新春特別コラム:2021年の日本経済を読む〜コロナ危機を日本経済再生のチャンスに

コロナ危機を乗り越えて、事業承継のチャンスに

家森 信善
ファカルティフェロー

コロナ禍で厳しくなる事業承継環境

2020年は、コロナ禍の影響の長期化・深刻化によって中小企業の事業環境は極めて厳しい状況が続いた。幸いにも、政府の強力な資金繰り支援のおかげで、業績の大幅な悪化にもかかわらず、企業倒産は落ち着いている。例えば、東京商工リサーチによると、2020年1-10月の全国の企業倒産は6,646件であり、前年同期比でみると若干ではあるが減少している(4.4%減)(注1)。

一方で、同じ期間に全国で休廃業・解散した企業は4万3,802件で、前年同期比で21.5%増と急増している。東京商工リサーチによると、2000年以降の最多だった2018年(4万6,724件)を大幅に上回るペースである。近年、休廃業・解散企業数の増加傾向が続いてきたが、コロナ禍で事業の継続を諦める中小企業が今後増えていくことが心配される。

例えば、大同生命が9月に実施し、全国の約13,000社から回答を得た「大同生命サーベイ:事業承継と後継者育成」の調査結果を見てみよう(注2)。まず、「事業承継をしたい」企業の比率は58%であり、2019年1月の調査結果(73%)に比べて15%ポイントも低下している(注3)。そして、コロナ禍によって「(事業承継についての)心境に変化があった」との回答が16%に上っている。業種別にみると、コロナ禍のダメージの大きかった宿泊・飲食サービス業ではこの値が24%と高くなっている。

「心境に変化があった」企業のうちの32%が「事業承継の時期を延期したい」と回答している。また、「廃業に転換したい」という回答も8%あった。業種別にみると、宿泊・飲食サービス業では「延期」が48%、「廃業」が10%であった。コロナ禍が事業承継を遅らせたり、廃業を増加させたりする可能性が確認できる。

後継者が決まっていて、承継のタイミングを探していた企業の場合には、企業価値が一時的に落ち込むと、株価の評価額が低くなり後継者への株式承継を進めやすくなるので、事業承継を促す場合もある。しかし、企業の業績が悪化し、将来の先行きが見えなくなっているために、このタイミングで事業承継を進めることへの不安が事業承継のブレーキになっている企業の方が多いというのが現実のようである。そして、経営者の高齢化が進んでいる日本では、事業承継の延期は事業承継のタイミングを逃して廃業に移行する危険性を高めるのである。

事業承継はチャンス

筆者が2019年2月に、兵庫県信用保証協会の利用企業に対して実施した調査結果によると、事業承継後に利益を伸ばしている企業が多く、しかも後継者が若いほど成長の度合いが高い(表1)(注4)。同様の結果は、2019年版『中小企業白書』でも報告されており、若い承継者ほど企業を成長させる傾向があるといえる(注5)。これは、若い経営者の方が、事業の変革に挑戦しやすいからなのであろう。

ポストコロナ時代を展望すると、これまでの事業のやり方を大きく変えなければならないことは確かである。「新しいぶどう酒は新しい革袋に盛れ」ということわざが教えるように、新しい経営者に任せるべき時が到来したと考えてはどうだろうか。コロナ禍をきっかけに、経営者の世代交代が一気に進めば、革新的なビジネスモデルの企業が次々に生まれるかもしれない。事業承継を加速しなければならなかったこの時期にコロナ禍が発生したという禍(わざわい)を、転じて福となすことにしなければならないのである。

表1:承継時と比較した現在の当期利益
全体 承継者の年齢
39歳以下 40歳代 50歳代 60歳以上
大きく増加 8.5% 15.3% 6.0% 7.1% 6.5%
増加 32.0% 29.9% 37.1% 25.2% 25.8%
横ばい 42.3% 39.6% 42.3% 48.8% 37.1%
減少 13.4% 11.8% 11.2% 15.0% 24.2%
大きく減少 3.8% 3.5% 3.4% 3.9% 6.5%
回答者数 610 144 267 127 62

資金繰り支援にとどまらない地域金融機関への期待

中小企業庁は、令和3年度予算概算要求で、事業承継支援策を強化している。例えば、事業承継総合支援事業では、第三者承継支援を行う事業引継ぎ支援センターに、親族内承継支援を行う事業承継ネットワークを統合し、年間16.8万件の事業承継診断を実施する。さらに、事業承継補助金(経営者交代型)は、事業承継などを契機に、経営革新などに挑戦する中小企業に、設備投資・販路拡大の支援を行うものである。

後継者が見つからない大きな理由が、経営者保証の存在であった。これについては、2019年12月に『事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則』が作られて、事業承継時に前経営者と後継者の双方からの二重徴求の原則禁止が定められ、二重徴求は大幅に減ってきている。経営者保証の軽減策があらかじめ採られていたことは、現在のように将来への不安が大きい時期に事業承継を進める上で幸いであった。

最後になるが、こうした政策努力が効果を持つには、事業者の身近にいる支援者の役割が重要であることを指摘しておきたい。特に、筆者は地域金融機関に、資金繰り支援にとどまらない役割を期待したい。事業者が過度に不安になり、価値のある企業を誤って廃業してしまわないように、事業者と一緒に事業の将来性を確認し、必要な対策を考え、共に歩んでいく支援者であってほしい。これまでに企業としっかりとした関係性が築けていればできるはずである。2021年は、地域に必要な金融機関とそうでない金融機関の選別が進むことにもなるであろう。

脚注
  1. ^ 東京商工リサーチ「2020年1-10月「休廃業・解散企業」動向調査(速報値)」 2020年11月26日。
    https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201126_02.html
  2. ^ 大同生命「中小企業経営者アンケート 大同生命サーベイ 2020年9月度調査」
    https://www.daido-life.co.jp/company/news/2020/pdf/201015_news.pdf
  3. ^ 大同生命から提供を受けた個票に基づいて、共通する回答者(866人)に限定して計算し直してみたが、やはり77.7%から64.4%に大幅に低下している。なお、以下の業種別の計数は個票に基づいて筆者が計算したものである。
  4. ^ 本調査では、2011年7月から2018年11月の間に事業承継を行った中小企業を対象にしている。詳しくは、家森信善編著『地域金融機関による事業承継支援と信用保証制度 地域企業の発展に貢献できる地域金融を目指して』(中央経済社 2020年8月)を参照。
  5. ^ 出所 同白書の第2-1-24図
    https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/2019/html/b2_1_2_3.html

2020年12月24日掲載

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