IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第76回「AI時代のジェンダー問題」

横山 美和
お茶の水女子大学基幹研究院研究員

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

1. はじめに

近年、AIやオートメーションなどの新しい技術がもたらす「第4次産業革命」が、今後、雇用にどのような影響を与えるのかということが世界中で話題になっている(尾木 2015;岩本・波多野2017)。

AIやオートメーションの進行により、仕事の質は大きく変わると言われている。今ある多くの仕事の一部、または全部がAIに代行されるようになるため、仕事の仕方が変わり、また、現在は無いような仕事が出現するだろうとされる。そうしたAIで代替可能なスキルしか持たない人は、職に就くことが困難になったり、職を失ったりする事になりかねない。生き残っていくためには、これまでの仕事に求められていたスキルの多くとは、異なるスキルが求められることになる。

そして、こうしたAIやオートメーションの進行による大きな変化は、男女で異なる影響をもたらすのか、ということが、すでに海外では注目されはじめている。本コラムでは、AIやオートメーションといった新しい技術が、男女の仕事や生活にどのような影響を与えるかということについて、考えていきたい。まずは、この問題に高い関心を寄せている世界経済フォーラム(World Economic Forum)の動向を紹介し、次に、教育や、ワークライフ・バランスなどについて見ていくこととする。

2. 世界経済フォーラムが注目するジェンダーと「第4次産業革命」

世界経済フォーラムは、ジェンダー・ギャップ指数(Global Gender Gap Index)を発表するなど、ジェンダー、すなわち、社会的・文化的性差について高い関心を持っていることで知られている。ジェンダー・ギャップ指数とは、各国の男女格差の度合いを示すもので、毎年ランキングが発表されている。政治、経済、教育、健康の4つの指標で各ランキングが出され、総合順位が発表されている。日本は、2017年は144カ国中114位とかなり低いランクとなっている。2017年、日本は、教育74位、健康1位、経済114位、政治123位となっている(World Economic Forum, 2017)。教育の順位は意外と低いと思われるかもしれないが、多くの先進国では大学に女性の方が多いことなどから、そうはなっていない日本の順位が下のほうに来ている。また、健康はほぼ問題ないが、足を引っ張っているのは、経済と政治への女性の参画度の低さである。経済では、特に、推測される勤労所得、高い地位にいる人、専門職の男女格差が問題である。政治では、特に国会議員の女性の割合の低さがランキングに響いていると思われる。

世界経済フォーラムは、こうしたレポートに見るように、男女平等が社会と経済の繁栄にとって不可欠であるという姿勢を持っているので、「第4次産業革命」の進行を見据え、企業がジェンダーの視点からどのような対策を取るべきかについてレポートを発表している。

世界経済フォーラムは、世界的大企業の最高人事責任者らにアンケートを行い、2020年までに仕事や女性の労働力参加がどのように変化すると思うかを尋ね、『雇用の未来(The Future of Jobs)』という報告書にまとめている。その報告書にはジェンダー視点が盛り込まれており、女性の雇用について多くの紙幅が割かれている。そのサマリーの1つに、『産業界のジェンダー格差:第4次産業革命における女性と仕事(The Industry Gender Gap: Women and Work in the Fourth Industrial Revolution)』があるので、以下ではこちらを紹介する。

サマリーでは、ジェンダー格差の解消に取り組むことが新たな成長の機会を生み出しえるとしている。しかし、ここで1つ筆者らが強調しておきたいのは、ジェンダー格差を解消しジェンダー平等を進めることは、まず、何より倫理の問題であるということを、世界の大企業が理解していることである(図1)。なぜ企業のジェンダー平等を促進するかと問われれば、倫理的にそうすべきだと考えているのである。そのことを大前提として、ジェンダー平等が、成長にとって良いことである、ということが理解されつつあるのである。

図1. ジェンダー平等の根本的理由の意義(産業全体)
図1. ジェンダー平等の根本的理由の意義(産業全体)
出典:World Economic Forum. 2016. "The Industry Gender Gap: Women and Work in the Fourth Industrial Revolution," p. 2.

