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第五章 産業競争力強化の視点から見た情報家電システムデバイス

※本プロジェクトは、終了しております。

家庭、モバイル、コミュニティ、オフィス等の多様な生活活動空間において、子供からお年寄りまで高度に情報化された社会を享受できるようにするためには、時間や場所に制約されず安全に誰でも安心して使える情報環境が要求される。

このような環境を支える情報家電システムデバイスとして、

  1. (1)SOC やMPUなどのシリコンLSI(半導体チップ)
  2. (2)通信デバイス(ネットワーク)
  3. (3)ストレージデバイス(情報家電)
  4. (4)ディスプレイデバイス(情報家電)
  5. の4つのハードウェア関連技術を採り上げる。

情報家電製品は、製品のコアとなる部品として、MPU(Micro Processing Unit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのSOCがあるが、テレビの場合は、映像信号処理部やパネル駆動システム部をチップ化したものがこれに相当する。このとき、テレビの入力信号から表示までを最適化させるという「すりあわせ」工程がここで必要となる。テレビは、パソコンとは異なり、構成部品が完全にモジュール化されているわけではない。すなわち、放送局から送られてくる入力信号を人間の目で見ていかに自然に見せるかがテレビの肝であり、これをいわゆる「絵作り」と言っている。具体的には、パネルの特性に応じて、入力信号をきめ細かに調整していくことであるが、これは半導体チップの回路設計(必要に応じて、半導体プロセス、消費電力、価格も考慮される)や、半導体チップに搭載するソフトウェアの開発などを行うことである。

特に液晶テレビやプラズマテレビといったパネルの画質性能が年々進化している製品については、パネル、半導体チップ、ソフトウェアの総合技術の競争になる。技術が枯れてくれば、当然のことながらモジュール化して開発コストを下げていく、あるいはモジュールそのものを販売していくことになっていくが、我が国の電機・電子産業の特徴はこのすりあわせによる付加価値を製品にのせて売っていくことが強みとなっており、これを常に追求し続けていけるビジネスモデルが成功パターンとなると言える。

<目次>

「シリコンLSI」

§環境認識
(1) 欧米・アジアの戦略、動向
a. 半導体事業規模
2002 年の半導体売り上げトップ10 メーカを見れば主にPC やサーバのMPU を製造しているIntelが売り上げのトップで、2 位以降を大きく離している。これはPC に搭載されているMPU の大半がIntel 製であること、またMPUの付加価値が高いため単価を比較的高く設定できることによる。売り上げの伸び率をみると、三星(韓国)、TSMC(台湾)、Infineon(独)が高い。三星は売り上げのほとんどをDRAMとFlashメモリが占めていて、MPUのようなシステムLSIの割合は低い。Infineon もDRAMが占める割合が比較的高い。この2 社は前年のDRAM の売り上げが極端に低かったための反動が伸び率に含まれている。

b. SOC 設計技術を取り巻く日本・海外環境比較
・ファンドリ・ファブレスビジネスモデル
外部から委託されたLSI を製造するスタイルである。海外の主要なメーカがTSMC 等の半導体依託製造会社(ファンドリ)に依託していて、その技術力と価格競争力故にIT技術の中心をなすような主要なLSI の製造を任されている。また、TSMCのようなファンドリは、他にUMC(台湾)をはじめとして、韓国、マレーシア、中国などにも次々と設立されていて、アジアの典型的な半導体ビジネスの形態となっている。TSMC 等のファンドリは、TI やST Micro 等のシステムLSI メーカから技術を受けることで、システムLSI の製造能力を高めるばかりか、それに必要なバックエンドの設計技術が向上してきている。日本の多くの半導体メーカはIDM (Integrated Device Manufacturer)という形態を取り、設計と生産が協力しながら製品を製造することで強みを発揮できるメリットがあったが、ファンドリも設計メーカとの協力でIDM の強みといわれる領域に近づきつつある。しかし、0.13μm 以降より設計とプロセスの強調が必要となってきており、設計部門を強化するなど協調強化に動いている。

・海外との設計力の比較
設計力に関する一般的な観察結果によれば、日本の設計生産性、設計キャパシティは海外に比べて高いようである。これが事実ならば、日本の高い設計力が収益に結びついていないことを示唆しているとも言える。売れる商品の創出すなわちマーケッティング力の向上が日本に架せられた大きな課題と考えられる。

・サプライヤーとユーザの関係の変化
工業社会型企業文化を製造/設計/商品企画が統合化され一体となった生産活動によってユーザの消費を喚起するようなものとすれば日本はまだこの工業社会型企業文化に浸っているという見方がある。一方情報社会型企業文化は商品企画/設計とユーザの対話の中(すなわち情報処理として)で作るべきものが定義され製造はあくまでも物質処理を行っているというスキームである。言い換えればマーケティング結果に基づき商品企画・設計が製造を牽引している姿である。問われるべき質問は「日本は情報社会型への移行が済んでいるか?」ということになる。

・設計チーム論
欧米ではスペシャリスト招聘型チーム作りが一般的と言われる。つまり新たなプロジェクトに対して現有の人を充てるのでなく、プロジェクトとして必要なスペックを100%充足できる人を集めて構築するいわば人の「プラグアンドプレイ」とも言うべきダイナミックな人材集めが行われている。プロジェクトの効率からいえば欧米型が優位であるのは言うまでもないが実現するためには社会の構造的支援が必要であろう。

c. 技術動向
(1) MPUの動向
アプリケーションの違いによって、使われるMPU の性質も違ってくる。スーパーコンやPC/WS、ネットワークの基幹系など、ビジネス分野やインフラ分野に使われるのは、消費電力よりも演算性能を重視したハイエンドのMPU である。家庭内で使われるシステム、たとえばホームサーバやゲーム、AV 等に使われるMPUは、性能も必要だが、消費電力もある程度まで抑制する必要があるミドルレンジのMPUである。また、個人が常に持ち歩くような携帯電話やPDA は、電源を電池に頼るため低消費電力が求められるモバイル用MPU である。市場規模は、ミドルレンジやモバイルなどの民生機器が大きい。今後は情報家電機器及びシステムの開発が本格化しアプリケーションも増えることから、ミドルレンジ領域のMPUやシステムLSIの市場の伸びが大きいことが予想されている。
別の観点で分類すると、MPU はPC やサーバに使われる計算用のものと、情報家電機器や携帯電話に入る組み込み用のものと大別できる。PC やサーバは前述のハイエンドの領域に含まれ、IA-32 やIA-64 のIntel アーキテクチャのMPUが大半を占めており、他のアーキテクチャのMPUのシェアは年々減少している。組み込み用途がほとんどのミドルレンジ領域やモバイル領域では、1 つのMPU アーキテクチャが独占することはないが、アプリケーションによっては決められたアーキテクチャのMPU が使われることが多い。たとえば、JAVA アプリを動かす携帯電話のアプリチップにはARM アーキテクチャのMPU が使われている。また、PDA でもARM アーキテクチャのMPU のシェアが増加している。これはそのシステムを動作させるOS やアプリケーションがバイナリに依存してしまい、アーキテクチャに制約を与えてしまうからである。ARM アーキテクチャ以外で組み込み用MPUの主なものには、PowerPC アーキテクチャやMIPS アーキテクチャのものがある。ARM は英国、PowerPC やMIPS は米国のメーカが開発した。また、MPU をシステムに組み込んだときに必要となるOS についても、WindowsCE、VxWorks、ITRON、Linux 等が使われる。国内のメーカは、これらのMPU アーキテクチャやOS を使用する場合に開発元やライセンス管理会社に対してライセンス料を支払っている。

