科学技術・イノベーションに関するEBPMの現状と課題

池内 健太
上席研究員(政策エコノミスト)

本稿では日本における科学技術・イノベーション(STI)政策におけるEBPMに関する近年の取り組みを筆者の経験を踏まえて概観し、今後に向けた課題について私見を述べたい。

筆者は2011年度に「客観的根拠に基づく政策形成」の実現を目指して開始された文部科学省の「科学技術イノベーション政策のための科学の推進」事業(現在のSciREX事業)に開始当初から現在まで継続的に関与している。近年では 2019年度に「共進化実現プログラム」が開始され、現場での行政ニーズを明確化した上で、各拠点大学の研究者の問題意識や強みとのマッチングを行うことで、より直接的に実践的なEBPMの成果創出を目指す体制となった。

一方、経済産業省においては、2018年度からRIETIにおいて開始された「総合的EBPM研究」プロジェクトにおいて「ものづくり補助金の効果」等いくつかのSTI政策に関する研究テーマが進められ、筆者も「研究開発税制の効果検証」に取り組んでいる。本プロジェクトでは、行政官側で顕在化した政策ニーズを起点として、RIETIの研究者と行政官が密な情報交換を行いながら、政策効果の検証分析に取り組んでおり、上述の文部科学省SciREX事業の「共進化実現プログラム」と共通点が多い。いわば「ミッション志向型」の研究体制によってSTI政策のEBPMをどのように推進していくべきか、経済産業省と文部科学省は共通する問題意識を有していると思われる。

また、STI政策の特徴は基礎研究への投資からイノベーションに至る長期間かつ複雑なプロセスを把握しないと政策効果が議論できない点にある。その問題は基礎研究の振興政策やアカデミアの制度改革など直接的な経済社会効果が見込まれない政策において特に顕著である。そのため、STIの EBPM推進のためには、関係する省庁間で共通のデータやエビデンスの共有を進めることが極めて重要であり、近年内閣府ではSTI政策に関わるデータと分析機能を提供するエビデンスシステム「e-CSTI」の開発が進められている。e-CSTIでは研究活動のインプット(研究資金等)とアウトプット(論文や特許等)の対応関係についての精緻な分析が可能となるデータ・分析基盤になっている。ただし、現状ではe-CSTIの利用者は一部に限定されており、学術研究目的の利用は十分に進んでいない。STIのEBPMの推進のため、e-CSTIがEBPM関連研究において広く利用可能になることを強く期待したい。

2022年6月9日掲載

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