サマリーでは、女性の人材を活用しないことは、経済的にも問題だとしている。上述したように、今や女性の方が大学に多く入学する国が100近くもあるが、女性は最も活用されていない人材の1つなのである。多大な教育コストが女性にかけられているのに、労働者における女性の割合は男性より低い。これは女性のみならず、企業や、経済全体にとっての損失と考えられている。日本はまだ4年制大学レベルでは男性の方がやや多いが(『学校基本調査』を参照)、その男女比も労働力に十分反映されていない。

そして、ジェンダー平等はビジネスにとって重要であるとも考えられている。女性はイノベーションや意思決定にとって重要な存在だとされる。また、女性は消費者として重要な顧客であり、さらにその購買力は増すことが予想されるほか、取引企業にも女性が増えるであろうことから、女性の存在を意識した人事戦略をとることが重要だと考えられている。

しかし、女性は男性に比べて昇進しにくく、賃金格差もまだまだあるという状況がある(図2)。明示的な差別はだいぶ無くなったとしても、「無意識の偏見」があり、たとえば、女性が高い業績をあげれば、それは努力の結果であり、スキルのおかげではないと考えられてしまう。 こうした格差を解消しなければ、女性が十分に労働力に参加することを促進するのは難しいのではないだろうか。

図2. 職種ごとのジェンダー格差
図2. 職種ごとのジェンダー格差
出典:World Economic Forum. 2016. "The Industry Gender Gap: Women and Work in the Fourth Industrial Revolution," p. 5.

サマリーでは、「第4次産業革命」の進行は、一方ではジェンダー格差をなくす方向に行くだろうと考えられている。家事は一層自動化が進んで、女性の、賃金をもらえる有償労働と、もらえない家事労働という二重負担をいくらか解消するだろうとされる。さらに、より柔軟な働き方をもたらすだろうとされる。

しかし、他方では、今のジェンダー不平等を悪化させる危険もある、と警告する。

図3. 同族職種ごとの純雇用予測、2015〜2020年
図3. 同族職種ごとの純雇用予測、2015〜2020年
出典:World Economic Forum. 2016. "The Industry Gender Gap: Women and Work in the Fourth Industrial Revolution," p.6.

レポートでは、2015年から2020年にかけて、調査対象国全体で増減合わせて、約510万人分の仕事が無くなるだろうとしている。減る分の約710万分のうち、約3分の2は、ルーティンワークである事務職(Office and Administration)だとしている。それに対して、コンピュータ・数学(Computer and Mathematics)、建築・工学(Architecture and Engineering)、他、それらの関連分野は、増加分の多くを占める(図3)。

また、男女別でみると、男性は400万人分の仕事を失う一方で、140万の仕事を得る。それに対し、女性は300万人分の仕事を失い、55万人分の仕事しか得ることができない。

したがって、女性が多い事務職は、最も打撃を受けるであろう。そして、すでに女性が少ないコンピュータや工学などの分野の需要は高まるが、その分野に女性が参入する速度より成長が早くなれば、その分ジェンダー格差は広がるのである。したがって、意識的に女性人材を教育し、採用し、昇進させていかなければならない。そのことは、競争力を生み、技能不足を解消することに繋がるのである。

ジェンダー格差を解消するためには、あれをやった、これをやったというチェックリスト方式ではなく、全体的で長期的なアプローチが必要とされる。世界経済フォーラムでは、組織レベルでのジェンダー平等達成のために、以下の6つのアプローチを提案している。

●測定と目標設定
全てのレベルで、達成可能な、女性の採用と定着の目標を作る。細かいデータをとりジェンダーに関する現状を知る。

●メンターシップとトレーニング
ダイバーシティの価値を組織の文化的基本とし、多様な労働者のマネジメントや、女性人材を惹きつけ、離職を防ぎ、昇進させる知識を広めるトレーニングプログラムを作る。

●意識と責任
意識を高めること。経営陣の説明責任と、昇進などについて透明性を高める。

●労働環境とワークライフ・バランス
女性が、子どもやお年寄りを主に世話していることが多い。子育てに柔軟に対応し、ワークライフ・バランスを推奨しつつ、女性に助言を行うことがキャリアアップに重要である。

●リーダーシップと企業の責任
最高経営責任者や最高幹部の目に見えるリーダーシップ。

●オフィスを超えた責任
外部にも影響力をもつ。たとえば、供給企業や販売代理店、パートナー企業へのダイバーシティ・トレーニングや、女性社長企業の支援トレーニングを行う。広告はジェンダー中立となるようにし、また、少女や若い女性に考えられるキャリアパスを提示してもらい、ジェンダー平等に重点的に取り組む市民社会や公的部門とパートナーシップを持つ。

このように、世界経済フォーラムは、「第4次産業革命」は、職場への女性の平等な参加を来るべき変化への準備の核心にする前例のない機会を提供するのだ、としている。この革命的状況を悲観するのではなく、ジェンダー平等を進める好機としようということである。

