RIETIについて

理事長挨拶

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浦田 秀次郎RIETI理事長

世界は米中対立、ロシアによるウクライナ軍事侵攻、新型コロナウィルス(COVID)禍、気候変動、サプライチェーン(供給網)の断絶など、これまでに経験したことのないような困難な状況、まさに危機的な状況に直面しています。さらに日本では、人口減少や高齢化、低生産性、政府による累積債務などの問題も抱えています。危機的状況への対応いかんによって、世界や日本の将来が大きく変わるといっても過言ではないと思います。危機に直面している状況を既存の制度や構造の問題を解消・改善する機会と捉えて適切に対応できれば、危機以前に達成したような高成長を再現することは可能でしょう。他方、誤った対応をしたならば、取返しがつかない大混乱に陥る可能性もあると思います。

世界各国政府や国際機関では、危機的状況を克服すべく、様々な政策を実施しています。政策研究機関である経済産業研究所(RIETI)の重要な使命は、厳しい経済状況において、適切な政策を提示することでありますが、適切な政策を見出すには、様々な課題に直面します。例えば、上述したような様々な問題が同時に進行していることから、問題の原因および影響を明確に識別することは極めて難しい状況にあります。また、世界経済を分断するような危機的な状況の発生によって、経済のグローバリゼーションが反転するデ・グローバリゼーションが進んでいるとする見方がありますが、すでにグローバリゼーションが大きく進展していることから、経済問題を国内と国際という形で切り離すことが難しくなっています。さらに、多くの経済問題は政治、社会、歴史など他の様々な分野と密接に関わっており、相互依存関係を考慮しなければ解決策を見出すことが難しい状況です。特に、国家間の政治的対立が先鋭化している現在において、経済安全保障が重要な課題になっています。

政策を検討する場合、当該政策の経済への影響を分析しなければなりませんが、多くの場合、事前分析と事後分析が行われます。事前分析では、政策が実施される以前に、実施された場合の影響を分析するのに対して、事後分析では、政策が実施された後に、その影響を分析します。事前分析では経済モデルなどを用いたシミュレーション分析が適用される場合が多いのに対しまして、事後分析では収集されたデータを統計的手法などを用いて分析することが一般的です。事前分析と事後分析では、共に理論モデルを構築・活用するといった共通点があるだけではなく、事後分析で求められた分析結果を事前分析に適用するという形での連携が多くのケースで見られます。これらの定量分析から求められたデータを用いて政策を形成する手法は、エビデンスに基づく政策形成(EBPM)と呼ばれており、世界で注目されていますが、RIETIでは特に強い関心を持って進めています。

経済活動の主体は民間企業でありますが、国家間の問題など民間企業のみの判断や行動では、経済にとって最も望ましい結果を実現することが難しい状況が存在します。冒頭で言及した問題の多くは、そのような性格の問題であり、問題への適切な対応には政府による政策が必要になります。ここでの一つの問題は、民間企業による行動に対して、どのような形で、どの程度、政府が関与することが望ましいのかということです。政府の望ましい関与については問題によって異なります。政府による最適な関わり方を見出すためには、厳格な経済分析の必要性は言うまでもありませんが、その過程において、国内外の政策担当者、民間企業、研究者などとの交流から得られる情報・知識を有効に活用することが極めて重要になってきます。RIETIは、そのような研究の場を提供すると共に優れた研究成果を上げてきました。RIETIのより一層の発展のために、努力してまいります。

2023年1月