(2) サーバの動向
IT 化の進展で、サーバの能力への要求が高くなっている。現在、性能向上が著しいのはIA-64、IA-32アーキテクチャのMPUであり、サーバでもこれらのアーキテクチャの製品が中心になっている。サーバに求められるものは性能だけではない。近年では、金融や流通等で、業務の基幹システムをサーバで構築するため高い信頼性こそ重要である。どんなアーキテクチャを採用した場合でも信頼性の高いシステムを構築する必要がある。日本は信頼性に関する技術力が非常に高く、サーバ製品の競争力が強い。

(3) 不揮発性メモリの動向
現状の大部分の不揮発性メモリは書き込み速度が遅いため目的に応じ、単体としてEEPROM、Flash 等の不揮発性メモリ、及び高速のDRAM、SRAM とFlash メモリ等を組み合わせて使用されている。また、次世代の不揮発性メモリは高速書き込みができるのでDRAM の置き換えも可能である。このため産業活性化のためにも重要な位置付けとしてFeRAM、MRAM について国家プロジェクトが推進され、メーカ、大学、産総研等で研究開発が進められている。
現在開発が進行しているFeRAM、 MRAM、OUM、 RRAM等の不揮発性メモリはCMOS をベースとして混載が容易である。主に実用化されているのはFeRAM であるが、現状では小容量の特殊用途の製品から実用化されている。現在、開発が早かった日本で1M bit のFeRAM が製品化され、1歩進んでいるが、今年度からさらに高密度な各種不揮発性メモリが登場してきそうな状況である。さらに将来は混載が容易なことからSystem LSI 等の内部メモリにもこれらの不揮発性メモリが搭載され、徐々に応用が広がるであろう。

(4) パワーデバイス
欧州では独Infineon 社がSiC デバイスの製品化を推進しており、米国ではCree 社、Rockwell 社などがDARPA などの政府予算を獲得して研究開発を加速させている。CPES(the Center for Power Electronics Systems)はパワーエレクトロニクス研究開発の一環として総合的な取り組みを進めている。SiC ウェハは依然としてエピ技術を含めCree 社の独占状態が続いているが、独SiCrystal 社(Siemens の関連会社)やOkmetik 社などのレベルが上がってきたようである。

(5) 設備投資
2003 年の半導体設備投資額の見通しを見れば売り上げの高いIntel や三星、売り上げの伸びが大きいTSMC は設備投資額も高くなっている。日本の半導体メーカはエルピーダメモリが最高で、 6社(エルピーダメモリ、東芝、松下、NEC、ソニー、富士通)の投資額を合計しても1 位のIntel 1社の投資額にも満たない。この投資額では新しい製造ラインの建設も難しい。売り上げが低下していることや、従来中心をなしていた製品であるDRAM 事業の再編により投資意欲の低下が見られる。上位20 位には、ファンドリが5 社(TSMC、東部電子(韓国)、UMC(台湾)、ProMOS(台湾)、Chartered(シンガポール))入っていて、積極的に投資を進めていることがわかる。今後ますます、ファンドリの競争力が強化されていくことが予想される。
半導体の製造技術は微細化が進むにつれ複雑になり、大型の設備投資が必要になっている。これはMPU等のシステムLSI でも然りである。Intel のように売り上げの高いメーカは設備投資や研究開発投資も順調にでき、さらに競争力が強化するポジティブサイクルが回る。三星もメモリの売り上げにより大型の投資ができることに加え、1.2GHz のARM チップの開発を発表するなど、MPUやシステムLSI の設計技術が高く、今後この方面へ、本格的に力を入れると脅威となる存在である。このように投資を順調に行えるメーカがますます競争力を上げるポジティブサイクルに入り、さらに強くなっていく傾向にある。
不揮発性メモリ関連では新規な設備を導入する必要があることから、一部の機関での導入にとどまっていると思われる。量産対応の設備が確立されていくにつれて設備投資も活発化していくと予想される。現状のFeRAMはまだ少量生産のため、6 インチウエハで線幅0.3μm以上で作られている。
しかし、DRAM と同様に資本力のある海外の会社は今年から来年にかけ8 インチウエハで0.13μmの線幅工場を立ち上げ、不揮発性メモリを製品化してくる可能性があるが、大規模な投資はNAND/AND フラッシュに限られると考えられる。
SiC デバイスに関しては、製品化を進めている独Infineon社は既存装置の転用と最小限の新規投資を組み合わせて初期投資を圧縮しているものと考えられる。高額なエピ装置とイオン注入装置への投資が大きなハードルとなる。

§対応策
(1)事業的視点
・かつて半導体プロセスの技術ノウハウが製造装置に組み込まれ海外に拡散したことを踏まえCAD に対する配慮が必要である。例えばシグナルインテグリティ関連を含むモデリングデータの保護。API(Application Program Interface)を明確にしてEDAベンダーにはノウハウの集約であるモデルリングデータをブラックボックスとして提供することのできるようなスキームを検討する必要がある。国内半導体メーカのベクトル合わせ、コンソーシアム的な活動推進が必要。同様に知財対策の徹底及び有力特許の先行取得を推進する。因みにFeRAM の特許は、占有率で50%を超えている。

・日立、三菱電機の半導体部門を統合するRenesas に見られるごとく国内で再編成の動きが活発化しだした。

・国外勢力の参入に対しては設計製造ノウハウのブラックボックス化によるロードブロック形成の他、IPR (Intelligent Property Right)での対応が必要。特にIPR では各社個別対応に加えてコンソーシアム的な対応が望まれる。また共同研究機関や大学でのIPRプログラムの整備が必要。

