公共セクターの経営に関する一考察:投稿意見

横山 禎徳
RIETI上席研究員

「公共セクターの経営に関する一考察」へのコメント

上席研究員 鶴光太郎

表記コラムを拝読させていただき、小生の日頃の問題意識ともかかわる部分が多く、感銘を受けました。どうもありがとうございます。どんな組織体でも永続し、発展させるために「経営」が必要というご主張は本当に重要な視点だと思います。「経営」を意識することは、民間企業以外でも「収入」を意識しなければならないということばかりではなく、最近、どのような組織をみても組織の構成員が流動的になり、また、その異質性が増大しているという時代の流れの中で、こうした構成員をいかにチームとして束ねていくか、組織のミッションや自己規律が大きく問われているという意味でも重要だと思っております。

「公共性と収益性の矛盾」の嘘については、アメリカのウォルマートを例に明快に論じられていますが、日本でも、絶対黒字にならないといわれていたユニバーサル・サービスに最初からコミットすることで消費者の信頼を得、規模の経済を作り出してきた、ヤマト運輸の宅急便が忘れることのできないケースと思っております。公共セクターも「言い訳」する前にこうした民間企業の企業家精神と努力から大いに学ぶ必要がありそうです。

また、専門性の高い公共機関の例として、医療と教育の2つの分野についても、一刀両断に論じられていて共感を持ちました。医療、教育とも規制改革の流れで、株式会社化を認めるか否かということが「哲学論争」のように論じられてきましたが、組織形態を論じる前に、そもそも経営マインドを持たなければやっていけないという「危機感」を持つことこそが重要と理解しました。

個人的には、横山さんのご議論を自分の所属するような独立行政法人に当てはめてみればどうなるかということに興味があります。研究機関の場合、組織の長として学者がなる、または、官僚経験者と学者が役割分担して組織を運営する場合が多いようです。コラムの「野球選手と監督の比喩」からいけば、「優れた学者が優れた研究所長になるとは限らないが、学者の経験のない優れた研究所長もありえない」というジレンマは大きいですね。

最後に1つコメントを述べさせていただければと思います。公共セクターの組織の経営者が「名経営者」になりたいと強く願うべきであるという結論部分についてです。ご指摘の「ゴルフのレッスン」の比喩からいえば、「遊びだから無理してうまくなりたいと思わない」という対応はある意味で自然だと思います。むしろ、「遊びなのにうまくなりたい」と思えと言う方に無理があると思っています。ポイントは、別の世界で「評判」を築き上げてきた公的セクター組織の経営者に、「遊び」ではなく「本気」にさせるようなインセンティブ・システムをいかに築くか、また、民間のみならず公的部門でも「経営者市場」をいかに作り上げていくことではないかと思いますがいかがでしょうか。

「公共セクターの経営に関する一考察」について

東北大学大学院 医療管理学分野 大学院生 中村利仁

拝読してもっともと思いました。
外科医として10年間、安定して黒字を出す病院でも、赤字の病院でも働いたことがありますが、たとえば朝から晩まで手術で忙しいというような、医師が医療行為を多く行っていた病院では黒字、医療行為以外の雑事が多かったりヒマをもてあますような病院は赤字でした。
つまりは、病院の赤字・黒字の少なからぬ部分は、他のサービス業と同じく手空き時間が如何に少ないか、労働生産性がどれほど高いかに依存するように思っています。
また、ご指摘のように、公的病院の管理者の多くは、確かに収支状況について貪欲とはいえなかったかも知れません。ようやく最近になって、事業の永続性確保の観点から、医療内容の管理ばかりでなく経営管理もできる病院管理者が出てきています。
ただし、株式会社化についてはわずかとはいえ資本調達コストがかかり、医療費全体の増加を招く可能性は否定できません。定量的な分析の上で可否を決定する必要があるのではないでしょうか。日本企業の国際競争力と密接に関係する問題である以上、避けて通れない視点ではないでしょうか。

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