データ・統計

R-JIPデータベース2021

都道府県別産業生産性(R-JIP)データベース2021について

地方を中心に急速に進展する高齢化・過疎化や製造業で加速する生産の海外移転等により、地域間経済格差や産業の地域分布の動向、地方財政の維持可能性、等について不確実性が高まっている。各国間の所得・労働生産性格差に関する最近の研究では、EU KLEMSデータベース・プロジェクトに代表されるように、産業別に資本ストックや労働の質を推計し、物的・人的資本蓄積や産業構造の変化、産業別の全要素生産性(TFP)の動向等で各国間の所得・労働生産性格差の原因や経済収束を説明しようとする分析が行われるようになった。しかしこのアプローチは、日本を含め一国内の地域間所得格差に関する研究ではあまり採用されていない。これはおそらく、必要な国内地域別・産業別データを得ることが難しいためであると考えられる。

このような問題意識から経済産業研究所(RIETI)の「産業・企業生産性向上」プログラムの下に地域別産業別生産性に関するプロジェクトを2011年度から立ち上げ、一橋大学経済研究所と協力し、日本の地域間生産性格差や産業構造を分析するための基礎資料として、「都道府県別産業生産性データベース」(Regional-Level Japan Industrial Productivity Database、略称R-JIP)の構築に取り組んできた。

4回目の改定となるR-JIPデータベース2021では、推計期間の延長だけでなく、推計方法の大幅な改定を行った。その理由は、産出(付加価値)推計の基本情報として利用してきた「県民経済計算」が、平成23年基準に改定されて2008SNA対応となったことから、「R&Dの資本化」に対応して付加価値概念、資本概念の変更が行われたからである。R-JIPデータベース2021では、推計期間を1994年以降とし、「県民経済計算」付加価値の遡及データがない1994年から2005年の期間は、「県民経済計算推計方法ガイドライン」に沿って「国勢調査」の情報などを利用して独自に付加価値の遡及推計を行った。推計方法の詳細については、下記関連ディスカッション・ペーパーの[1]を参照されたい。

なお、都道府県別の企業内研究開発費などの推計においては、「国勢調査」のオーダーメイド集計(従業地ベースの都道府県別、産業別の科学研究者・技術者の就業者数)を利用した。独立行政法人統計センターにはオーダーメイド集計の利用を承諾いただき、一橋大学経済研究所にはオーダーメイド集計補助プロジェクトに採択いただきその費用の一部を補助いただいた。

R-JIPデータベース2021の主な特徴

  1. (1)データの推計期間は、1994年から2018年。
  2. (2)産業分類は31分類。これは、現行の県民経済計算の経済活動別分類の表章よりも5部門少ない。R-JIPデータベース2021では農林水産業、電気・ガス・水道・廃棄物処理業、不動産業を1部門として扱っているほか、化学と石油・石炭製品は1部門に統合している。これは、資本ストック推計に必要な情報が、都道府県レベルで事業所数が少ない分野では秘匿されていることなどの制約を考慮してのことである。
  3. (3)本データベースでは、47都道府県別×31産業別に全要素生産性を計測するために必要な、名目・実質付加価値、質の違いを考慮した資本・労働投入、産業別全要素生産性水準の県間格差と県別産業別全要素生産性上昇率の計測結果、等の(暦年)年次データを公表する(一部データはベンチマーク年のみ)。
  4. (4)R-JIPデータベース2021は、全国版の日本産業生産性(JIP2021)データベースをコントロールトータルとしているが、産業部門数がより簡略化されていることのほかにも幾つかの点で違いがある。まず、中間投入の情報はなく、アウトプットは粗付加価値で測られている。また、都道府県別アウトプット計測の基本情報として利用している「県民経済計算」では、持ち家の帰属家賃が不動産部門(の住宅賃貸業なか)に含まれている。R-JIPデータベースではサービス業としての不動産業の生産性に注目するため、持ち家及び給与住宅の帰属家賃を除いて定義している。その一方で、持ち家の帰属家賃に該当する部門を別に立ててはいなので、持ち家及び給与住宅の帰属家賃相当額が付加価値から差し引かれ、また資本ストックからも持ち家及び給与住宅分が差し引かれており、JIPデータベースの全国合計値と乖離を生じている。さらに、「県民経済計算」では「資本化される防衛装備品」の配備状況が把握できない等基礎データの制約のため県別の推計は行われていない。このためR-JIPデータベースの推計では、コントロールトータルであるJIP2021の資産別資本投資から防衛装備品を控除し、また付加価値(国内総生産)からは防衛装備品の資本減耗分を控除しており、JIPデータベースの全国合計値との乖離のいま一つの要因となっている。
  5. (5)R-JIPデータベース2021に新たに加わった特色の一つは、企業内R&Dや自社開発ソフトウェアといった無形資産の情報が加わったことで、県別生産性水準格差や生産性上昇率の要因分解を、これまでの固定資本の情報だけでなく無形資産の情報を加えて要因分解できるようになった。いま一つの新しい特色は、広義サービス業分野の分類がより詳しくなったことで、例えば、小売業、宿泊・飲食サービス業、情報サービス・映像音声文字情報制作業、保健衛生・社会事業といった業種を取り出して地域間の生産性比較を行うことが可能になった。これらの情報を使った分析例としては、下記関連ディスカッション・ペーパーの[1]を参照されたい。