・MPU では今後市場の伸びが見込まれる情報家電向けのミドルレンジ領域にフォーカスをあわせることが、設備投資を行い、製品を開発し、投資を回収するサイクルを回し、半導体産業を進展させるには重要である。その一方で、高度な情報家電が開発されることからますますMPU の性能の向上が求められている。

・従来は、ミドルレンジ領域のMPU に対しては、ハイエンド領域で開発した高速化技術、モバイル領域で開発した低消費電力技術を応用することによって、性能の高い製品を短期間で開発してきた。これは、ハイエンド領域では性能向上のための並列技術等のアーキテクチャや、トランジスタの微細化を実現するための新材料、シグナルインテグリティ等の設計技術を開発しながらMPU の開発を進められ、モバイル領域では低電力にするための技術を開発しながらMPU の開発を進めていたからである。しかし、ハイエンド領域は開発コストが高くなることから、設計して製品として採算がとれるMPU の種類も減りつつあり、モバイル領域の代表である携帯に関しても各携帯電話会社がプラットフォームを設定するため、種類が限られてデファクト化し、一部のメーカのみがこの開発を担うようになっている。ハイエンド領域やモバイル領域での開発が途切れてしまうと、ミドルレンジに応用すべき技術が枯渇し、技術的競争力が低下するおそれがある。技術開発の目的だけでハイエンドやモバイルの領域のMPU を開発することは、開発コストの点からふさわしくない。技術開発のビークルとなり、MPU 製品を確保し、開発を続けることで、MPU 開発技術向上をつとめなくてはならない。

・オープンプラットフォーム戦略による仲間作り
◇ オープンOS(ITRON/Linux)+オープンMPU ソフトマクロ
◇ 共通S/W、 ミドルウェア開発環境の確立
◇ M/W、 H/W を併せたソリューション提供型ビジネスの強化

民生用機器に使われる組み込みMPUは、PowerPCやMIPS、ARM 等のアーキテクチャのものが多い。また、システムに組み込むのに必須なOS には、WindowsCE、VxWorks、ITRON、Linux等が使われている。システムにライセンス料が発生するMPUやOS を採用すると、そのシステムを生産販売する毎にライセンス料が発生し、コスト上昇につながる。
MPU アーキテクチャにかかるライセンス料はそれを利用したシステムLSI の値段の数%と少なく、ソフトウェア開発ツールの開発やOS の移植を独自に行うことと比較すると目立って高いものではない。逆にOS等のソフトウェアのライセンスはそのOSを使用したシステムに対して、システムの値段にかかわらず一定であるため、相対的に高いコストがかかる場合が多い。そこで、Linux のようにオープンなOS を使用することで、OS のライセンス料から逃れ、システムコストを削減する。あるいは、MPUアーキテクチャのライセンサーは米国や英国の企業が多いが、ライセンサーに働きかけることによってITRON のような国産のOS への移植を進め、OS のライセンス料として日本に還流させることで国内の強みが生かせる。
パワーデバイスに関しては、追随に時間がかかる独自技術で、早い市場投入が必要であり、早期に日本企業からSiC デバイスを市場に出して、ユーザとのやりとりを活発化することが必要である。また、コア技術の特許網構築は最も重要な要件である。

(2)技術開発的視点
a. 高速化・低電力化技術
高機能情報家電の実現に向けて、MPU の高性能化への要求は年々高くなっている。また、ユビキタス応用に向けて、モバイル用途では低電力化が要求されている。それ以外の用途でも実装や環境問題の観点から低電力化が求められている。
微細化を進めて高速化を進め、低電圧化することによって、高速化や低電力化を進めてきたが、クリティカルパスのゲート段数の観点から高速化が難しくなりつつある。そこで、並列処理をすることによって、クリティカルパスの段数を減らすことなく性能を向上させ、低電圧化を目指すなどの対策が必要である。また、マルチスレッド等のMPU 自体の性能を向上させるようなアーキテクチャの開発、採用を進めていくことも必要である。
微細化に伴い、単純なスケーリングのみでは性能の向上や低消費電力化が図れなくなりつつある。
そこで、次に述べるような新構造デバイスや、新材料を用いた、新しいプロセス開発が重要になっている。

b. 新規プロセス開発
微細化によるスケーリングが進むにつれて、単純にスケーリングにのらない問題が生じている。電源電圧を下げながら性能を維持するために、トランジスタのしきい電圧も低下している。そのため、トランジスタのサブスレッショルド電流によるオフリーク電流が増加し、待機時の消費電力が増加している。また、ゲート酸化膜の膜厚が薄くなったため、トンネル電流によるゲートリーク電流が消費電力を増加させている。そこで、FD-SOI (Full-Depletion Silicon on Insulator)等の新構造デバイスや高誘電率膜等の新材料の開発が求められている。配線の幅や間隔が小さくなるにつれ、配線の寄生抵抗や隣接する配線との寄生容量が、信号の伝播を遅らせている。現在のテクノロジーではトランジスタによる遅延よりも、配線による遅延が大きい。そこで、配線の抵抗を削減するためにアルミから銅による配線への切り替え、配線間の絶縁膜も二酸化シリコン(SiO2)よりさらに比誘電率の低い材料への切り替えが進められている。
新構造デバイスや新材料を採用すると、新たなシグナルインテグリティの問題が発生する。これらに対応する設計技術の開発も進めていかなければならない。
・次世代システムLSI との混載を狙った0.13umFeRAM 技術の早期開発。
・90nm 以下の微細プロセスを見据えたマイクロクリスタル技術の早期研究着手

c. 多品種、短TATへの対応
民生応用では様々なアプリケーション向けのシステムが開発されている。それぞれのシステムに対して独自のシステムLSI を設計するため、多品種が開発されている。また、市場投入のタイミングを外さないためにも短期の開発が求められている。そこで、MPUをIP コアライブラリとして組み込み、SoCバスを使ってシステムLSI を構成する、SoC のプラットフォーム化が進められている。プラットフォーム化することによって、様々なシステムLSIが短TATで開発できる。また、FPGA (Field Programmable Gate Array)やDRP (Dynamically Reconfigurable Processor)のようなプログラマブルなデバイスをSOC に組み込むことによって、1 品種で多品種のシステムLSI を開発したのと同様なことがソフトウェア的に実現できる。プログラマブルデバイスなので、LSI ハードウェアを開発するのに比べて短期間に開発できる利点がある。
システムを設計するには、ハードウェアとそれに搭載するソフトウェアの開発も行わなくてはならない。システムが複雑になると、ソフトウェアも複雑化し、デバッグにかかる工数も大きくなる。ハードウェアをエミュレーションする技術を使って、ハードウェアと同時にソフトウェアの開発を進めることが、システムの短期開発に有効である。また、C 言語によってシステム全体を記述し、ソフトウェア開発をしながら、システムの一部をC 言語記述から直接ハードウェア化するC 言語設計の手法も、短期開発の大きな武器になる。

