多角化と価値創造が支える地域のエッセンシャルサービスの持続性:フランスにおけるビストロ・ド・ペイ(地域のビストロ)の実践

関口 陽一
上席研究員

はじめに

少子高齢化と人口減少が進む日本の地方において、食料品をはじめとする生活必需品の卸小売り、交通、運送、ガソリンスタンドなど生活の維持に必要なエッセンシャルサービスの担い手不足が深刻化している。こうした状況に対応するため、複数のサービスを一体的に提供することによる効率化、すなわち多角化が注目されている。

2026年の産業競争力強化法の改正により創設された生活維持役務等効率化促進事業(注1)において、異なるサービスを組み合わせ、事業範囲の拡大や経営資源の合理化を図る多角化が支援対象とされた。しかし、日本では、エッセンシャルサービスの多角化が十分に体系化されているわけではない。

一方で、フランスの農村地域で展開されるビストロ・ド・ペイ(Bistrot de pays:地域のビストロ)は、エッセンシャルサービスの集約にとどまらず、多様な機能を組み合わせながら新たな価値を創造し、持続性を確保している。本稿では、2023年に全国の認証施設を対象に実施された調査結果(注2)を参照しながら同制度の特徴と実態を整理し、多角化と価値創造を両立させるモデルとしての意義を検討する。

ビストロ・ド・ペイの仕組みと機能

ビストロ・ド・ペイは、農村地域で失われつつあるビストロを支援し、地域住民の交流拠点として活用することにより、地域コミュニティーの維持と活性化を図る認証制度である。1993年に南フランスで開始され、2003年のビストロ・ド・ペイ全国連盟(Fédération nationale des Bistrots de pays)設立後に制度の普及とネットワーク化が進み、2025年時点で9地域・41県の125施設が認証を受けている(注3)。

認証を受ける施設は、①農村地域に立地、②地元食材を使った手作り料理の提供、③通年営業、④地域活動への積極的な参加といった要件を満たす必要がある(注4)。これらの要件は、単なる飲食機能にとどまらず、地域に根ざした持続的な拠点としての役割を担うことを求めるものである。

実際の運営においては、飲食提供に加え、食料品販売、郵便や宝くじの取り扱い、観光案内、イベント開催、さらには宿泊機能まで多様なサービスが一体的に提供されている施設も少なくない。ビストロ・ド・ペイは、複数のエッセンシャルサービスと交流機能を統合した地域プラットホームとして機能している。

多角化と価値創造のメカニズム

ビストロ・ド・ペイの特徴は、多角化による効率化に加え、新たな価値創造を同時に実現している点にある。

第一に、多角化が需要の補完関係を生み出している。飲食、物販、観光機能を組み合わせることで来客数が増加し、単独では採算確保が難しいサービスも、全体として維持できるようになっている。

第二に、地域資源を活用した価値創造が集客力を高めている。地産地消の料理やイベントが観光客を引き寄せ、地域外からの需要を取り込むことで売り上げの増加と収益の安定に寄与している。認証取得後に87%の施設で来客数が増加し、90%の施設で認知度が向上していることは、この効果を裏付けている。

第三に、コミュニティー機能の強化が社会的価値を生み出している。住民同士や住民と観光客の交流の場となることで地域の魅力を高め、さらなる来訪者を呼び込む好循環につながっている。

ビストロ・ド・ペイは、「多機能化による効率化」と「価値創出による需要創造」を結び付けることで、地域におけるエッセンシャルサービスの持続可能性を高めている。

持続性を支える制度

これらの取り組みは、制度的にも支えられている。

第一に、認証制度によりブランド化され、信頼性が確保されている。ビストロ・ド・ペイ全国連盟が共通の基準に基づき認証し、利用者に安心感を与えている。また、ネットワーク化により、情報発信力も強化されている。

第二に、自治体の関与である。55%の施設が自治体所有の建物を活用しており、初期投資の負担が軽減されているほか、自治体によるプロモーション、イベント企画などの運営支援も行われている。

施設の30%は再就職やキャリア転換した経営者のもとで、67%が従業員数5人以下で運営されている。制度的な支援もあり、ビストロ・ド・ペイは小規模事業者でも成立する事業モデルになっている。

一方で、事業承継が課題になってきている。2028年までに事業承継を検討している施設のうち、2023年時点で対応が決まっているのは12%にとどまる。各ビストロが持つ「その場所の精神」の価値を高め、保全・発展・継承する(注5)ためにも、人材確保・継承支援の強化が欠かせない。

おわりに

ビストロ・ド・ペイの事例からは、地域におけるエッセンシャルサービスの維持には、単なる効率化だけでなく、価値創造を通じた需要の拡大が不可欠であることが示唆される。複数サービスの統合(多角化)と、人々を引きつける魅力の創出(価値創造)を同時に実現することで、サービスの持続性を高めることができるのである。日本においても、地域資源の活用、担い手の確保・育成、自治体による支援などを組み合わせ、地域特性に応じた持続可能なモデルを構築することが求められる。

ビストロ・ド・ペイは、小規模事業者も、多角化と価値創造を通じて地域のエッセンシャルサービスを支えられることを示している。今後の日本における地域のエッセンシャルサービスの再構築においても、こうした統合的なアプローチは有効と思われる。

本稿執筆にあたり、小松俊昭氏 (合同会社家守公室代表) から貴重な示唆を得た。ここに深く感謝の意を表する。

脚注
  1. ^ https://es-jissho.go.jp/
  2. ^ https://www.bistrotdepays.com/chiffres-cles
  3. ^Fédération nationale des Bistrots de pays (2025) "Dossier de presentation: À destination des collectivités locales"
  4. ^ https://www.bistrotdepays.com/page/appel-a-candidatures-2026.html
  5. ^ https://www.bistrotdepays.com/page/la-charte

2026年6月16日掲載