RIETIの活動

グリーンイノベーション基金事業に関する検証シナリオ(第一次案)についてのRIETI EBPMセンターからのアドバイス

2022.11
RIETI EBPMセンター

本年4月に発足したRIETI EBPMセンターにおいては、内外の研究者や政策当局と連携し、これまで進めてきたデータに基づく事後検証型の政策効果研究に加え、官民連携で実施する大規模プロジェクトについて、政策効果の分析に必要なデータ・デザインなどの基本構想と具体的な検証方法等につき、政策当局に対し伴走型で提案することとしています。

今般、その第一弾(試行的取組)として、グリーンイノベーション基金事業に対するアドバイスを公表します。

事業終了後に政策の効果を検証し始めるのではなく、事業開始前及び事業実施中にアジャイル(注1)に政策評価手法を検討し政策の効果を検証しようとすることは、これまでになかった取組であり、この点については先進的取組として評価できるものです。但し、長期にわたる事業に対する評価手法としては道半ばであるため、更に改善する余地があるものと考えます(注2)。

なお、本アドバイスについては、大橋弘先生、北尾早霧先生、渡辺安虎先生を含むRIETI EBPMセンターのアドバイザリー・ボードのメンバーにご意見を頂きながら作成したものです。この場を借りて、深く御礼を申し上げます。

1.経済産業省におけるグリーンイノベーション基金事業に関する議論について

グリーンイノベーション基金事業については、2021年2月22日に産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会が設置され、同部会において、基金事業の政策目的や特徴、実施体制やプロジェクト実施の流れ、資金配分の進め方、モニタリングの進め方等について、これまで審議が行われてきました。審議を踏まえ、基金の運営方針として、「グリーンイノベーション基金事業の基本方針(2021年3月策定、同年12月改定)」が定められているところです。

また、個別プロジェクトについては、グリーンイノベーションプロジェクト部会の下に設置された3つのワーキンググループ(グリーン電力の普及促進分野、エネルギー構造転換分野、産業構造転換分野)において、それぞれの分野における研究開発・社会実装の方向性が審議され、担当省庁のプロジェクト担当課室において、各プロジェクトの研究開発・社会実装計画が作成されているところです(2022年6月時点で17のプロジェクトについて組成済み(注3))。

2.経済産業政策の新機軸について(概略)

2021年6月4日に開催された第28回産業構造審議会総会において、「経済産業政策の新機軸」についての考え方が公表されました。その後、産業構造審議会経済産業政策新機軸部会において議論が行われ、その基本的な考え方が「中間整理」(2022年6月公表)としてとりまとめられています。「中間整理」においては、経済産業政策の新機軸の二つの柱として、「ミッション志向の産業政策」と「経済社会システムの基盤の組替え(OSの組替え)」が示されました。「ミッション志向の産業政策」は、炭素中立型社会やデジタル社会の実現等をミッションとして捉え、そのための政策ツールについては、長期的な戦略に基づき、大規模・長期・計画的支援、規制・制度・標準、外交等あらゆる政策を総動員していくとしています。そして、こうした政策の効果的な実施のために、EBPMの取組を深掘りしていくことが挙げられており、試行的に取り組む事業として、経済産業省において、先端半導体の製造基盤整備事業(注4)とグリーンイノベーション基金事業に対する検証シナリオを提示することとしていました。

3.経済産業省が作成したロジックモデルと検証シナリオ(第一次案)

グリーンイノベーション基金事業については、2022年3月時点で以下のようなロジックモデルが公表されていました。

2022年3月時点のロジックモデル
2022年3月時点のロジックモデル
(第5回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 資料5より抜粋)

上記のロジックモデルへの大きなコメントとして、RIETI EBPMセンターとしては、2021年6月に公表された「経済産業政策の新機軸」の一環として、政策を位置付けてはどうかというアドバイスを行いました。新機軸に織り込まれている考え方は、上述のとおり、ミッションオリエンテッドな政策立案や、大規模・長期・計画的支援を行うこと、EBPMを活用し政策効果を検証するといったもので、確かに、新機軸というにふさわしいものと理解しています。