3. 今後の課題――教育、セクシュアル・ハラスメント、家事量の削減、男女平等のワークライフ・バランス、事務職の減少とジェンダー不平等の悪化

以上は世界経済フォーラムのレポートの紹介であったが、以下では、筆者らの考える今後の課題を5つ上げてみたい。

第1に、上記でも触れたように、今後はコンピュータなどの情報科学に関する知識や技能は各段に重要さを増し、データサイエンティストのような職業の需要が高まると言われている(尾木 2015;岩本・波多野2017)。しかし、日本では、情報科学を担う人材を十分に養成する用意は整っているのだろうか。残念ながら、日本はドイツや米国などに比べると後塵を拝しているかもしれない。データサイエンティストを養成する学部は滋賀大学にしかなく、将来を見据えて学びたくても、十分に学べる環境が整っていない。また、情報科学を専攻する学生は、さまざまな学部にまたがっているため、『学校基本調査』で数を捉えることが難しい。ゆえに、『学校基本調査』では性別に統計が取られているが、情報科学を専攻する学生の男女比は、よくわからないというのが現状である。まずは数を把握することが重要であるから、来るべき未来を見据えて、こうした統計の取り方を工夫し、一体どれくらい男女が情報科学を専攻しているのかを見極めることが最初の一歩であろう。アメリカにおいては、情報科学の学位取得者のデータが独立して発表されているが、情報科学を専攻する学部の女性学生の数が、ここ10年ほどで減少傾向にあることに強い危機感を抱いている(National Science Foundation. 2017、および、笹川平和財団主催シンポジウム「『研究力強化に向けたジェンダー平等促進』〜評価を通じた政策・施策と実践の喚起〜」(2018.3.26開催)より)。まずは数を把握しなければ対策は難しい。

また、「女性は技術に向いていない」などの偏見も、IT業界でもしぶとく残っているとされる。たとえば、世界的な検索エンジンの会社でも、そういった社内文書が出回り問題になった(『日本経済新聞』2017年9月24日朝刊)。女性がIT業界で働きにくいというのは、数の問題としても現れている。IT業界の最先端を行くシリコンバレーの主要企業でも、従業員全体に占める女性の割合は3割程度で、技術職になると2割前後に下がる(図4)。技術職に女性が少ないのは、教育や環境の影響が大きいと考えられるため、そうした偏見を持たず、女子や若い女性が技術に関心を持てるような働きかけや、教材の見直しなどを考えていく必要があるだろう。

第2に、世界経済フォーラムのレポートでは職場のセクシュアル・ハラスメントについて触れられていないが、こうしたシリコンバレーの職場でもセクシュアル・ハラスメントを受けたことがある女性は6割に上るという(『日本経済新聞』2017年9月24日朝刊)。そういったセクシュアル・ハラスメントも、女性が労働市場に入り、仕事を続けていく際の大きな障害になる。

図4. 米国シリコンバレーの主要企業の男女構成比
図4. 米国シリコンバレーの主要企業の男女構成比
『日本経済新聞』2017年9月24日朝刊を参照。

第3に、AIやオートメーションが、家事の省力化や、ワークライフ・バランスの推進、働き方の柔軟性に貢献するだろう、ということについては、筆者らは気を付けなければならないことがある、と考えている。技術史家のルース・シュウォーツ・コーワンによれば、洗濯を洗濯機がするようになって手間が減ったかと思えば、衛生意識の向上や洗える布の量産と相まって、より洗濯の回数は多くなった。同じように、便利な料理器具ができれば、より凝った料理を作るようになり、また、品数も増えたと言う。結果的に、家事にかける時間はほとんど減っていない、と言うのである。家事の自動化が進み、1つの作業に費やす人間の労力や時間が減っても、より多くの回数をこなし、手間をかけることが美徳とされるようになれば、家事の労働量や時間は減らない。さらに、コーワンは、技術が家庭に導入されてそこから無くなったのは、男性と子どもの仕事だと言う。つまり、女性の仕事はそれほど減らず、男性は外へ働きに、子どもは学校へ行き、「お母さん」に家事が集中するようになったと言うのである(コーワン 2010)。したがって、筆者らは、便利な道具が即「お母さん」の家事の時間を減らしたり楽にしたりするとは限らない事を知り、家事を美化したり複雑化したりしないこと、手間をかければかけるほどよいという考え方にもっていかないこと、が重要と考える。

