中小企業向け補助金への申請効果:「若い」企業への事業計画作成支援の有効性

橋本 由紀
研究員(政策エコノミスト)

Hashimoto & Takahashi (2021)では、中小企業庁が実施した2014年度と2015年度の「小規模事業者持続化補助金」(以下、持続化補助金)事業について、同補助金への申請と受給の効果を分析した。そこでは、補助金受給には企業の売上高や生産性(1人あたり売上高)を高める効果はなかったが、補助金事業への申請を通じて企業の生産性が高まっていたことを確認した。続くTakahashi & Hashimoto (2022)では、持続化補助金への申請後の生産性の上昇は創業から10年以内の若い企業で顕著であることを明らかにした。以下ではTakahashi & Hashimoto (2022)から、申請企業の生産性向上効果が産業や企業の操業年数によって異なること、およびその理由を紹介したい。

持続化補助金の申請効果と受給効果の対照性

リーマンショック後、大企業の労働生産性は緩やかに上昇していたが、中小企業の生産性は伸び悩んでいた。そこで中小企業庁は、販路の開拓などを通じて生産性向上に取り組む小規模事業者を支援する目的で、2013年に「持続化補助金」制度を創設した(注1)。企業は補助金への申請時に、地域の商工会や商工会議所の助言を受けて「経営計画」と「補助事業計画」を作成し、計画に基づいて事業を進める。小規模事業者に対する経営計画の作成支援は他国でも広く実施されているが、すべての申請事業者に経営計画へのアドバイスを受ける機会を提供する持続化補助金のような仕組みはほとんどない。英国のWren & Storey (2002)や米国のKlinger & Schündeln (2011)の事例のように、審査を通過した企業だけが支援を受ける事業が大半である。

経済産業研究所では「総合的EBPM研究」プロジェクトにおいて、2014年度と2015年度事業の申請と審査に関する情報を中小企業庁小規模企業振興課から提供を受け、持続化補助金の申請と受給の効果を分析した。分析の詳細はHashimoto & Takahashi (2021)とTakahashi & Hashimoto (2022)に譲るが、補助金受給には企業の売上高や生産性を高める効果はなかった一方、補助金事業への申請を通じて企業の生産性が高まっていた。

持続化補助金の受給効果が観察されなかった理由

補助金受給の効果が認められなかった理由としては、1件あたりの補助金額が小さいことや、成長企業の判別が難しいことが考えられる。

McKenzie (2017)は、ナイジェリアで開催されたビジネスプランコンテストを分析し、企業業績を有意に高まるためには賞金額が十分に高い必要性を強調している。この事例においてコンテスト受賞者は、高額の資本を購入し、より多くの労働者を雇用することでイノベーションを実現していた。さらにクロアチアに関する研究でも、補助金が効果を発揮するためには、企業利益に対する助成金額の割合が高いことの必要性が述べられている(Srhoj et al. 2021a)。これらの研究を踏まえると、持続化補助金の最大50万円(2014年度)という補助金額は、小規模事業者の物的・人的制約を緩和するには十分でなかった可能性がある(注2)。

もう1つの理由は、審査点が企業の将来の売り上げや利益と相関しない可能性である(McKenzie & Sansone, 2019)。これは、補助金受給の効果が出そうな企業を審査員が選ぶ「目利き」の難しさを意味する。ベンチャーキャピタルが有望な投資案件(ディール)を見いだすことが極めて難しいことと同様に、補助金事業の審査員が補助金受給の効果を見込める企業を事前に選ぶことも容易ではないのかもしれない。

応募時のビジネスプランニング支援の有効性

有意な申請効果という結果は、補助金事業への申請手続きに組み込まれた事業計画の策定支援サービスが小規模事業者に有用である可能性が考えられる。先行研究でも、戦略的な事業計画は企業の業務効率を高め、競争上の優位性につながることが報告されている(Hewlett, 1999; O’Regan & Ghobadian, 2002)。また、業績の良い企業ほど事業計画を策定していることを分析した研究も多い (AlQershi, 2021; Gibson & Cassar, 2005)。これらのエビデンスは、企業が抱える課題を確認し、それを克服するために事業計画を策定することの重要性を示すものである。

しかしながら、戦略的な事業計画の重要性を認識しつつも、社内の人的・物的リソースが十分でないために、独力で事業計画を再考する余裕のない小規模事業者も少なくないと思われる。このような企業にとって補助金事業を通じた第三者からの客観的な経営アドバイスは、課題の克服や新たな商機の発見を通じてさらなる成長につながる機会となり得る(Hewlett, 1999; O’Regan & Ghobadian, 2002)。

そして、第三者からの経営アドバイスが企業の成長と実際に相関することを報告する研究も多い。例えば、Robson & Bennett (2000)は、アドバイスの利用の増加と中小企業の成長との間の正の相関関係を確認している。Okamuro (2007)が分析した日本の中小企業では、外部資源へのアクセスの拡大が共同研究開発の成功確率を高めていた。Focacci & Kirov (2021)は、政府や地方自治体との協力が英国では自動車分野、ブルガリアではICT 分野の企業にイノベーションをもたらしたことを実証している。そしてBerry et al. (2006), Uhlaner et al. (2013), Bruhnet al. (2018)は、事業戦略、採用、税制、財務管理に関する外部からの助言が、全要素生産性や雇用を高めていたことを示している。

