2022.11
RIETI EBPMセンター
本年4月に発足したRIETI EBPMセンターにおいては、内外の研究者や政策当局と連携し、これまで進めてきたデータに基づく事後検証型の政策効果研究に加え、官民連携で実施する大規模プロジェクトについて、政策効果の分析に必要なデータ・デザインなどの基本構想と具体的な検証方法等につき、政策当局に対し伴走型で提案することとしています。
今般、その第一弾(試行的取組)として、先端半導体の製造基盤整備事業(注1)に対するアドバイスを公表します。
事業終了後に政策の効果を検証し始めるのではなく、事業開始前及び事業実施中にアジャイル(注2)に政策評価手法を検討し政策の効果を検証しようとすることは、これまでになかった取組であり、この点については先進的取組として評価できるものです。但し、長期にわたる事業に対する評価手法としては道半ばであるため、更に改善する余地があるものと考えます(注3)。
なお、本アドバイスについては、大橋弘先生、北尾早霧先生、渡辺安虎先生を含むRIETI EBPMセンターのアドバイザリー・ボードのメンバーにご意見を頂きながら作成したものです。この場を借りて、深く御礼を申し上げます。
1.経済産業省が作成したロジックモデルと検証シナリオ(第一次案)
先端半導体の製造基盤整備事業については、2022年3月時点で以下のようなロジックモデルが公表されていました。
11月2日に開催された第9回産業構造審議会経済産業政策新機軸部会において、経済産業省は、以下のとおり事業の概要と検証シナリオを公表しました。
2.RIETI EBPMセンターのアドバイス
上記に対するRIETI EBPMセンターのアドバイスの概略は以下のとおりです。
- ①本事業の狙いは、ロジックモデルにおいて、自律的な投資サイクルの確立及びサプライチェーン・レジリエンスの向上とされている。これらの評価手法については、下記の3つの手法で行うこととされている。
(1)直接評価モデル(税収への直接的なインパクト(建設関連、固定資産税、雇用者))
(2)産業連関分析(周辺地域・産業への波及効果)
(3)CGEモデル(半導体の安定供給・国内産業の競争力)
これらの手法については各々の特徴、制約はあるものの、概ね妥当なものと思われる。ただし、政策の実施に伴い想定される効果については、事業自体の進行と評価試算の実施に伴い継続的に改善していくこと、および前提となるデータ等も含め幅を持って評価していくことが望ましい。 - ②上記3つの分析手法については、目的に応じて使い分けていくべきである。例えば地元地域への波及効果を評価しようとする場合には、地域限定のデータが収集できる[(1)直接評価モデル]と地域別産業連関表が利用できる[(2)産業連関分析]で分析が可能である。また、[(2)産業連関分析]のI/Oモデルについては、個別産業部門への影響を分析することに適している。一方、[(3)CGEモデル]については、経年での資本蓄積増大による成長の効果や産業構造の変化などを含んで分析できるほか、他の産業部門との相互影響(本事業以外の施策の効果も含む)なども取り入れて分析できる可能性がある。また、モデルに一定の仮定を導入するなどしてサプライチェーン・レジリエンスについての分析を行うなど、将来、想定したシナリオに応じた分析が可能である。こうした特徴を踏まえたうえで、適切な分析手法を選択していくことが望ましい。
- ③半導体の生産・開発についてはその用途や対象とする機能によって大きな差異があることを踏まえ、半導体の安定供給確保に向けては、研究開発、設計段階や後工程、関連半導体産業の振興など、他の政策と補完し合いながら一体となって推進していくことが重要である。このため、本事業に対する政策評価に関して、長期的には、半導体産業に関する他の政策の影響についても考慮した上で、必要に応じて、例えばCGEモデル等の中にその要素を取り入れられるかを検討しつつ、政策効果の評価手法の改善に努めていくことが望ましい。
アドバイス全体については、以下のリンクのとおりです。
- 脚注
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- ^ 経済産業省における予算事業名は「先端半導体の国内生産拠点の確保」であるが、産業構造審議会経済産業政策新機軸部会において公表された資料の記載に基づき、本公表では「先端半導体の製造基盤整備事業」と称することとする。
- ^ 「アジャイル(agile)」とは、もともとソフトウェア開発における考え方で、事前検討を重視した重厚長大なアプローチ(ウォーターフォールモデル)ではなく、小さな単位で動くソフトウェアを短い期間で評価し、実装とテストを繰り返していくことで不確実性をコントロールしていく考え方。2001年に米国で提唱され、近年では、広く経営や技術開発にも応用されている。(参考:NRIの用語解説等)
- ^ この点については、RIETI EBPMセンターのアドバイザリー・ボードからもご意見をいただいている。