。
    4. 垂直統合型の企業構造により、グループ内に並行して存在する技術開発部門で創造される価値は有機的に統合されている。開発技術のシナジーを創り上げるという企業グループ内でメタナショナル的な経営がなされている。これはシナジー効果による価値の創造を促進すると同時にグループ内の開発競争を促進するサムスン・グループの競争優位の源泉である。
    5. しかしこれらの成功および韓国人が持つ強い民族意識が、国際的な本来のメタナショナル経営の弊害になっている側面もあることは事実である。今後サムスン・グループは真のメタナショナル経営の実現に向けて行動することが必要である。

    [王報告の概要]

    王報告では、「急成長する台湾液晶ディスプレイ産業―AUO(友達光電)を事例として」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 液晶ディスプレイ産業で成功する企業の条件は、技術開発能力、資本能力、市場開拓能力の3つの能力を同時に備えることである。技術革新が早い産業において後発企業である台湾企業が成功するには、メタナショナル経営を実行することが必要とされた。
    2. 3つの能力はメタナショナル経営と密接な関係がある。メタナショナルな経営者は世界に散在する知識をイノベーションした製品に転換し、商品化させる。台湾のAUOが成功した理由は、技術開発は技術先進国の日本から提供してもらい、資本は資金調達がオープンな米国で行い、市場開拓は台湾で発展させる、というメタナショナル経営の実行があげられる。メタナショナル経営は、リスクを軽減し、機会を最大化することを可能にする。
    3. AUOの事例から見た、スタートアップ企業におけるメタナショナルの経営戦略から、以下のインプリケーションが得られた。
      ● 技術導入、知識移転後の技術自立、知識価値創出への転換する能力の必要性
      ● 導入した資金の規模の経済性による価値創出
      ● 量産能力の蓄積と十分な生産能力を保つ為、国内の既存の川下産業と結合
    4. 液晶産業のような技術進歩が早い産業では、メタナショナル経営が重要であり、メタナショナル経営のメリットを生かすために最も重要なのは、これらをマネージするトップの意思決定のスピードである。今日の台湾企業の成功はスピード経営が最も重要な鍵であったと分析する。

    [松本コメントの概要]

    松本氏はテレビと、テレビのキーデバイスとしての液晶という見方で議論を整理し、以下のコメントがなされた。

    1. 液晶ディスプレイ産業において、企業は、メイク・オア・バイの意思決定で、メイクを選択した場合、しばしば「売ること」が避けられないジレンマに陥る。統合事業型である日本企業は投資回収へ向けて、部品の量産規模を拡大する選択肢を取るしかなく、結果的に自社完成品のコモディティ化を促進し、自社ブランドを棄損する可能性がある。
    2. デバイスを、完成品の差別化に利用しやすいというメリットを持つ日本企業は、一方で、デバイス生産のコスト競争で劣勢になる可能性があり、文化による好みがある完成品はブランド力なども必要である故に、日本企業のグローバル展開を遅れさせた可能性を持つ。
    3. 韓国企業は、コスト競争で優勢に立つことができ、デバイスでグローバル展開を可能にした。テレビ完成品は近年では質、デザインを向上させており、ブランド力も向上している。
    4. 台湾企業は、コスト競争力の面では優勢にあり、また、グローバルにも展開しやすいと思う反面、もし完成品に今後進出するのであれば、ジレンマが生じるのではないか、と考える。