新春特別コラム:2022年の日本経済を読む~この国の新しいかたち

中小企業のカーボンニュートラル化に向けた地域金融機関の役割

家森 信善
ファカルティフェロー

求められるカーボンニュートラル化への対応

ポストコロナにおいて、中小企業はさまざまな課題に直面している。重要な課題のひとつが気候変動リスクへの対応である。2021年11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、岸田首相は、「2030年度に、温室効果ガスを、2013年度比で46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向け挑戦を続けていくこと」を内外に約束し、また、自動車のカーボンニュートラルの実現に向け、「2兆円のグリーンイノベーション基金を活用し、電気自動車普及の鍵を握る次世代電池・モーターや水素、合成燃料の開発」を進めることを表明した(注1)。

カーボンニュートラル化が自動車関連産業に大きな影響を与えることは想像に難くない。例えば、トヨタ自動車の豊田章男社長によると、内燃機関以外のクルマしか生産できなくなると、国内生産が800万台以上削減されることになり、国内雇用の大半を失う恐れがある(注2)。そして、カーボンニュートラル化は自動車産業に属する中小企業に限らず、幅広い産業の中小企業に非常に大きな影響を与えることが予想されているのである。

遅れている中小企業のカーボンニュートラル化への対応

自動車産業に限らず、大手企業のトップが異口同音に危機感を表明し、具体的な取り組みに着手している。その一方で、必ずしも中小企業の経営者の多くは、カーボンニュートラル化への対応を自分ごととしていないようにみえる。

商工中金が2021年7月に実施したアンケート調査「中小企業のカーボンニュートラルに関する意識調査(2021年7月調査)」の結果をみてみよう(注3)。この調査は商工中金の取引先約1万社に調査票を郵送し、5,297社から回答を得ている。従業員規模が30人以下の企業が回答者の48.8%を占めている。

まず、カーボンニュートラルの促進により、6つの観点で自社の経営に好影響・悪影響いずれかがあるとした企業は71%に上るが、逆に言えば、「全て影響なし」と捉える企業が26%もあった(注4)。企業規模別にみると、おおむね規模が小さい企業ほど「影響なし」と回答する比率が高くなっている。例えば、「省エネルギー化の影響」についての回答を紹介すると、年商「5億円以下」では、「影響はない」が61.2%であるが、年商「100億円超」企業の比率は40.7%まで小さくなる。規模が小さいほど影響がないとは考えられず、影響を認識できていない小規模企業が多いということだと捉えるべきであろう。

同アンケートでは、カーボンニュートラルの影響への方策の検討状況についても尋ねている。それによると、全体では、「実施している」は10.8%にとどまり、「検討している」(9.2%)を加えても、20%しか対応していないのである。そして、図に示したように、規模の小さい企業ほど対応できておらず、年商「5億円以下」企業では何もできていない企業の比率が84.6%にも達している。ただし、年商「100億円超」企業でもこの比率が71.2%もあるので、中堅企業においても対策が遅れていることは否定できない。

図 カーボンニュートラルの影響への方策の検討状況(年商別)
図 カーボンニュートラルの影響への方策の検討状況(年商別)
(出所)商工中金「中小企業のカーボンニュートラルに関する意識調査(2021年7月調査)」。

地域金融機関の取り組み状況

商工中金の調査では、カーボンニュートラル化への対応の実施・検討に至る動機についても聞いており、「方策の検討・実施の動機となり得るもの」としてエネルギーコストの削減、補助金・税制への優遇、規制強化、企業イメージの向上などの回答が多かったが、「外部からの要請」と回答したものも593社(全体の約20%)あった。

そして、商工中金の調査では、この593社に対して、具体的な要請してきた先を聞いている。それによると、販売先が圧倒的で68.3%(既にある18.2%、今後ありそう50.1%)であった。そして、行政機関(33.0%)、仕入先(22.6%)、商工会・業界団体(17.3%)が続き、取引金融機関は11.7%(既にある2.9% 今後ありそう8.8%)にとどまっている。金融機関からの要請が「既にある」というのは17社しかなく、回答者全体から見ると0.3%にすぎないことになる。

しかし、地域金融機関にとっても顧客のカーボンニュートラル化への対応は他人事ではない。これまでの優良取引先が瞬く間に不良先となってしまう恐れすらあるのである。地域金融機関が積極的に対応する必要があるのは明らかである。

もちろん、積極的に取り組んでいる地域金融機関もある(注5)。例えば、環境省の第2回「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」において金賞(環境大臣賞)を受賞した滋賀銀行は、第7次中期経営計画(2019年4月~2024年3月)において、挑戦指標として「Sustainable Development 推進投融資」を掲げている。具体的には、独自の環境格付け評価や生物多様性格付け評価に基づいて優遇した条件での貸出資金(しがぎん琵琶湖原則支援資金)商品を提供しているだけではなく、SDGs視点を組み込むように課題解決型の支援力を高度化させたSDGsコンサルティング業務を提供し始めている。

その際の観点としては、①取引先のビジネス機会の拡大、②取引先のレジリエンスの向上、③地域経済のサステナビリティの強化であるとのことである。サステナビリティ・リンクローン(SLL)についても、金利を優遇することに主眼があるのではなく、あくまでも、伴奏型支援による「企業価値向上」を目指すことにあるとしている。

ESG要素の事業性評価への組み込みを

上述したように、深度のある取り組みを行っている地域金融機関も存在する。しかし、全体としては、カーボンニュートラル化への対応について、金融機関から取引先企業への働き掛けが広がっていないのが現実である。

現状を変えることができるかは、地域金融機関の中核能力である事業性評価の仕組みにESG要素を組み込むことができるかにかかっている。筆者は、事業性評価の高度化を図っていけば、自然にESG要素を含めたものになっていくと予想している。なぜなら、事業性評価は企業の数字には表れにくい強みや弱みを理解することであり、その強みや弱みにESG要素が大きく影響しているからである。ただし、大手地域金融機関ですら、手探りで事業性評価への取り込みの試行錯誤をしている状況であり、取り組みの加速化が急務である。

筆者は環境省の地域ESG金融促進事業の委員を務めているが、令和2年度事業では、きらぼし銀行「知的資産経営導入プロジェクト取組先へのESG要素を考慮した新たな事業性理解の実現」、北陸銀行「気候変動関連に対する地域金融機関としての顧客への支援体制の確立」、愛媛銀行「養殖漁業に対するESG要素を考慮した事業性評価の導入及びモデル構築事業」など、まさにそうした方向での好事例も出てきている(注6)。

こうした取り組みを広げていって、地域中小企業の経営力を強化することが、日本の中小企業の持続可能性を高めることに大きく資するのではないだろうか。

脚注
  1. ^ https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1102cop26.html
  2. ^ https://toyotatimes.jp/insidetoyota/169.html
  3. ^ https://www.shokochukin.co.jp/report/research/pdf/other211021.pdf
  4. ^ 6つの観点とは、省エネルギー化、電気自動車の普及、化石燃料(石油、ガス、石炭)の削減、環境税導入などエネルギーコスト増加、消費者の環境負荷への配慮の高まり、環境に配慮した投資や融資の進展、である。
  5. ^ 地方銀行のさまざまな取り組みは、以下の地方銀行協会の資料に詳しい。
    https://www.chiginkyo.or.jp/app/entry_file/kankyo_20210519.pdf
  6. ^ これらの事例についての詳しい紹介は、環境省「ESG地域金融実践ガイド2.0」および同事例集を参照して欲しい。
    https://www.env.go.jp/press/109424.html

2021年12月22日掲載

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