大規模災害に対する中小企業の強靭化を目指して―中小企業強靱化法の実効性を高めるために必要なこと―

家森 信善
神戸大学教授 / 元ファカルティフェロー

中小企業の強靭化を目指して

毎年のように大規模災害が発生し、復興が思うように進まず、多くの中小企業の皆さんが苦しんでいます。こうした事態を受けて、2019年5月に「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」(中小企業強靱化法)が成立しました。同法では、事業継続計画(BCP)の策定が中小企業の強靱化に有益であることから、そのBCP策定支援に対する地域金融機関の貢献が期待されています。

私たちの研究チームは、中小企業の経営の強靭性を高めたいというモチベーションで研究を始めました。その成果として、BCP策定および策定支援の現状を分析した、『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画-中小企業の強靭化と地域金融機関による支援-』(中央経済社)を2020年9月に刊行予定です。

企業と金融機関の現場に対する2つのアンケート調査

同書は、経済産業研究所(RIETI)で、2017年から2019年にかけて実施してきた「人口減少下における地域経済の安定的発展の研究」および、「地域経済と地域連携の核としての地域金融機関の役割」という2つの研究プロジェクトの成果です。

これまでの調査や研究では、事前の準備をしている企業は同じような災害に見舞われても、直接的な被害を小さくできたり、より早く復旧できたり、緊急時の資金繰りについて困ることが少なかったりすることが分かっています。事前の準備の柱になるのが事業継続計画(BCP)の策定と、その運用です。

そこで、中小企業強靱化法は、中小企業・小規模事業者の事業継続力を強化するために、中小企業が事業継続力強化計画を策定することを促す仕組みを導入しました。私たちの研究では、内容の充実した事業継続計画(BCP)をより多くの企業が持つような状況をいかに作っていくか、言い換えれば、中小企業強靱化法の実効性を高めるために何が必要か、に焦点を当てました。

この分析目的のために、私たちは2つのアンケート調査を実施しました。1つは、2018年10月に10,000社に対して実施した「事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」(回答2,181社)です。もう1つの調査として、中小企業強靱化法が地域金融機関による中小企業のBCP策定支援に着目していることを踏まえて、2019年5月に地域金融機関の支店長7,000人に対して「自然災害に対する中小企業の備えと地域金融機関による支援についての調査」を実施しました(回答2,623人)。

本書は、この2つのアンケート調査を使って執筆しています。ここでは、本書から、政策立案に資すると思われる結果をいくつか紹介します。

小規模金融機関の顧客ほどBCP策定が進んでいない

中小企業庁の調査でBCP策定率は15.5%だということが明らかにされていましたが、今回のわれわれの調査では比較的規模の大きな企業(原則として従業員20人以上の企業)を対象にしたこともあり、策定率は22.6%と少し高めでしたが、それでもBCPを策定しているのはせいぜい5社に1社程度なのです。

興味深いのは、大手銀行をメインバンクとしている顧客での策定率は32.2%であるのに対して、地方銀行の顧客では17.4%、信用金庫では13.9%にとどまっている点です。もちろん、大手行の顧客の32.2%でも十分な高さではありませんが、中小企業強靱化法の下での金融機関によるBCP策定支援を考える場合、地域銀行や信用金庫・信用組合におけるBCP支援力を強化することが不可欠であるといえます。

BCP策定のノウハウ支援こそが重要

BCPを策定していない企業に対して、その理由を尋ねてみたところ、最も多いのが「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(52.5%)でした。一方で、「保証料や金利の引き下げなどのインセンティブ制度がない」ことを理由にするのはわずか10.5%です。

当然のことですが、補助金を受けられるとしても、策定のノウハウがなければ、策定はできません。BCPの策定プロセスそのものが強靱性の向上につながりますから、策定のノウハウ支援に重点を置くべきだといえます。

ただし、注意しておくべき点があります。経営状況の悪い企業に限ると、「保証料や金利の引き下げなどのインセンティブ制度がない」の選択率が高いこと、および、今回の調査対象が比較的規模の大きな企業であることです。従って、経営状況の厳しい小規模企業への支援策においては、補助金等が効果的である可能性が残っています。

