浦田前理事長の後を承けまして経済産業研究所(RIETI)の理事長に就任した深尾京司です。
RIETIは、経済産業政策に関する研究を効果的かつ効率的に実施することを目的として2001年に設立された、日本初の独立行政法人化した政策シンクタンクですが、この4月から新たな中期目標・中期計画期間に入りました。次の5年間に求められているのは、アジアトップクラスと評価されてきた世界水準の研究を更に進めながら、政策への貢献を最重要ミッションとして実現するという、野心的な目標です。
政策貢献を最重要ミッションとするシンクタンクという考え方は原点回帰といえるかもしれません。RIETIの前身である通商産業研究所の1997年の刊行物で、小宮隆太郎前所長と青木昌彦新所長はそれぞれ、「通商産業省の抱える政策上の問題を学問的に分析することが、通商産業研究所の中心的な任務であると考えた」、「制度改革が日本全体の問題となっている今通商産業研究所はそのダイナミズムの根源にさかのぼって通商産業政策の課題を学問的に明らかにすることを求められている」と述べられています。
現在、世界は中露と西側諸国の対立やグローバルサウスの興隆、AI・ビッグデータ・ロボットをはじめとする新技術の出現と普及、などによって時代の画期が起きようとしています。また日本経済は30年の停滞により技術フロンティア諸国から大きく取り残されたという点で、開国・維新期、第二次大戦後の混乱期、以来の危機的な状況にありますが、終身雇用制の変質や女性の正規雇用の増加、製造業の国内回帰、設備投資の回復、経済安全保障の強化、デフレーションからの脱却など、潮目の変化を迎えています。技術フロンティア諸国との大きな格差の存在自体が、過去2回の危機の際と同様に、日本にとってチャンスです。
激動の世界を乗り切るためにも、経済停滞を脱するためにも、過去2回の経済危機の際のように、産・官・学の連携が重要です。前例が通用しない新しい時代には、中長期的な視野を持つアカデミアが政策変更を下支えすることが必要です。その意味でも、RIETIの重要性は高まっています。
RIETIは、EBPMセンターによる政策アドバイス機能の強化、「経済産業政策の新機軸」を切り拓くような分析、中長期的視点に立った制度改革の提言、などを積極的に行い、最終的には、政策担当者や産業界がアドバイスを求めて最初に相談し、研究成果にアクセスするような政策研究機関になることを目指していきたいと思います。