d. 高信頼性
社会構造が複雑化し、IT への依存が高くなっている。この基幹をなすサーバやコンピュータシステムが停止することは社会的な問題である。そのため、サーバシステムの信頼性はもとより、MPU やシステムLSI に対しても高い信頼性が求められている。
MPU やシステムLSI に対しては、設計時にエレクトロマイグレーションによる断線やホットキャリアによる性能劣化等を考慮し、出荷後の故障を少なくする対策を施す。微細化の進展や新材料の導入によって、新たな故障要因が誘起されることも考えられるので、科学的な分析を怠らず、信頼性を高める必要がある。また、高集積化に伴い、システムLSI が複雑になっているにもかかわらず、設計期間が短縮することから、信頼性に関する取り組みが相対的に低下している。これをカバーするために、BIST (Built-In Self Test)やDFT (Design For Test)等のテスト容易化設計技術を進める必要がある。
システムLSI 等の部品の信頼性だけではなく、MPU にECC (Error Corrective Code)やRAS(Reliability Availability Serviceability)等、システム全体の信頼性を向上させる機能の導入を図ることも必要である。
サーバシステムの高信頼性化に対しては、サーバ単体レベルの技術として、CPUの二重化比較等によって、障害を確実に検出し正常な処理を継続させることが求められる。さらには、サブシステムレベルの技術として複数台のサーバを組にし、特定のサーバが故障したときには他のサーバで処理を代行する(クラスタリング)等、各階層で高信頼性手法を駆使し、システム全体の信頼性を飛躍的に向上させることも必要である。 最近は、安価でかつ高性能なインテルアーキテクチャのMPUを使ったサーバが人気であるが、PCで使われる安価な部品を利用する場合があり、信頼性がやや犠牲になっている感がある。このようなシステムにおいても、システムのサーバ自身や主要コンポーネントを二重化して冗長構成を持たせ、片方のサーバやコンポーネントで故障が発生しても、故障したサーバやコンポーネントを瞬時に切り離し、システムに全く影響を与えずに運用を継続させることができるフォールトトレラント技術を開発する。高度に発達した社会基盤システムでは、このようにシステムの信頼性や可用性を高めることが益々重要となる。故障したサーバやコンポーネントは、システムの運用を継続したまま交換・再組み込みが可能で、システムを停止して故障箇所を修理する場合に比べ、大幅に社会的な損失コストを低減することができる。

e. 人的リソース流動性向上のスキーム
各半導体メーカ保有の固有技術のところに国内の優秀な技術者が集まり国内各メーカがそれぞれ個性化/専門技術化していく仕組み作りが必要。このため少なくとも欧米に見られるような半導体メーカ間での人の移動がより容易にかつ安易になるような仕掛けが重要となる。さらに採用面でも駐欧米日本人、駐米外国人の雇用を促進するような方策が必要である。

f. 教育
システムLSI の開発の形態は、半導体生産依託会社などのファンドリと、製造設備を持たずLSI のアーキテクチャ、回路、マスクレイアウトまでを設計するファブレスの組み合わせで行われることが多くなった。ファンドリには大きな資本が投入され、技術力が向上するとともに、ファンドリ会社が増えたことによる競争の激化によって、新たに上流に向かってビジネスを広げる傾向にある。よって、設計力でシステムLSI の競争力を上げようと思っている日本の半導体企業も安泰としてはいられない。
技術の進歩は速く、微細化によって設計手法も複雑になっている。従来の設計手法のままでは、LSIが設計できない。また、1つのシステムLSIを開発するために必要な技術者の数も増加している。
高度な設計が行える技術者を増やすためにも、大学などの教育機関での育成カリキュラムを充実させるとともに、既に社会で実務に従事している技術者に対しても、技術レベルの向上や最新技術のキャッチアップのために、再教育の方策が必要である。

g. オープンプラットフォーム技術開発
・オープンOS(ITRON/Linux)+オープンMPU ソフトマクロ
・共通S/W、 ミドルウェア開発のための標準開発環境の確立

h. アプリケーション対応
情報家電向けにMPU 等のシステムLSI 事業を伸ばしていくためには、最終的な装置の使われ方やアプリケーションを想定した機能を実現するMPUやシステムLSI の開発をすることが重要である。
今後、数多くの情報家電機器が家庭内に入り、ネットワークを通じて情報の交換をするようになる。
ユビキタス化が情報家電の価値を高めることを考えると、家庭内のネットワークだけではなく、インターネットのような公共のネットワーク上で、情報の交換を行うことも考えなくてはならない。従ってプライバシー保護のための対策が必要となる。また、様々なコンテンツを利用する機会が増え、利用形態も多様化することから、そのコンテンツの利用する権利を保護する方策、特にコピープロテクトの技術が必須である。以上のことから、システムとして暗号化やウォーターマーク(電子透かし)等の技術の開発及び標準化が望まれる。技術が確立されれば、それを実現するためのSWやHWの開発は可能である。また、標準化されれば、専用のHW を開発しやすくなり、家電内に安価で簡単に組み込んで使えるようにできる。またHW の専用化は低消費電力を実現するのに有利である。
情報家電として日本が得意とする分野に、AV 関連がある。ネットワークを通じてビデオ配信を行ったり、双方向に動画を交換して在宅医療サービスが受けられたりするようなシステムが実現される。これらの中核となるのはデジタルTV や家庭内サーバ等の機器である。特にデジタルTV では、送られてきた動画データから実際に表示できる形に処理をするマルチメディア処理LSI が多く使われる。
様々な形態のサービスや機器が想定されるので、専用のHW あるいはマルチメディア処理命令を追加したMPUの開発によって、小型化や低消費電力化で差別化できるようなSOCの開発を進める。使われる情報家電機器が増加するに従い、通信される情報量も莫大になっていくことが想定される。
インフラを構成するネットワークの基幹系においても、高いトラフィック処理性能が求められる。大容量通信を想定した高性能なMPUアーキテクチャを開発し、基幹系の装置に組み込む。以上のようにアプリケーションを絞り込んで、システムLSI やMPU の開発を進めることで、情報家電とともにLSI事業を伸ばしていく。

i. パワーデバイス
量産に直結したプロセス技術、装置開発が必要である。特に結晶材料育成技術、並びにエピタキシャル層作製技術における、大口径無欠陥化技術はコストダウンに必須の技術である。5年間の超低損失電力素子技術開発プロジェクトによって欧米に大きく遅れていたSiCの研究開発のレベルは大きく前進した。今後はデバイスの動特性解析、高熱密度・高電流密度・高温対応の実装技術、高温・小型化対応の周辺部品、回路技術など、SiC材料の特性を最大限に引き出すための周辺技術の研究開発が必要である。この分野は欧米でも着手してはいるが、まだ十分な成果を出していない技術分野であり、早期に取り組むべき分野と考えられる。

