RIETIについて

理事長挨拶

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矢野 誠RIETI理事長

令和4年1月のダボス・アジェンダ2022会議において岸田首相が指摘されたように、地球温暖化、地政学的リスク、貧困と格差、中間層縮小による民主主義の危機など、現代社会は深刻な問題に直面しています。炭素中立社会の創出、安全保障を支えるサプライチェーンの形成、「国家資本主義」に対抗できる新しい資本主義の構築。こうした全世界的な課題解決には、未知の世界を切り開く新しいタイプの産業政策が欠かせません。

個々の経済主体の意欲だけでは、実現できない技術開発もあります。その場合、初期投資の段階で研究開発や技術習得を促進する産業政策が必要です。古典的な産業政策は先進技術へのキャッチアップを目的としていました。わが国の高度成長や近年の中国経済の発展はキャッチアップ型の産業政策にけん引されました。第二次世界大戦以来、先端技術の開発や経済構造の転換を目指す、「開拓型」ともいうべき、新しい産業政策が採用されるようになりました。最先端技術の開発は、初期段階で大規模な固定費を必要とし、民間に任せては成功しません。それまでは、ワットの蒸気機関やフォードのベルトコンベアなど、多くの本源的技術が私的な生産活動で生み出されました。それが第二次大戦期に転換され、政府主導で原子力エネルギーやコンピュータなどが開発され、戦後には有人ロケットやインターネットなどで継続されました。開発型の産業政策のおかげで、アメリカは、コンピュータ技術をPCやインターネットに広げ、さまざまな応用技術を発展させました。また、30年前にはコストが高すぎるとされた有人ロケット開発も、2020年代に入り、テスラ、バージン・アトランティック、アマゾンという先端企業の創業者の手で商業化が実現しました。

開拓型産業政策による新しい資本主義の構築という政策目標に鑑み、経済産業研究所(RIETI)は、2022年度4月1日にEBPMセンターを開設しました。EBPMというのはエビデンス(E)にベース(B)を置くポリシー(P)メーク(M)を行うという意味で、創立以来20年以上にわたり、RIETIが唱道してきたものです。当センターでは、グリーン技術や国際的半導体サプライチェーンの構築のように、大規模な開拓型産業政策のEBPMに貢献するため、政策効果予測の手法や、政策効果の経年評価に資するデータデザインを提言します。さらに、政策評価手法と結果を蓄積し、一般の利用に資してまいります。

近年、RIETIは過去の政策とその効果の間に存在する因果関係の立証にも力を注いできました。この分野では、最先端の学術研究を多数発表し、世界からも注目されるようになっています。そうした政策効果の研究のさらなる精緻化を目指し、力を傾注する決意です。

2022年4月