新春特別コラム:2024年の日本経済を読む~日本復活の処方箋

X(エックス)時代の日本復活の処方箋:『ABCDEFG』レシピ

佐藤 克宏
コンサルティングフェロー

たくさんの変化が速く大きく進む時代になっている。最近で言えば、急増する災害、数々の紛争や戦争、目まぐるしく動く為替相場、そして人間の行動様式さえも根本から変えてしまいそうなChatGPT等の生成AIの台頭。もちろん、脱炭素化を筆頭に進んでいるサステナビリティの潮流もある。今や数えきれないほどの要因が、社会・経済・産業に絶対的な構造変化をもたらしている。

そのような中で、日本企業の間では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に代表される「なんとかX」というものが、その成長力と競争力の復活のレシピとして叫ばれている。「x」といえば、学生の頃には、数学の授業で格闘する数式における「未知数」であった。このような未知数を表す「x」に対して、今の「X」は日本企業に次なる成長をもたらしてくれる変革(transformation)を表すものとして使われている。それでも、そのような変革を本当に始められるのか、そのような変革を本当に成し遂げられるのかは、やはり未知数のままである。そこで、新春に当たって、日本企業に求められる「なんとかX」というものを筆者なりにABCDEFGと挙げていきながら、それぞれの要諦を考えてみたい。

  • AX: Aspiration transformation
    「無欲」から「意欲」への変革。日本企業は往々にして変化を苦手とするあまり現状維持に甘んじてしまい、成長に対して無欲になりがちだ。自社の存在意義であるミッション、自社の将来ありたい姿であるビジョン、あるいはパーパスの下、成長への健全な意欲を持ち、それを追求し続けることが、初めの一歩になる。強い意欲を持つことから始めないといけない。
  • BX: Business transformation
    「改善」から「改革」への事業の変革。誤解を恐れずに言えば、日本企業のお家芸ともいえるカイゼンが日本企業を思考停止に陥れている。昨日より今日、今日より明日、というように毎日が少しでも良くなっていればよいという小刻みの延長線の思考から脱しないといけない。いま進んでいる構造変化を好機として大きな跳躍を狙っていく大胆なジャンプの思考こそ必要なのだ。
  • CX: Capability transformation
    「技術」から「武術」への強みの変革。日本企業の強みは何かというと、一番に技術が挙がってくる。もちろん技術は大切だが、どのように事業化したり商業化するのか、そしてどのように稼ぎ切るのか、というところまでが勝負である。技術だけでなく、マーケティングなどを含む事業化や商業化までのスキルも組織的に備えて、総合格闘技としての武術を強みにしていく時代になっている。
  • DX: Digital transformation
    「熟練」から「洗練」へのデジタルによる変革。デジタルトランスフォメーションは、いまや言い古された感さえある。これまで一握りの数の熟練社員に頼ってきた日本企業において、デジタルトランスフォメーションは社員の誰もが一気呵成に世界最先端のエクセレントな洗練された水準に達することができる可能性をもたらす。これによって、事業や仕事の高度化や効率化を進めない手はない。
  • EX: Employment transformation
    「個人演技」から「集団演技」への働き方の変革。日本企業には部や課などの集団としての組織単位があるが、組織間が縦割りになっている上に、組織内においてさえも上司・部下という関係を前提に社員それぞれが個別に働いている。誰もがリーダーであるというシェアードリーダーシップという考え方の下で、社員それぞれが各自の強みを持ち寄って、そのシナジーとしての集合知を生み出して活用するワン・チームで協働していけば、これまでにない大きな競争力を発揮できる。
  • FX: Foreigner transformation
    「異邦」から「同邦」へグローバル化の変革。日本企業を見ていると、いまだ英語への苦手意識に始まって、異邦たる海外への進出の難しさを先入観として持っており、何事もまずは日本市場から始めることで十分という思考になっている。日本市場が成熟してしまっている中では、海外の国々や人々も同じ地球上の同邦と思い、そのニーズや課題に積極的に取り組んでいくことで、最初からグローバル市場を狙っていくべき時代になっている。
  • GX: Green transformation
    「濫造」から「創造」というグリーンへの取り組みの変革。サステナビリティの下でクリーンエコノミーやサーキュラーエコノミーへの取り組みが進んでいるが、日本企業を見ているとまるで施策の乱れ撃ちのような様相になっていて、取りあえずできることや取りあえず取り組めることに飛びついている濫造という印象を拭えない。「グリーン」について将来の目指す姿を自社なりのビジョンとして明確にした上で、そこに向かって進んでいくための企業戦略を定め、それを実行していくことで次の時代の社会を創造していくような進め方への転換が必要だ。

日本の経済の復活は、日本の産業の復活からであり、それは日本企業の復活からになる。まずは成長の意欲を強く持って(AX)、目指す姿に向かって事業を改革し(BX)、技術だけにとどまらない総合的な強みを武術として持って(CX)進んでいく。その旅路においては、誰もがデジタルによって世界最先端の洗練を使いこなして事業の高度化や効率化を実現し(DX)、社員それぞれ強みを持ち寄る集合知によって競争力ある事業運営を実現する(EX)。そして、世界を1つの市場として最初からグローバルを視野に事業展開して(FX)、クリーンエコノミーやサーキュラーエコノミーが進むグリーンの中で社会や経済や産業の次の姿を創造していく(GX)。この「ABCDEFG」レシピが、日本企業、そして日本の復活の処方箋になる。

2023年12月22日掲載

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