(3) 生産技術視点
a. 多品種少量生産への対応
DRAM のような少品種大量生産のビジネスモデルから、システムLSI のような多品種少量生産のモデルへの転換が必須である。LSI の微細化が進み、テクノロジーが0.1um を切るようになり、LSIの開発費は膨大になった。マスクセットだけでも1 億円近くなり、開発費や拡散費用、またラインの設備投資や維持費用を考えると、これを賄う売り上げを回収できる製品はますます絞り込まれる。その対策として、ミニファンドリや枚葉式の設備によって、少量のLSI の開発に最適化したラインを構築することや、マスクのコストを削減するために、マルチレイヤのマスクや、電子線直描装置を導入することが考えられる。また、マスクの作成し直し回数を削減するための、高度な検証技術の開発、導入を図ることも重要である。

b. ブラックボックス化に向けた特殊プロセス装置の開発あるいは開発協業
海外メーカの追い上げ、知財権を無視したコピー製品の増加を防ぐため、真似のできない半導体製品の開発、あるいは、製造装置のブラックボックス化を推進する。製品での保護とソフト面での秘守契約条項等の両面から保護する。

c. パワーデバイス
スループット、コストを踏まえたプロセス開発。SiCデバイスの事業化ではバルク基板とエピタキシャル層からなるSiCエピタキシャルウェハのコスト、口径、供給体制の不備等が障害となっている。コストはウェハメーカ間の競合状態、出荷量にも依存するが1インチ当り1万円を下回るような技術的な裏付けも必要である。国内ウェハメーカのバルク成長技術はかなりレベルアップしてきている。加工技術もコストアップ要因になっており、低コスト化技術が必要である。最終的にはSiパワー素子の標準口径である6インチやLSIの8インチを目指して、大口径化を目指す必要があるが、現時点においては自動車用インバータ、UPS 電源等の実用化に必要とされる最小口径4インチウエハの安定供給が優先課題と考える。またSi用の微細化プロセスの利用はプロセスコスト低減に不可欠である。

「通信デバイス」

§環境認識
インターネット、デジタルコンテンツの普及、利用拡大に伴い、ネットワーク接続機能を持つ情報家電機器の増加が見込まれる。このネットワーク機能に関しての最近の動向として顕著なものは、家庭での無線LAN の利用の急増に見られるように、
・IP技術の進展
・無線ネットワーク技術の進展
の2点である。これまで、無線LAN関連技術では、海外企業を中心としたPC関連業界が主導権を握っており、これから日本企業が対抗することは非常に困難な状況である。このため、今後日本が強みを発揮するべき情報家電機器にネットワーク機能を搭載する際には、低コスト、高機能化、標準化にフォーカスした通信デバイスを開発することにより、日本が主導権を握ることが重要である。
デジタル映像コンテンツの充実の結果、家庭内でのネットワーク配信や情報家電同士のコンテンツのやりとりに対するニーズが高まることが予想されている。しかしながら、このようなニーズに応えるネットワークを実現しようとすると、技術開発の前に周波数不足の壁にぶつかってしまうケースが実に多い。無線ネットワークはもちろんであるが、電力線を用いて家庭内ネットワークを構築する屋内PLCなどにおいても、新しい用途や高速通信を実現しようとすると、周波数不足の壁が立ちはだかる場合が多く、仮に周波数を再配分することになったとしても長い期間を要する。このため、技術者が新しい無線技術を考案したとしても、制度上のリスクから開発を断念せざるを得ないという不幸な構図となっており、イノベーションの意欲を削いでいる可能性がある。

一方、米国においては、無線LANやウルトラワイドバンド、ソフトウェア無線など、周波数制度の変革を迫るような新技術が誕生し、標準化活動などでの発言力を増すとともに、世界の市場を獲得してきている。米国連邦通信委員会(FCC)もそれを応援するかのように、周波数の共用化(コモンズ政策)、周波数取引の解禁など周波数政策の柔軟化に舵を切り始めており、最近もテレビ放送用のガードバンドをIP無線用に開放することを検討するなど、市場の要請に応えるための新手を展開している。日本が情報家電のための無線ネットワークで主導権を握るためには、国内市場の開拓は欠かせない。このためには、国内における電波不足という問題の除去は国の最重要課題と言っても過言ではあるまい。これまでの電波政策が重きを置いてきた事前規制による混信回避という絶対の価値は、コモンズという考え方や自律的に干渉回避可能なソフトウェア無線技術などの登場によって薄らいできている。重要なことは、新しい技術が出てきてから対応するのではなく、技術のイノベーションを促すような制度体系に根本から変えていくというメッセージを市場に送り、確実かつスピーディに実行することである。

さらに、家庭内のネットワークはラストワンマイルのアクセス系から、メトロ・ネットワーク含む幹線ネットワーク、国際ネットワークへと繋がるため、今後伸びるであろう通信容量需要への過不足のない整備が求められる。この場合、重要な鍵を握るのが高速なスイッチ性能を持つIP ルータ向けデバイスの開発、光ネットワーク関連の技術開発が重要となる。

以下では、今後の情報家電機器の国際競争力を維持する上で、必須な技術動向として無線に代表されるホームネットワーク用デバイス技術、基幹系IP ルータ向けデバイス技術、光ネットワークデバイスについて述べる。

(1)欧米・アジアの戦略、動向
a.無線関連デバイス技術
無線関連で今後の国際競争力の鍵を握る技術として、高周波デバイスとソフトウェア無線技術が機器の小型、高性能化の面で重要である。

(1)高周波デバイス
高周波デバイス関連技術は、低コストで超高速伝送を実現する上でもっとも基本的な基礎技術である。アジアでは、特定応用に特化型のベンチャーが多数台頭(エピ結晶、ファウンダリ、通信装置など)してきた。特に、台湾・韓国では米国帰りの有能な研究者や技術者が企業家になる場合が多く、米国式のビジネスモデルを自国の安い労働力をバックに展開中である。例として台湾のTSMCはシリコンLSI で世界最大のファンドリに成長しており、リソグラフィやウエハ径では技術的にも世界の最先端を走る。このTSMC のOB から最近ではGaAs 系のファンドリも生まれている。また、次世代技術であるMEMS(Micro Electro-Mechanical System)を高周波デバイスに適用したRF-MEMSに力を入れている。経済特区やVCなどの制度面でも現状では日本は立ち遅れている。
一方、米国ではDARPA、NSF を中心に政府予算からの大規模な投資が行われている。特にDARPA からの予算は軍事応用を当面のターゲットとしているが、やがては民生用に転用されて米国の産業強雄力の源泉になっている例は枚挙にいとまがない。