第4に、ITを利用して、会社でも家でも働ける、といった柔軟な働き方は、男女とも同じようにするべきだと、筆者らは考える。柔軟な働き方を女性だけにさせるのでは、ジェンダー平等は進まない。家にいる人には、どうしても家事や育児、介護が集中することになり、結果的に、外に働きに行く人より収入が低くなる可能性もある。柔軟な働き方を生かしたワークライフ・バランスは、男女ともに平等に取り組まなければ、男女の賃金格差は縮まらないであろうし、無償労働の負担も平等になりにくいだろう。

最後に、上述の世界経済フォーラムのレポートの紹介でも触れたが、女性の多い事務職が、今後AIやオートメーションの導入により、大打撃を受ける可能性が大きい。手をこまねいているようでは、今あるジェンダー格差をさらに拡大させる恐れがある。すでに、2017年後半には、みずほ銀行など大手金融機関が大幅に人員削減をするという方針を打ち出したことが話題となった。AIやフィンテックの導入により、銀行は大幅な業務量の削減が行われるだろうとされている(金子 2017)。窓口業務などの女性の多い職種は変化をこうむる可能性が大きいと考えられる。このように、すでにAIの導入を見越した雇用計画は始まっている。これまで女性が多かった職が、AIにより雇用を奪われるのであれば、これから伸びる情報科学分野への女性の参画を促し、今から教育する必要がある。日本でも現実のものとして捉え、早急に対策を練る必要があるだろう。

4. おわりに

以上のように、AIやオートメーションの進行は、男女の雇用や生活に影響をもたらす可能性がある、ということを十分に認識する必要がある。日本の、企業を含む様々な男女格差の現状を知ることは、まず早急に取り組むべき課題であろう。さらに、今後重要となってくる分野を見極め、そこに女性が少ないのであれば、早急に教育環境を整えて人材を育成するほか、積極的に女性を採用し、女性が離職しないような対策を考える必要がある。女性が受けた教育を十分生かすためには、一層、女性が働けるような環境を整えていく必要があるであろう。それらは倫理的にも、経済的にも、ビジネスにとっても重要なことなのである。さらには、便利な家事テクノロジーの導入により、女性を家事の過度な負担から真に解放するためにはどうしたらよいか、また、柔軟な働き方で男女の格差を解消するにはどうしたらよいか、ということをよく考えたいものである。来るべき大きな変化に乗り遅れないように、かつ、これをジェンダー平等を達成するチャンスとして、意識的な努力が求められる。

参考文献
  • コーワン、ルース・シュウォーツ著/高橋雄造訳 2014『お母さんは忙しくなるばかり:家事労働とテクノロジーの社会史』法政大学出版局(Ruth Schwartz Cowan. 1983. More Work for Mother: The Ironies of Household Technology from the Open Hearth to the Microwave. New York: Basic Books,)
  • 岩本晃一・波多野文「やさしい経済学」『日本経済新聞』朝刊、2017年11月6日、7日、8日、9日、10日、14日、15日、16日。
  • 金子智朗 2017 「銀行は万単位の人員削減、一方で未曽有の人手不足…透ける「要らない人材像」」http://biz-journal.jp/2017/12/post_21604.html(2018年5月20日アクセス)
  • National Science Foundation. 2017. Women, Minorities, and Persons with Disabilities in Science and Engineering. https://www.nsf.gov/statistics/2017/nsf17310/digest/fod-women/computer-sciences.cfm.(2018年4月4日アクセス)
  • 『日本経済新聞』「米IT『男社会』の厚い壁」:『女性は不向き』グーグル社員の文書波紋」2017年9月24日朝刊.
  • 尾木蔵人 2015. 『決定版 インダストリー4.0――第4次産業革命の全貌』東洋経済新聞社
  • World Economic Forum. 2016. "The Future of Jobs: Employment, Skills and Workforce Strategy for the Fourth Industrial Revolution." http://www3.weforum.org/docs/WEF_Future_of_Jobs.pdf.(2018年5月2日アクセス)
  • World Economic Forum. 2016. "The Industry Gender Gap: Women and Work in the Fourth Industrial Revolution." http://www3.weforum.org/docs/WEF_FOJ_Executive_Summary_GenderGap.pdf.(2018年5月2日アクセス)
  • World Economic Forum. 2017. "The Global Gender Gap Report 2017." http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2017.pdf.(2018年5月2日アクセス)

2018年5月22日掲載

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