RIETIにおけるEBPMの一例:「なでしこ銘柄」選定の株価への短期的効果

角谷 和彦
研究員(政策エコノミスト)

本コラムでは、経済産業省経済産業政策局経済社会政策室が選定する「なでしこ銘柄」の効果を実証分析した角谷 (2021) の概要を紹介する。本政策では毎年、女性活躍推進に優れた上場企業約45社が「なでしこ銘柄」として投資家に向けて発表される。角谷 (2021) では、選定企業一社(処置企業)の株価と、非選定企業群(対照企業群)の株価を発表日前後の日次で比較することで、「なでしこ銘柄」選定の短期的効果を推定した。処置企業には、2017年度選定のオムロンを用いて、対照企業群には、オムロンと同規模・同業種(TOPIX Mid400・電気機器)の25社を用いた。

図が分析結果となる。横軸は、2017年度「なでしこ銘柄」発表日(2018年3月22日)を1とする(3月の)株取引日となっている。縦軸は、日次の株価変化率となっている。オムロンが黒色の太線、対照企業群25社が灰色の線となっている。

2017年度「なでしこ銘柄」発表日前後の株価変化率(オムロンvs対照企業群25社)
図:2017年度「なでしこ銘柄」発表日前後の株価変化率(オムロンvs対照企業群25社)

発表前の期間、オムロンの株価は対照企業群と似た変動をしている。発表当日、オムロンの株価は対照企業群よりも上昇しており、選定の効果と考えられる。翌日、オムロンの株価は対照企業群よりも下落しており、揺り戻しと考えられる。それ以降、オムロンの株価は対照企業群と似た変動をしているため、選定の効果は発表当日と翌日に起きたと考えられる。図で示唆された「なでしこ銘柄」選定の効果を推定するため、角谷 (2021) ではSynthetic Control Method (SCM) を用いている。詳細は割愛するが、SCMによる結果は図の結果を確認、補強する内容となっている。

今後の課題としては、株価以外のアウトカムや長期的効果の分析が考えられる。また、「なでしこ銘柄」や類似の「健康経営銘柄」のような表彰制度に関する実証分析は少なく、 EBPMのために今後も研究を蓄積していく必要がある。

参考文献

2022年6月9日掲載

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