(2)ウルトラワイドバンド無線技術
ウルトラワイドバンド無線(UWB)も、軍事応用を目的とされ、主に米国で開発が進められてきた技術のひとつである。主にマイクロ波帯の非常に広い周波数帯域幅を利用することにより、低コストで超高速無線通信を実現できる特長がある。2002年2月に米国連邦通信委員会(FCC)が民生用にUWB利用を開放したことや、標準化作業が進んできたことから、市場から大きな注目を浴びるようになってきた。応用分野としては、至近距離における超高速無線通信用途や、簡易な位置測定システム用途などがある。特に、情報家電製品の分野では、家庭内で、デジタルビデオカメラからDVDレコーダーへの映像ファイル転送や、PCからHDD音楽レコーダーへの大量音楽ファイル転送など、機器同士で巨大なファイルサイズを持つコンテンツを、ストレスなくやりとりできる無線通信技術として期待されている。このような至近距離の超高速通信は、従来USBなどの有線技術では実現されてきたものだが、UWBにより初めてワイヤレスで実現可能となり、ケーブル接続の煩わしさから開放されることは様々なメリットをもたらすと考えられる。
標準化の動向としては、IEEE802.15.3としての標準化作業が進められてきたが、マルチバンドOFDM方式と直接拡散OFDM方式の2方式が並立している状況であり、標準の一本化に時間がかかっている状況である。それでも、インテルを始め、米国やイスラエルのベンチャーなどはUWBチップセットの開発を急ピッチで進めており、2005年中にはチップセットが市場に出回るとの予想もある。
日本では、現行電波法上認められていないUWBを制度的に認めるべきかどうかの検討が行われており、2004年度末を目途に結論を得ることとなっている。しかしながら、具体的に、いつどのような制度となるのかは現段階では不透明であり、国内向けのUWB関連技術開発には制度面での大きなリスクを伴っている状況と言える。

(3)ソフトウェア無線技術
ソフトウェア無線(SDR)技術は、無線方式や周波数、送信出力に至るまで無線機に必要とされる機能をソフトウェアで実現しようとするものである。現段階では、消費電力の問題などからくる制約が大きく、情報家電に応用するにはやや将来の技術と言えるであろう。国際的には、米軍用のSPEAKeasy プロジェクトをはじめ、米国での活動が歴史も古く、最も活発に行われている。1996 年3月にはSPEAKeasy プロジェクトの参加企業を中心に、MMITS(Modular Multifunction InformationTransfer System)フォーラムという団体が発足した。MMITS は1998 年12 月にSDR(Software Defined Radio)フォーラムと改称し、ソフトウェア無線の標準化活動を行っている。同フォーラムは欧米が中心であるが、日韓の企業、大学も参加している。またQuickSilver Technology やRFco といったベンチャーが、SDR向けのデバイスの開発を表明している。
ヨーロッパでは、EC の組織の中での共同研究という形で、多数のソフトウェア無線関連の研究が行われている。例えばACTS(Advanced Communications Technologies and Services)プログラムでは、FIRST(Flexible Integrated Radio System Technology) 、SORT(Software Radio Technology)といったプロジェクトがある。同様にESPRIT(European trategic Program for Research and Development in Information Technology) やIST(Information Society Technologies)といったプログラムにも、数多くのソフトウェア無線関連の研究プロジェクトがある。
以上のように、米国では軍からの資金が、ヨーロッパではEC あるいは個々の国からの資金が、研究開発の支援として投入されている。例えばIST プログラムでは4 年間で36 億ユーロという資金が投入されている。

b.IP ルータ向けデバイス
IP 系の技術は米国が主導しているが、IP ネットワークが今後の社会インフラとして重要になることを考えると、基幹ネットワーク製品での技術開発力の強化が必須である。また、将来的な高速化を実現するためのデバイス技術として超電導デバイス技術が有望である。

(1)高速ルータデバイス
IPネットワーク構築の基幹をなすパケットルータシステムに関しては、IP(インターネットプロトコル)関連技術開発、製品開発が活発な米国において、多くの先進的な技術展開が発生する状況が続いている。インターネットの先進国である米国ではNGI(Next Generation Internet)、I2(Internet-2)などの国家プロジェクトの支援も受けつつ、パケットルータシステム、それを支えるシステムLSIに大きな位置を築いてきた。一方、台湾ではこれら米国のLSI開発の一翼を担うとともに、市販システムLSIを用いた低廉、簡易なシステム開発に集中している。一方、これらに対抗すべく中国が様々な技術の集積を進めている。
インターネットの拡大による様々な社会活動のネットワーク上への展開を背景に、インフラとしてのネットワークの高速大容量化と低価格化は今後も重要な課題と考えられる。そのネットワーク構築の主体装置であるパケットルータシステムとその周辺LSIは、今後の情報社会の基盤技術として重要性を一層増すと考えられ、日本としても継続的な技術開発を推進する必要がある。

(2)超電導デバイス
超電導デバイスの市場は、超電導磁気センサー(SQUID)や通信用の超電導フィルタなどが開けつつある段階であり、まだ市場が確立されているとは言いがたい。しかし、超電導デバイスのもつ潜在能力は高く、将来は通信や情報処理の分野で幅広く利用されることが期待されている。このため、各国とも超電導デバイスの開発に国家的援助を行っているのが現状である。たとえば米国では、HYPRES、STI などのベンチャー企業が十年以上も存続できているのは、投資家の資金だけでなく国の援助による寄与が大きい。欧州や韓国、中国なども国の援助で超電導技術の開発を進めている。

c.光ネットワークデバイス
1980 年代に日本の光通信システムが世界をリードしたことに対し、米国は国家情報に関する国家安全性(セキュリテイー)の観点から重大な危機感を持った。そのため、1990年代には、WDM を中心とした国家プロジェクトの発足、OIDA (Optoelectronics Industry Development Association)の設立、等により、光通信システム技術開発に力を注ぎ、また、情報スーパハイウエイ構想、インターネットの拡大等、システムやコンテンツに対しても戦略的に開発を支える体制をとった。その結果、WDM 技術を急成長させることに功を奏し、産業面においても日本を凌駕するようになった。2000 年代になると、通信バブルが崩壊し、その痛手は日本よりも大きくなっている。
欧州においては、地道に超高速光デバイスや光通信システム(ネットワーク)の研究開発を進めてきた。しかし、2000 年頃から大容量・超高速光通信用デバイス・システムに関する国家・地域プロジェクトを多数設立させている。いずれも日本のFST(フェムト秒テクノロジー)プロジェクトを雛型にしたもので、超高速光デバイスの研究開発に力を入れ始めた。
アジアにおいては、日欧米の技術や産業を追いかけている段階である。しかし製造技術において徐々に力をつけており、また国内・地域等に大きな市場を有していることなどから、その動向を看過することはできない。