持続化補助金の申請効果が観察されるタイミングの違い

持続化補助金を申請することの効果は、創業直後(0~5年目)の企業が最も小さく、創業6~10年目の若い企業で最も大きかった。そして創業から11年目以降は、社齢が上がるにつれて申請効果は低下していた。この結果は、Audretsch & Fritsch (2002)とSantarelli & Vivarelli (2007)が提起した「回転ドアメカニズム」によって説明できる。「回転ドアメカニズム」とは、創業直後の時期は事業の失敗確率が高く、企業の倒産と参入が頻繁に生じる状況を指す。このような倒産と(再)参入を繰り返す企業は、イノベーションをもたらす真のアントレプレナーとは区別されるべき存在である。しかし、回転ドア企業と優良企業を外部から見極めることは難しいため、効率性の観点からは経営がある程度軌道に乗った企業に補助金を給付することがより合理的となる(Santarelli & Vivarelli, 2007)。

創業直後の企業は経営を軌道に乗せるための日々の操業に追われ、次段階の成長に向けた経営課題に取り組む余裕がなく、補助金申請のプロセスを効果的に生かすことが難しいことも考えられる。一方、創業から6~10年経過した企業は、経営がある程度軌道に乗りつつもさらなる成長のための経営課題がみえてくる段階にある。さらに、創業から10年未満の企業は、より社齢が高い企業よりも、規模が小さかったり組織の柔軟性が高かったりすることで、外部からの助言を素早く経営に反映させられることもあるかもしれない。申請ではなく受給の効果をみる研究ではあるが、若い企業ほど補助金の効果が大きいことは、Bronzini & Iachini (2014)、Howell (2017)、Santoleri et al. (2020)、Srhoj et al. (2021b)などでも示されている。

産業によって異なる申請効果のタイミング

ただし、創業6~10年目の企業の高い申請効果はサービス業と建設業でのみ観察され、製造業では創業直後(0~5年)の企業の申請効果が最も高かった。サービス業や建設業において回転ドア企業の割合が高ければ、創業直後の淘汰から生き残った企業が、外部からのアドバイスや事業計画見直しの機会を経営に生かして、生産性を高めていた可能性がある。

製造業でのみ新規参入企業の申請効果が高かった理由は、2つ考えられる。第一に、製造業のサンクコストの相対的な高さである。サンクコストが高いセクターでは起業直後の失敗が少ないが(Audretsch et al., 1999)、製造業は起業時の投資額がサービス業などと比べて大きく、事業がうまくいかなかったときのサンクコストの高い産業と考えられる。そのため製造業の創業者は、高額の初期費用を調達でき、かつ事業の見通しが立った段階で初めて起業に至るとすれば、早々に倒産する「回転ドア」企業の割合は製造業では相対的に少ないと思われる。また、同じ業界での前職の経験は新規創業企業の存続可能性を高める上で重要な役割を果たすが(Santarelli & Vivarelli, 2007)、持続化補助金への申請企業の代表者の年齢をみると、製造業はサービス業と建設業よりも有意に高かった。補助金事業への申請時の代表者が創業時の代表者と一致しない場合や、他産業での経験を持つ者が製造業で創業する場合も考えられるが、製造業の新規参入企業は、製造業での職務経験の長い経営者が率いることで創業直後から補助金への申請効果を発揮できているのかもしれない。

2つ目の理由は、他の資金へのアクセスの差である。例えば、「ものづくり補助金」(注3)は、持続化補助金に先駆けて2013年に創設された中小企業向け補助金である。補助金額の上限は持続化補助金より大きく、申請企業の70~80%は製造業である。創業当初の設備投資が重要な製造業において、新規企業がものづくり補助金など他の資金調達手段もより積極的に活用するとすれば、製造業企業の持続化補助金への申請効果は、他の補助事業への申請・受給効果も含まれることで過大に評価された可能性もあるかもしれない(注4)。

小規模事業者にとって効果的な補助金制度とは

持続化補助金事業の特徴は、日本商工会議所や全国商工会連合会の都道府県連やその支部、市町村商工会が経営計画の作成を支援する点にもあると思われる。両組織は日本全国に2,000カ所以上の地域団体があり、地域の小規模事業者が直面する問題に精通しているため、地域や産業事情を踏まえた実践的な助言を行えるのかもしれない。地域の実情に即した中小企業向けカウンセリングの有効性は、Dalton et al. (2021)でも確認されている。

持続化補助金の効果に関する分析や諸外国の中小企業向け補助金の研究結果は、日本商工会議所や全国商工会連合会のような地域に根差した組織が、小規模事業者にアドバイス料などの負担をかけることなく自社の経営課題の解決を促すような補助金制度の有効性を示しているといえよう。また、経営が軌道に乗りつつある若い企業を一層成長させるような選択と集中が、補助金の効率性の観点から有用であることも、持続化補助金の分析や「回転ドアメカニズム」に関する研究のエビデンスからの含意である。

ただし、過去のエビデンスが将来にも当てはまる保証はない。例えば、事業に応募する企業の属性が大きく変われば、過去の分析結果が妥当でなくなることもある。対象とする政策の評価分析と諸外国の先行研究の確認を継続しながら、効率的で効果的な補助事業となるような不断の改善は重要である。

脚注
  1. ^ 補正予算で措置される持続化補助金は毎年度の予算規模が変動するが、2013年度補正(事業実施は2014年)の予算は144.6億円だった。
  2. ^ 2014年度事業では、雇用の増加、従業員の処遇改善、買い物弱者対策に取り組む事業者には補助上限額が100万円だったが、50万円以上の補助金を受給した事業者は、全採択事業者の8.76%だった。
  3. ^ 「ものづくり補助金」はサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善などを行う中小企業や小規模事業者の設備投資等を支援する補助金の通称だが、正式名称と支援内容は、制度の創設当初から何度か変更されている。
  4. ^ 持続化補助金とものづくり補助金の申請・受給の重複については、今回の研究では調べられなかった。
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2023年1月10日掲載