R-JIPデータベース2021を補完する情報

R-JIPデータベースの研究プロジェクトでは、推計方法のテクニカルな改善を含むデータの更新作業を行うことに加えて、地域データに特有の事情によって生じるより抜本的な問題をどのように扱うかについても検討を行い、その結果をディスカッション・ペーパーの形で発表している。ここでは、新しい結果を2つ紹介する。

  1. (1)サービス価格の地域差を推定しそれを生産性の地域間格差分析に反映させる試算については、RIETI-DP-17-J-012でも報告したが、そこで不十分であった二つの課題について新たに取り組んだ。その一つは卸売・小売業の地域間サービス価格差の推計で、いま一つは生産額ベースで推計した地域間サービス価格差の付加価値ベースへの転換である。その結果については、下記のRIETIディスカッション・ペーパー[2]で報告している。
  2. (2)サービス分野の生産性においてはその立地条件が重要とされる。そして、立地条件の差異は地価に反映されると考えられる。通常の生産性格差要因分解では、土地投入を生産要素投入の一つとして計測しないが、生産要素としての土地を考慮することによって立地条件の差異の問題は考慮できると考えることができる。そこで、都道府県別産業別に土地投入を計測し、R-JIPデータベース2021と組み合わせて地域間生産性格差分析を行った。その結果については、下記のRIETIディスカッション・ペーパー[3]で報告している。参考までに、[3]で作成した都道府県別・産業別の土地投入データを付帯データとして掲載する。

関係するRIETIディスカッション・ペーパー

  1. [1]徳井丞次・牧野達治、「R-JIPデータベース2021の推計方法と分析結果」、RIETI Discussion Paper Series 22-J-007.
  2. [2]徳井丞次・水田岳志、「地域間サービス価格差と生産性格差再考 -卸売・小売業の価格差推計と付加価値ベース価格差への変換を含む再推計-」RIETI Discussion Paper Series 22-J-008.
  3. [3]徳井丞次・水田岳志、「土地投入と地域間生産性格差」RIETI Discussion Paper Series 22-J-014.

現在R-JIPプロジェクトの主な参加者は次のとおりである。

  • 徳井丞次(信州大学・経済産業研究所)
  • 深尾京司(一橋大学・経済産業研究所)
  • 宮川努(学習院大学・経済産業研究所)
  • 牧野達治 (一橋大学)
  • 水田岳志(元一橋大学)
  • 新井園枝(経済産業研究所)
  • 川崎一泰(中央大学)
  • 権赫旭(日本大学)
  • 金榮愨(専修大学)
  • 池内健太(経済産業研究所)

R-JIPデータベースの構築においては、利用可能なデータ上の制約に加えて、地域データ特有の難しい問題があり、これまでのR-JIP2017公表時や今回紹介した二つの試算において取り組んでいる。しかし、データの定期的な更新が期待される本データベースにおいて、これらの試算を継続的に反映させるには困難が伴い、当面は影響評価に留めたいと考えている。我々は引き続き、R-JIPデータベースの更新と改善に取り組んでいきたいと考えている。

徳井丞次
深尾京司
牧野達治

※データのご利用にあたって

データをご利用の際は出所として、R-JIP2021を利用した旨、明記して頂くようお願いします。また、本データを利用して論文を作成・発表される場合、コピーを一部お送りくださるようお願いします。

お問い合わせ
一橋大学経済研究所サービス産業生産性プロジェクト室
e-mail:jip-info@ier.hit-u.ac.jp

ダウンロード

R-JIPデータベース2021 [XLSX:6.1MB]

2023年6月6日更新

1994年から2018年まで毎年(暦年)の都道府県別産業別データベースである。以下の各系列が収録されている。

  1. 付加価値
    1. 1) 実質(2011年価格、100万円)
    2. 2) 名目(100万円)
  2. 資本
    1. 1) 実質純資本ストック(知的財産生産物以外)(2011年価格、100万円)
    2. 2) 名目資本サービス(知的財産生産物以外)(100万円)
    3. 3) 資本の質指数(知的財産生産物以外、全国共通産業別)(2011年=1.000)
    4. 4) 実質純資本ストック(知的財産生産物)(2011年価格、100万円)
    5. 5) 名目資本サービス(知的財産生産物)(100万円)
    6. 6) 資本の質指数(知的財産生産物、全国共通産業別)(2011年=1.000)
  3. 労働
    1. 1) 総労働時間(就業者数*就業者1人あたり年間総実労働時間/1000)
    2. 2) 名目労働コスト(100万円)
    3. 3) 労働の質指数(都道府県別産業別)(2011年=1.000)
    4. 4) 労働の質格差指数(都道府県別産業別)(全国幾何平均との乖離、ベンチマーク年と直近年)
    5. 5) 就業者数(人)

労働生産性格差分析用ワークシート

22年3月17日更新

  1. 1) 資本投入合計 [XLSX:4.5MB]
  2. 2) 有形資本と無形資本別 [XLSX:6.1MB]

成長会計分析用データ [XLSX:5.1MB]

22年3月17日更新


付帯データ

22年4月6日更新

  1. [3]で作成した都道府県別・産業別の土地投入データ [XLSX:1.0MB]