新春特別コラム:2021年の日本経済を読む〜コロナ危機を日本経済再生のチャンスに

バイデン政権のエネルギー環境政策と日本の課題

有馬 純
コンサルティングフェロー

エネルギー環境政策の揺り戻し

バイデン政権の誕生によって米国のエネルギー温暖化政策は大きく変わることになる。バイデン次期大統領の選挙公約では2050年までにエコノミーワイドでネットゼロエミッション、2035年までに技術中立的基準により電力部門のCO₂排出ゼロを達成、連邦所有地における石油・ガス採掘権のリースやフラッキングの停止、800万の国産PVパネル、6万の国産風車を設置、2030年までにすべての新築建築物をネットゼロエミッション化、5年以内に400万の既存建物の省エネ化、クリーンエネルギー自動車の購入支援、全国50万の充電ステーションの設置、脱炭素化技術開発の支援等の野心的な項目が列挙された。国際面ではパリ協定への再加入、政権発足100日以内に気候変動サミットを主催し、各国に国別排出目標(NDC:Nationally Determined Contribution)の引き上げを働きかけ、緑の気候基金への出資、海外における石炭関連融資の停止等が盛り込まれている。これらを実施するため、4年間で2兆ドルの予算を動員するとしている。またパリ協定のコミットメントを果たしていない国からの製品輸入に対しては国境調整課金を賦課するとしているが、これはEUが検討中の炭素国境調整メカニズムと同じ考え方に立つものであり、今後の貿易政策にも大きな影響を与え得る。

両院も制したことにより公約実現に弾み

バイデン次期政権がエネルギー温暖化分野の選挙公約をどれだけ実行に移せるかは2021年1月5日のジョージア州の2議席の帰趨に依存していた。ここで民主党が2議席ともとらない限り、上院の共和党過半数が続くことになり、巨額な財政支出や炭素税、排出量取引等の新法制定の可能性は大きく低下する。トランプ政権時代に凍結された緑の気候基金に対する拠出再開も難しくなる。しかし決選投票では大接戦の末、民主党が2議席とも獲得することとなった。民主党が上下両院を制したことはバイデン政権がエネルギー温暖化政策を進める上で大きな弾みとなろう。もちろん上院における審議妨害(フィリバスター)を乗り越える60議席には足りないため、新法の導入は依然として容易ではない。しかし民主党が上下両院の議事運営をコントロールできる強みは大きい。財政調整手続きを活用すれば過半数で予算を通すことが可能になる。議会の関与なしにできることも多い。トランプ大統領が行政権限で緩和、廃止した環境規制については同じく行政権限で強化、復活が可能となる。またトランプ政権は連邦レベルを超えるカリフォルニア州の自動車燃費規制を阻止しようとしたが、バイデン政権ではそのようなことはなくなる。電力分野の2035年カーボンニュートラルを達成するため、オバマ政権におけるクリーンパワープランのように大気浄化法の枠内で規制的措置(非化石燃料義務等)を導入する可能性もある。

バイデン次期大統領や気候変動特使に指名されたケリー元国務長官はパリ協定復帰や気候サミットといった温暖化外交でリーダーシップを誇示しようとするだろう。他国にNDCの引き上げを迫るのであれば、米国自身もオバマ政権の2025年▲26-28%(2005年比)に代わる野心的な2030年目標を早期に提示する必要がある。民主党が上下両院を制したことにより、こうした動きは加速するだろう。

オバマ政権の気候変動外交の大きな特色は米中協力であり、パリ協定の合意はその成果であったが、現在、米中関係は新冷戦と言われるほどに悪化している。温暖化関係者は中国に対して甘い傾向が強いが、議会が超党派で中国に対して厳しいポジションを示している中でオバマ時代のような米中協力が再現するかは疑問である。

日本への影響と課題

バイデン政権の誕生により、米国がEUと同様、温暖化防止に大きく舵を切ることは日本にも大きな影響をもたらすだろう。先般、新政権に近い専門家と意見交換する機会があったが、菅総理の2050年カーボンニュートラル目標を高く評価しつつ、2050年目標だけでは不十分であり、2030年のNDCをそれと整合的なレベルまで引き上げることが重要であると強調していた。米国自身の2030年目標設定は検討中の第6次エネルギー基本計画やその結果としてのNDCの見直しにも間違いなく影響を与えるだろう。例えば民主党のエネルギー温暖化関係者は石炭を非常に敵視しており、2020年7月に発表された非効率石炭火力のフェードアウトや石炭火力輸出の厳格化を超える対応を迫ってくる可能性もある。

米国は日本にとって最重要の同盟国であり、温暖化分野でもバイデン政権との協力を模索していかねばならない。温暖化防止に貢献する技術は原子力、炭素回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon Capture, Utilization and Storage) を含め全て動員し、イノベーションを重視するという点ではグリーン成長戦略の中核にイノベーションを据える日本と共通点も多い。

今後の温暖化問題の帰趨を握るのはアジア地域である。中国の排出量が2030年以前にピークアウトするとしてもインドやASEAN地域では排出量は増加を続ける。これら地域では再エネのみならず天然ガス、石炭消費も増える。日本としてはアジア地域のエネルギーの実情を米国に理解させ、アジア諸国も受け入れ可能なエネルギー転換に向けた日米協力の可能性を探るべきだ。米国のLNG輸出によりアジア地域の天然ガス市場が発展すれば、石炭からガスへの転換が加速されるだろう。CCUSの実証プロジェクトを日米+ASEAN諸国で推進できれば、その意義は大きい。

米国で政権交代があるたびにエネルギー温暖化政策が左右に大きく振れるのは米国のみならず、世界にとっても困ったことだ。バイデン政権には超党派で支持が得られる温暖化政策の推進を期待したい。イノベーションはそうした施策の代表例であり、政権交代に左右されない日米協力の可能性もそこにある。

2021年1月8日掲載

この著者の記事