コロナ禍での失業者・求職者データに気になる動き

角谷 和彦
研究員(政策エコノミスト)

本コラムのメッセージは、
1. コロナ禍で失業者が増加している。
2. しかし、ハローワークでの求職者登録は減少している。
3. 失業者の求職活動に支障が出ている可能性がある。
4. ハローワークでの求職者登録を要件にしている失業給付の受給にも支障が出ている可能性がある。
以下、順に説明していく。

1. コロナ禍で失業者が増加している。

図:完全失業者数(万人、季節調整値)
出典:総務省「労働力調査(基本集計)」

上の図から、コロナ禍で失業者数が徐々に増加しているのが分かる。完全失業者は定義上、何らかの求職活動をしている点に留意して次の図を見て頂きたい。

2. しかし、ハローワークでの求職者登録は減少している。

図:新規求職申込件数(万人、季節調整値)
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」

上の図で、新規求職申込件数とは公共職業安定所(ハローワーク)で当月に求職者登録をした人数である。コロナ禍で大きく減少しているのが分かる。

なぜ、何らかの求職活動をしている失業者が増加している中、ハローワークでの求職者登録は減少しているのか? 推測を二点述べてみたい。一点目は失業者側の事情である。求職申込みは、ハローワークの窓口で手続きを行う必要がある。コロナ感染を恐れて、失業者がハローワークに出向くことを避けている可能性がある。二点目はハローワーク側の事情である。感染拡大防止のため、窓口での手続きに加えて郵送やインターネットでの求職申込みが4月から可能になった。平時とは異なる対応のため、ハローワーク内での事務作業が遅れている可能性がある。

失業者・求職者に関するこれらのデータは何を示唆するのか? 3と4で述べてみたい。

3. 失業者の求職活動に支障が出ている可能性がある。

平時であればハローワークに求職者登録していたであろう失業者が、コロナ禍でハローワークを利用できていない可能性がある。ハローワークの代替となる求職手段が効率的ではない場合、失業者の入職を遅らす懸念がある。

補足
以上の1-3に関連して、川田恵介先生(東京大学社会科学研究所准教授)も「COVID-19の拡大がハローワークにおける職探し自体を抑制している可能性がある。」と述べている他、労働市場の動向に関して以下の点も指摘している:「一般に求職者の増大は、経済ショックからの遅効性が大きいという点に注意が必要である。これまでの経験から、求人の下落から一定のタイムラグを経て、求職者の増大が生じてきた。そのため、日本においても今後、求職者の急増が観察される可能性が高い。」
http://www.crepe.e.u-tokyo.ac.jp/material/crepecl8.htmlから一部抜粋)

4. ハローワークでの求職者登録を要件にしている失業給付の受給にも支障が出ている可能性がある。

図:雇用保険基本手当 受給資格決定件数(万人、季節調整値)
出典:厚生労働省「雇用保険事業月報」及び労働政策研究・研修機構

上の図から、雇用保険基本手当(いわゆる失業給付)の受給認定数は、2020年4月に減少しているのが分かる(失業者が1月から4月に増加しているにもかかわらず)。

失業給付を受給するには、ハローワークに求職者登録をすることが要件の1つになっている。2で述べたように、郵送やインターネットでの求職申込みが4月から可能になった。しかし雇用保険の受給資格決定手続きについては、依然としてハローワークを訪れる必要がある。コロナ禍で求職者登録や受給資格決定手続きができない・遅れている失業者に対して、社会保障が十分に機能していない恐れがある。

2020年6月3日掲載

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