d.PLCデバイス
最近、米国のブッシュ大統領が日韓に遅れをとった米国内ブロードバンドの普及のために電力線インフラを使った高速インターネットアクセス技術を推し進める政策をとると発表したことは記憶に新しい。
欧州においても、スペインやドイツなどで、電力線を使ったインターネットアクセス技術は既に実用化されており、40Mbpsという高速通信を実現するモデムも既に開発されている。これらの高速電力線通信(PLC)用モデムを開発しているのは主に欧米やイスラエル、韓国のベンチャー企業である。日本でも海外企業のライセンスを受けてモデムを開発・生産しているところはあるが、まだ多くはない。
日本では、世界一安価な水準でFTTH やADSLなどの高速インターネットサービスが普及しつつあることから、インターネットアクセス手段としてのPLC に対するニーズは大きいとは言えない。しかしながら、家庭内やオフィス内など、屋内のネットワークを構築する観点では、既にあらゆる部屋に配線された電力線を活用するPLC はコスト面から大きなメリットがある。
このため、日本の大手家電メーカなどは、次世代のホームネットワーク通信技術としてPLC の技術開発に力を注いでおり、欧米の複数の企業と組んだホームネットワークアライアンスにより、最大200Mbps もの高速通信を可能とするPLC 技術の標準化を推進しているところである。
PLC の高速化のためには、電力線内に2~30MHz の周波数幅の信号を重畳する必要がある。しかしながら、シールドされておらず平衡度も大きくない電力線は、高周波が外部に漏洩しやすく、その漏洩電磁波が、アマチュア無線や短波ラジオなどの既存の無線システムへ干渉する恐れがあることから、国内では電波法により高周波を重畳することが認められていない。ところが最近、ニーズの高い屋内ネットワーク用途であれば、屋外用途と比較して干渉の恐れが少なくなる見込みがあるとして、規制緩和への強い要望が出てきた。こうした市場のニーズを受け、総務省は2004年1月以降、2~30MHz を用いるPLC と既存無線システムの共用化の条件を探るための実証実験を行うことを認め、国内メーカや電力会社など多くのグループが実証実験を開始している。

(2)設備投資の現状と動向
a.無線デバイス
DRAMの競争力低下の現状を見るまでもなく、高周波デバイス関連でも国内半導体メーカは大型設備投資ができる環境にない。ビジネス戦略に基づいた新規技術、新規製品、新規市場の開拓が必要である。GaN についても、有望技術とは認識され、国家プロジェクトの発足を機に国内でも実用化を見据えた設備投資を含む研究開発も盛んに行われるようになった。
UWBやSDRについては、有望技術と認識されつつも、規制の動向が不透明であることなどから国内における設備投資はほとんど見られない状況であり、欧米のベンチャーを中心とした企業群に先行を許している。

b.IP ルータ向けデバイス
超電導デバイスの米国ベンチャー企業HYPRES では、以前からニオブ系超電導デバイスの集積回路のファンドリーサービスを行っている。このため多くの大学や企業が自分で設計した超電導デバイスを実現できる仕組みが確立されている。その他、ノースロップグラマン社でも6インチウェハラインを立ち上げつつあり、近々それらが稼動状態に入る予定である。規模は小さいが、ドイツの国研であるIPHTや韓国の国研であるKOPTI でも製造ラインを構築している。

c.光ネットワークデバイス
1990 年代後半には、インターネットの急速な拡大やIT産業の増加、将来の市場規模拡大に対する期待、等により、北米、日本を中心に積極的な設備投資が行われた。ただしこれらのかなりの部分は過剰な投資となり、通信バブル崩壊後の現在では、設備が十分には活用されなかったり、不良資産となったケースが多く見られる。その後、設備投資の縮小、在庫の調整・処理、等が行われ、また通信トラフィックの増加は続いていることから、設備投資の増加に向かう面も見え始めて来た。

d.PLCデバイス
PLC についても、国内市場においてADSL やFTTH と比較して市場優位性が見えなかったこと、規制緩和の目処が立っていないこと、標準化が進んでいなかったことなどから、積極的な設備投資が行われてこなかった。しかしながら、情報家電の普及に伴うホームネットワーク用ニーズの高まりと世界的な規制緩和の動向により市場の扉は開きつつあると言える。

§対応策

(1) 事業的視点
a. 無線デバイス
(1)高周波デバイス
特許ライセンス戦略の強化、技術の非公開化が考えられる。今後、外国人労働者(特に研究開発部門のポスドク)の依存度が増えてくるものと思われるが、自国に戻ることを前提とした一時的な雇用では、技術流出の点で不安が残る。一方で、外国人労働者を排斥するよりはその能力を活用する方が技術開発がはるかに進むことは米国の例を見るまでもない。技術開発の分野でこの背反する点を解消するために、外国人労働者が長期的に我が国に定着するような方策も重要と考える。
強い次世代技術を背景に現状市場に参入するか新規ビジネスを立ち上げる。ベンチャーの台頭については資金調達・税制面などのサポートが不可欠。さもないと、優秀な技術も人材とともに外国に流出する。大学を含めた優秀な人材の教育・育成も重要。夢を描ける環境整備が必要である。
また、外国人も含め、優秀な人材をどれだけ集められるかがポイント。そのためにも近年の足の速い技術開発を鑑み、フレキシビリティーや機動性のある組織体(ベンチャービジネス等)での活動が重要。国際的に力のある分野、力を持ち得るポテンシャルのある分野については思い切った強化策が必要となる。勝てる分野から勝つという姿勢から、それを核として新たなビジネスチャンスも生まれる。窒化物半導体の分野は、光デバイス応用の面で日本は世界一の技術力を有する。また、高周波デバイス、特にGaAs など化合物半導体を基盤とした技術分野は、日本が長年リードしてきた分野である。早期に、高効率の高周波デバイスを適用したGbpsクラスの無線LANを実現することがビジネスの柱となる。ワイヤレス技術の今後の発展が国際的に注目される中で、窒化物半導体の高周波デバイスのような日本が得意とする分野を、強化するという国際競争の中での明確な戦略を持って取り組むことが極めて大切と考える。