多くの企業は金融機関がBCPに無関心だと認識

自社のBCPの内容や策定状況にメインバンクがどのように評価しているかを尋ねてみました。「関心を持っていない」や「わからない」との回答が78.0%もありました。企業と金融機関は日頃から密接な関係性を構築しているとされていますが、BCPが話題に上ることは少ないようです。実際、「週に1回以上の頻度」で金融機関の職員が訪問してくれるという企業ですら、「金融機関と有事の対応について話し合っている」という比率は8.6%しかありませんでした。これでは、企業が、金融機関はBCPに無関心だと認識しても仕方がないでしょう。

金融機関の現場は取引先企業のBCPに無関心

次に、BCP策定支援の現状を金融機関サイドからみるために、金融機関の支店長に対するアンケート調査の紹介に移ります。

金融機関支店長に対して、自支店をメインバンクとする取引先企業のうち、BCPを策定している企業の割合がどの程度かを尋ねてみました。すると、過半数の支店長が、取引先企業のBCP策定状況を把握していないと回答しています。また、数値を回答した支店長の半数以上は、取引先の5%未満しかBCPを策定していないと認識していました。中小企業庁の調査や上述の私たちの調査(15.5%や22.6%)に比べると非常に低い値です。

おそらく、ほとんどの金融機関の現場では、取引先のBCP策定状況ですら正確に把握できていないのです。

本部の明確な積極姿勢が必要

ただし、私は、現場がサボっているということを言いたいのではありません。現場の職員の方に対して、取引先のBCP策定を支援することが、取引先と金融機関の双方の持続的な成長のために必要であることを理解してもらう、本部の取り組みが不足しているのだと思うのです。

実際、支店長アンケートで、取引先企業に対するBCP策定に関する自社の支援体制の評価について尋ねてみました。すると、「非常に積極的(3.7%)」と「やや積極的(25.3%)」の合計よりも、「非常に消極的(10.2%)」と「やや消極的(29.2%)」の合計の方が大きく、全体としては消極的であるとの認識が多い結果でした。現状は、BCPに対する本部の消極的な姿勢が、現場の無関心に現れているということなのです。

中小企業強靱化法の成立は、本部の姿勢の転換のきっかけになると期待されます。金融機関の本部に対する同法の趣旨の周知が不可欠です。

事業性評価の中にBCPの観点を組み込むべき

金融機関を通じたBCP支援を展開していくためには、現場の職員が企業との日常的な対話の中にBCP的な観点を盛り込むことが出発点になると思います。

金融庁が積極的に旗を振ったこともあり、金融機関による事業性評価の取り組みが浸透してきました。私たちの調査でも、法人営業担当者の事業性評価の能力が3年前と比較して向上したとの回答が60.1%となっています。しかし、事業性評価がしっかりとできているという金融機関ですら、取引先のBCP策定について把握できていないという回答が58.1%もありました。つまり、事業性評価の取り組みの深度とBCP面での対応との間には相関がみられません。これは、現在の事業性評価活動にBCP要素が含まれていないことを意味しています。

しかし、事業性評価とは企業の持続性を評価することにほかなりません。事業性評価の枠組みに自然災害リスクの評価を組み込むことは当然のことではないでしょうか。そうすることが、地域金融機関による継続的で組織的なBCP支援を実現することになると私は考えています。

結び

まとめると、地域金融機関は事業性評価の取り組みをかなり進展させてきていますが、企業の事業性を十分に理解した上で、自然災害に対して中小企業の強靱性を高めるための支援に取り組んでいる金融機関はまだ少ないといえます。だからこそ、中小企業強靱化法が立法されたともいえます。

2020年も、7月の豪雨災害のように大きな自然災害が発生していますし、コロナ禍のような感染症によるリスクも顕在化しています。中小企業の経営の持続可能性を高めるために、地域金融機関による事業性評価に基づくBCP策定支援がより充実することを期待しています。

2020年8月26日掲載