RIETIは、経済産業政策に関する研究を効果的かつ効率的に実施することを目的として2001年に設立された、日本初の独立行政法人化した政策シンクタンクです。RIETIは今年度、第6期中期目標期間の2年度目に入ります。この中期計画では、アジアトップクラスと評価されてきた世界水準の研究を更に進めながら、政策への貢献を最重要ミッションとして実現するという、野心的な目標を立てています。
政策貢献の最も重要な基盤は質の高い経済研究です。RIETIでは69の研究プロジェクトを7つのプログラムに束ね、各プログラム・ディレクターに主宰して頂いていますが、研究プロジェクトの活性化と政策貢献強化を目指し、昨年度からプログラム・ディレクターの方々とRIETI幹部、経産省の対応部局間の定期的な対話を開始しました。
またRIETIでは新しい政策ニーズに応えるため、産業構造審議会経済産業政策新機軸部会の審議の基礎となる2040年産業構造推計モデルの構築、経済安全保障政策に資するサプライチェーンの脆弱性に関する研究、資源配分や企業成長に関する研究、EBPMセンターによる政策アドバイス機能の強化、などに昨年度から取り組み始めました。
このうち2040年産業構造推計モデルの構築では、大規模な共同研究のリーダー的な役割を私が務めました。これまでの経験から、質の高い研究には独創性を追求する必要があり、それに没頭することで研究者としての満足が得られることを知っていますが、2040年産業構造推計モデルの構築では、AI・ロボットが産業構造と労働市場に与える影響について新しく採集したデータを基に理論的・実証的に分析することで、このような成果が得られつつあると感じています。
現在の世界は、トランプ政権による米国第一主義の政策や、中露陣営と西側諸国の対立の深刻化、などによって時代の画期が起きようとしています。また日本経済は30年の停滞により技術フロンティア諸国から大きく取り残されたという点で、開国・維新期、第二次大戦後の混乱期、以来の危機的な状況にありますが、終身雇用制の変質や女性の正規雇用の増加、製造業の国内回帰、設備投資の回復、経済安全保障の強化、デフレーションからの脱却など、潮目の変化を迎えています。また、技術フロンティア諸国との大きな格差の存在自体は、過去2回の危機の際と同様に、日本にとってキャッチアップのチャンスと考えることが出来ます。激動の世界を乗り切るためにも、経済停滞を脱するためにも、過去2回の経済危機の際のように、産・官・学の連携が重要です。前例が通用しない新しい時代には、中長期的な視野を持つアカデミアが政策変更を下支えすることが必要です。その意味でも、RIETIの重要性は高まっています。
RIETIは、EBPMセンターによる政策アドバイス機能の強化、「経済産業政策の新機軸」を切り拓くような分析、中長期的視点に立った制度改革の提言、などを積極的に行い、最終的には、政策担当者や産業界がアドバイスを求めて最初に相談し、研究成果にアクセスするような政策研究機関になることを目指していきたいと思います。