2023年を軍縮・不拡散の年に ~ 安保理、G7で試される日本の発信力

竹内 舞子
コンサルティングフェロー

1.次世代を守る核兵器?

北朝鮮によるミサイル実験が激化する中で世界に新たな衝撃をもたらす出来事があった。北朝鮮の金正恩国務委員長がミサイル発射実験の現場や成功を祝う功労者の記念撮影の機会に少女を伴って現れたのだ。この少女は金正恩委員長の子供であるとも報じられている(注1)。将来国内で重要な地位を占めるかもしれない子供が大量破壊兵器の開発に笑顔で立ち会う姿を目にすると、この国では軍国主義的価値観が次の世代にも引き継がれていくのだということを改めて実感する。

防衛省は、北朝鮮がすでに核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載して日本を攻撃する能力を保有していると分析している(注2)。そのような国が、2022年には大陸間弾道ミサイルを含むミサイル発射実験を前例のない頻度で繰り返した。発射実験は単に力の誇示や挑発のためだけではなく、技術開発の一環である。数多くの実験を通じて北朝鮮の弾道ミサイル技術はさらに向上したことだろう。これは日本の外交・安全保障にとって極めて深刻な問題である。日本国内では「そうはいっても実際に日本にミサイルが落ちるようなことはないだろう」という思いがあるかもしれないが、偶発的なミサイル攻撃の可能性は常にあるし、発射実験が失敗することもあり得る。それに、核兵器は使われなくても、その能力があると主張し核攻撃をほのめかすだけでも外交上の武器になり得る。

2.軍縮・不拡散政策の重要性

北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの開発は日本が直面する脅威の1つにすぎない。2022年末には防衛力強化に関する議論の中で改めて日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが指摘された。日本の国土を守る防衛力の強化も必要であるが、日本が国際の平和のためにこれまで続けてきたもう1つの取り組みを世界に改めて呼びかけることも忘れてはならない。軍縮・不拡散である。軍縮は、今ある兵器を減らしていくこと、不拡散というのは、兵器そのものや、兵器の開発・製造に使われる材料や技術が、それを入手されては困る相手(国やテロリストなど)に渡ることを防ぐことである。核兵器を例にすれば、核兵器を持つ国が核兵器自体の数を減らすよう呼びかけるのが核軍縮であり、核兵器開発を進める北朝鮮が核兵器の製造に必要な物資を輸入できないようにすることは不拡散の取り組みである。このような外交的な取り組みを通じて安全な国際環境を作り出すための努力は、物理的な防衛力の強化と並んで重要である。

皮肉なことであるが、核を持たない日本が北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威にさらされている状況は、軍縮・不拡散の重要性を端的に示している。近隣国が国際社会からの強い圧力にもかかわらず大量破壊兵器の開発を続け、予告なしに発射されたミサイルが、漁船が操業している海域に落下したり、人々が生活する都市の上空を越えたりするような状況は極めて深刻である。10月に北朝鮮の弾道ミサイルが日本列島上空を通過し、国民に避難を呼びかける警報が発出された際には、米国などでも大きく報じられた。子供たちがミサイル警報を受けた避難訓練をしなければならないような日本にするのか、平和を維持して発展する日本を残すのか。これは防衛力、外交力をはじめとした国家のあらゆる力を結集して取り組むべき課題だ。

3.2023年を軍縮・不拡散外交史に残る1年に

2023年は日本が国連安保理非常任理事国となるだけでなくG7(主要国首脳会議)の議長国となるので、日本の多国間外交において極めて重要な年である。安保理がいわば機能不全に陥っているともいわれる中で、日本が前回安保理非常任理事国であった2016年から2017年とはまったく違う状況下で存在価値を示していかなければならない。特に1月には安保理に加わると同時に安保理の議長も務めることになる。

G7議長国としては5月には広島でのサミットが開かれる。ここで軍縮・不拡散に関して日本がどのようなメッセージを発信できるのかは当然注目されている。不拡散関連の会議としては有志国政府と国際機関や市民社会による大量破壊兵器不拡散のためのグローバルパートナーシップ会合なども行われる。

軍縮・不拡散に関して日本が強いメッセージを発信できるまたとない機会とそれを行う舞台は整った。さらに言えば、軍縮・不拡散については、単に「メッセージ」を唱えるだけではなく、日本が積極的に国際世論を作り出して各国が軍縮・不拡散に関する措置を実際に取るよう働きかけていく必要がある。先に述べたようにこれは日本を取り巻く安全保障環境を改善するための取り組みでもある。多国間外交の場で日本の発信力が高まる1年を逃すことなく、軍縮・不拡散に対する日本の声を世界に発信してほしい。

脚注
  1. ^ 「敬愛する金正恩同志が新型大陸間弾道ミサイル『火星17』発射実験の成功に寄与したメンバーと共に記念写真を撮影」朝鮮中央通信2022年11月27日。
  2. ^ 防衛省『令和4年版防衛白書』78頁(日経印刷、2022)。

2023年1月5日掲載

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