その基本方針に鑑み、グリーンイノベーション基金事業のミッション及び長期ロードマップなどを整理して示すことが急務と考えられました。そのため、まずは政策目的や事業の特徴、ロードマップ等を整理して明らかにし、その上でロジックモデルを改善して、政策効果の検証を行っていくべきとのアドバイスを行いました(詳しいアドバイスの内容)。その後、ロジックモデルの具体的な改善と検証方法の策定にも協力してきました。

RIETI EBPMセンターからのアドバイスを踏まえ、経済産業省は、本年11月2日に開催された第9回産業構造審議会経済産業政策新機軸部会において、以下のようにロジックモデルを改善し、政策目的や事業の特徴等を明らかにする資料を公表しました。政策効果の検証方法についても、今後、必要なデータを収集し分析モデルを活用すると同時に、事業成果の最大化に向けた様々な取組について適切な手法による効果検証を実施することとしています。

2022年11月2日に公表したロジックモデル
2022年11月2日に公表したロジックモデル
(第9回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 参考資料1より抜粋)

4.RIETI EBPMセンターのアドバイス

上記に対するRIETI EBPMセンターのアドバイスの概略は以下のとおりです。

  1. 本事業については、状況が年々変化する中で、野心的なイノベーションを実現するために10年間という長期にわたる技術開発プロジェクトをどのように推進し、アジャイルな見直しが行えるような仕組みを実効性あるものとして行っているかを検証すべきである。具体的には、本事業の特徴である「長期間にわたる継続的・機動的支援を行う」という点を踏まえ、必要に応じプロジェクトの見直し・中止や逆に見込みのありそうなプロジェクトの加速を行っているかどうかという観点から、最終的なアウトカムを実現すべく事業が適切に実施されているかどうかを評価すべきと考えられる。
  2. 基金事業全体のバランスを見て、横断的なマネジメントが不可欠である。全体を通じたマネジメントを検証するためには、個々のプロジェクトの評価のみでは十分ではない。その部分を補強するために、例えば[プロジェクトの期待価値=(a)経済効果試算額×(b)プロジェクト成功率×(c)普及段階で競合を上回る確率]とし、この指標をプロジェクト毎に算出して合計し、全体的なマネジメントが効率的に行われているかどうかを判断する参考指標にすることを提案する。※詳しくは下記のアドバイス本文を参照
  3. 将来的に個別プロジェクトを評価する観点から、公募時に採択されなかった事業者に関する情報の保存の要否について、採択にあたる機関(独立行政法人)の管理体制や事業者との関係などを踏まえて、整理をしていくことが望ましい。

アドバイス全体については、以下のリンクのとおりです。

5.今後に向けて

本基金事業が目標としているCO2排出削減効果と経済波及効果を達成するために、それぞれのプロジェクトにどのような役割を期待しているのかといった観点で、基金事業全体と個別プロジェクトとのバランスを確認しながら基金事業全体を運営していくことが重要である。こうした整理を行うことは難しい取組ではあるが、見直しの際にはこうした観点も踏まえて評価を行うことが望ましいのではないかと考えられる。

引き続き、定量的な評価実施に向けて政策効果の試算方法の整理に努めるとともに、競合技術等の開発・普及動向をきちんと踏まえた検証プロセスを実施していく必要がある。

脚注
  1. ^ 「アジャイル(agile)」とは、もともとソフトウェア開発における考え方で、事前検討を重視した重厚長大なアプローチ(ウォーターフォールモデル)ではなく、小さな単位で動くソフトウェアを短い期間で評価し、実装とテストを繰り返していくことで不確実性をコントロールしていく考え方。2001年に米国で提唱され、近年では、広く経営や技術開発にも応用されている。(参考:NRIの用語解説等)
  2. ^ この点については、RIETI EBPMセンターのアドバイザリー・ボードからもご意見をいただいている。
  3. ^ 2022年11月時点では、18プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画が策定されているが、経済産業省から公表されたロジックモデルの記載に揃え、本公表では17プロジェクトとしている。
  4. ^ 経済産業省における予算事業名は「先端半導体の国内生産拠点の確保」であるが、第9回産業構造審議会経済産業政策新機軸部会において公表された資料の記載に基づき、本公表では「先端半導体の製造基盤整備事業」と称することとする。