RESASを用いた新型コロナウイルスの感染拡大防止の検討

近藤 恵介
上席研究員

新型コロナウイルスの感染拡大をどのように防げばよいのか。すでに政府の専門家会議から要請が出されているように、不要不急な外出を控え、「3つの密」を避けることが重要である。本コラムでは、特に、移動の自粛がどのように感染拡大防止につながるのかを視覚的に意識してもらえればという想いから執筆している。私の専門分野は都市・地域経済学であるが、疫学研究に空間疫学という分野がある。どちらも地理空間情報を利用するという点で非常に近い分野である。現在、感染症対策に携わっている方々にこのようなデータが利用できるということが伝われば幸いである(注1)。

人々の移動を知ることが第一歩

感染拡大を防ぐため、移動自粛の要請が出されている。特に、感染が急速に拡大する東京や大阪をはじめ地方の中核都市への移動を自粛する報道がよく見られる。このような自粛要請は、都道府県だけでなく、市町村の首長からも出されており、各自治体の移動状況を把握した上で、より効果的なメッセージを出すことが望まれる。そのためには、各自治体において普段人々がどのような移動をしているのかを知る必要がある。そのような人々の移動データがそもそも容易に手に入るのかと思われるが、地方創生に向けた取り組みを支援する、まち・ひと・しごと創生本部の「RESAS」において提供されている。

RESASとは、Regional Economy and Society Analyzing System(地域経済分析システム)の略称で、地域活性化を考える際に役立つさまざまなデータを可視化できる。その中の「まちづくりマップ」の項目に、「From-to分析(滞在人口)」というデータがある。この「From-to分析(滞在人口)」は、NTTドコモが提供する「モバイル空間統計®」のデータを集計したものである。NTTドコモの基地局の情報を基に、市区町村間で人々がどのような移動をしているのかを把握することができる(注2)。

RESASは誰もがインターネットからアクセス可能である。一部の学校では休校の延長が決まっているが、休校期間中にRESASを活用した学びを続けてもらえればと思う。RESASでは、普段自分の住んでいる市区町村から感染拡大地域へどの程度の人々が移動しているのか、逆に感染拡大地域から自分の住んでいる市区町村にどの程度の人々が来ているのかという傾向を過去のデータから知ることができる。もちろん移動人数だけでなく、年月、平日・休日、時間帯、男女別、年齢別まで詳細に分かる。感染拡大防止対策を考える上で非常に役立つ情報となっている。

感染拡大防止対策を考える際には、例年通りに地域間で移動が行われてしまうとどれだけ感染拡大が進むのか、それを防ぐためにどのように移動自粛を要請するのかが重要である。感染拡大が増えている地域と密接につながっている自治体は住民に的確に要請を伝えることが望まれる。

移動データから検討する感染拡大防止策

東京への移動自粛要請が増えていることから、単純ではあるが、ここでは東京都千代田区に滞在している人々がどこから来ているのかについてRESASで調べてみる。

以下の図では、2019年3月平日14時台においてどの市区町村から東京都千代田区へ来ていたのかを年齢別にアニメーションGIFで表している。赤線は人々の移動フローがあることを意味する。ただし、RESASの可視化では、移動フローの量については表現できないため、詳細は各フローを選択して人数を調べる必要がある。一般的にはより近い市区町村ほど多くの人々が来ている。

図:東京都千代田区への移動フロー(2019年3月平日14時台、男女合計)
図:東京都千代田区への移動フロー(2019年3月平日14時台、男女合計)
[ 図をクリックで拡大、アニメーションします ]
注)著者作成。RESAS(https://resas.go.jp)のメインメニューから「まちづくりマップ」、「From-to分析(滞在人口)」を選択。表示単位地域は「市区町村→市区町村(指定地域)」。使用データは株式会社NTTドコモ、株式会社ドコモ・インサイトマーケティング「モバイル空間統計®」。RESASのスクリーンショット画像からアニメーションGIFを作成。

東京都千代田区へ2019年3月平日14時台に来ている人々は、15〜20歳台から70歳台にかけて日本全国から広範に訪れていることがわかる。特に、30、40、50歳台はより多くの地方の市町村から訪ねてきている。高齢者の移動を見ると、80歳台は東京都市圏内や東京・大阪間等の主要都市間のみで移動が見られるが、70歳台は予想よりも地域広範囲に移動が行われている。

さらに移動距離と移動人数の関係を見ると、通学や通勤による移動が大部分を占めると思われる。感染拡大防止のためには、教育におけるオンライン対応はますます求められるだろう。仕事上でもインターネットを利用したテレワークを進めることが求められる。

テレワークが可能な職種は、積極的にテレワークを進めていくことが重要である。業務上テレワークができない職種や感染の危険性があるにもかかわらず生活の基盤を支える業務を続けてくれている人々もいるため、そのような人々が「3つの密」に直面しないようにする必要がある。例えば、テレワークをできる人々がテレワークを行うことで、公共交通機関による移動中の混雑緩和につながる。移動自粛によって感染者数を減らすことができれば、医療従事者への負担を減らすことができる。感染拡大が進む中、直接目には見えないが、移動自粛によってどこかのだれかに確実に貢献しているということを認識してほしい。

また、感染拡大が進む地域と直接つながっていなくても、別の市区町村を経由することで感染の可能性があることは注意して欲しい。地方の郊外都市は、地方の中核都市とつながり、地方の中核都市は大都市圏とつながっている。まだ感染者が確認されていない自治体であっても、移動自粛が十分でなければいつかは感染者がでてしまう可能性がある。

今後の対応に向けて

現時点の優先課題は感染拡大防止であり、それができなければ医療崩壊の可能性がある。そのための外出自粛であるが、同時に学びの機会は減り、様々な文化的・社会的営みが制約され、経済的な損失も生じる。外出自粛が今後どれだけ続くのか不透明で、現状を見る限り、外出自粛を継続しながら教育や経済活動等が停滞しないように新たな体制を順次構築していくこと、それに対する備えを進めていくことは避けられない。

以上、本コラムで紹介したRESASの事例は非常に単純なものであるが、各自治体はどの感染拡大地域とより密接につながっているかを把握できる。その情報を基に将来の感染状況を予測し、対策の優先順位付けをし、スピード感を持った対策を実施していくことができる。RESASの移動データは誰もが見ることができるため、住民へ情報発信していく際にも利用することができる。

脚注
  1. ^ 10年以上前になるが、神戸大学大学院国際協力研究科に在籍していた際に受講した「感染症対策論」(川端眞人教授)の知識を思い起こしながら執筆をした。
  2. ^ RESASから「From-to分析(滞在人口)」のデータのダウンロードはできず閲覧のみである。少し技術水準は上がるが、RESAS APIを利用すれば2015年9月から2016年8月までのデータにアクセスできる。大学でデータサイエンス関連の科目を受講している学生は休校期間中に挑戦してみてほしい。

2020年4月6日掲載

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