(2)ウルトラワイドバンド無線技術
ウルトラワイドバンド無線技術に関しては、デバイスの競争力という観点と、利用アプリケーションの観点があり得る。現実には、UWBの無線物理層を司るデバイス部分は既に米国やイスラエルの企業に先行されており、もはや日本勢が入り込む余地はないように思われる。各種情報家電にUWBを組み込む場合、情報家電の利用シーンに合わせ、通信制御や認証、セキュリティなどの上位レイヤーのアプリケーション開発が必要になるため、この開発に注力しつつ、無線物理層部分の技術を持つ海外企業とアライアンスを組む必要が出てくる。この場合は、標準化の行方を見据えた戦略的な提携が必要である。
また注意しなければならないのは、UWBを単純にポストUSBと捉えると、そのスペックがPC中心型のアーキテクチャに特化しかねないという点である。確かにそのようなニーズはあるであろうが、情報家電のネットワークにPC が不可欠であるとなると、使い勝手の面から市場が受け入れなくなる恐れがある。UWBは、例えばデジタルカメラとプリンター間の接続やデジタルビデオカメラとDVDレコーダー間の接続など、情報家電同士をアドホックに接続することが可能なものでなければならず、PC中心の中継用途に特化しない方向に向かうことが必要である。
UWBに関するデバイス、アプリケーション開発で遅れをとらないためには、早期の規制緩和がなされる必要がある。制度的な観点から見れば、非常に広帯域を使用するUWBは、コモンズと呼ばれる周波数の共同利用を前提とした技術である。これは、個別免許人に用途別に周波数を配分してきた周波数制度にとって、新しい考え方を要請するものであり、周波数資源の不足を解決する観点からも非常に大きなインパクトをもつことになるであろう。

(3)ソフトウェア無線技術
日本ではNTT、日立国際電気、通信総合研究所などがソフトウェア無線機のプロトタイプを試作している。これらの試作機のRF部は、システムが必要とするRF 周波数分並べたもので、またデジタルベースバンド部は、DSP あるいはFPGA を複数個並べて実現している。端末レベルでソフトウェア無線を実現することを考えた場合、今後の新世代移動体通信システムが必要とするベースバンドの処理量は、DSP やFPGA の延長では実現不可能であり、リコンフィギュラブルなLSI が有望視されている。またRF 部も無線システム分、複数系統持つというのは非現実的なので、広帯域なRF 部あるいはアンテナ部の実現が必須である。これらLSIの開発には非常に高額な投資が必要であるが、ソフトウェア無線機の実現時期、規制緩和動向、市場規模が明確ではないため、各社ともLSI の開発までは踏み込んでいない。
また上述の各社のプロトタイプは、SDRフォーラムで議論されているような標準化動向とは関係なく、各社が独立に開発している。ソフトウェア無線が実現されたときに、無線ソフトウェアの流通や、RF部、ベースバンド部といったサブモジュール単位での可換性を実現するためには、標準化されたAPIのようなものにそって設計されていなければならない。日本の企業、大学ではこの分野の研究をしているところは稀であり、このままではソフトウェア無線に関しても、海外に標準を抑えられてしまう危険性がある。
一方、現行の国内電波法においては、予め決まった周波数や送信出力、無線方式を使った無線機に免許を付与し、技術基準認証を行うことが通常であり、ソフトウェアで周波数や送信出力などを自由自在に変更できる無線機に免許を付与できるのか、技術基準認証を与えることができるのかどうかは不透明である。これは、ユーザが無秩序に周波数などを変更すると、予期しない無線システム同士の混信が発生する可能性があることがネックになっていると考えられる。しかし、一方で、ソフトウェア無線機は柔軟にその周波数や送信出力を変化させることにより、電波干渉を自立的に回避するポテンシャルも備えている。重要なことは、電波制度がソフトウェア無線に関する技術開発のブレーキになるようなことがあってはならず、制度そのものを柔軟かつスピーディに見直すことにより、ソフトウェア無線機を積極的に周波数の有効利用や混信回避に活用する方向に市場を誘導していくことが国内メーカの国際競争力強化の観点からも、ユーザの利便性向上の観点からも、周波数の逼迫対策の観点からも必要なのではないか。
従って、ソフトウェア無線機の根幹となるLSI の研究開発はもちろんであるが、標準化をにらんだシステムアーキテクチャの開発、ソフトウェア無線機の容認に向けた電波制度整備にも同等の注力が必要である。

b. IP ルータ向けデバイス
(1)高速ルータデバイス
グローバルキャリア始め多くのキャリアがIPサービスインフラの拡充を進めつつあり、それに呼応して企業内、データセンタなどのネットワークインフラのIP化が急激に進展している。その結果、トラフィック量の拡大も継続しており、ネットワークインフラはキャリア、エンタープライズ、あらゆる分野で高速/大容量化、そして高機能化へ進展している。この様な流れの中で、10ギガビット/秒速度のルータが2001年に実用化されたばかりであり、40ギガビット/秒速度のルータの実用展開は2006年以降と予測される。ある試算では、40ギガビット/秒速度のルータチップセット市場は、540億円(2006年/世界)で始まり、8、700億円(2010年/世界)まで拡大すると予測される。
この様な市場に対して、チップセットの早期提供により早期参入、大きな市場シェアの獲得を期待できる。一方、装置の市場の観点で見ると、重要な社会インフラであるルータ関連機器市場で日本の産業は出遅れた感がある。今回の40ギガビット/秒のチップセットの早期開発により、ルータ市場での出遅れを取り戻し、その高速度を武器にトップに躍り出る事も期待できる。その意味でも日本のネットワーク産業の育成に重要な貢献を期待できる。

(2)超電導デバイス米国がニオブ系超電導デバイスの6インチウェハ製造ラインの構築を2箇所(HYPRES、ノースロップグラマン)で進めている。プロセスレベル、信頼性では日本のプロセス技術が優れているが、日本のプロセスラインは3インチであり、生産性は米国の方が高いと思われる。
現時点で日本の有利な点は酸化物系超電導デバイスの作製技術と超電導デバイスの作製・設計技術である。これらはこれまで国の支援を受けて長期にわたり技術開発を進めてきた結果である。この優位性を今後も維持発展させていくことが、国際競争力に勝つために不可欠ではないか。

c. 光ネットワークデバイス日本で開発を進めている超高速/大容量光ノードデバイス、超高速光発生光源デバイス、超高速光信号の光ファイバ分散補償デバイス、等の光通信用超高速/大容量光デバイスは、世界に先駆けて研究開発が行われ、現在でも技術面で世界をリードしている。技術流出を防止し参入障壁を築くためには、このまま海外に対する技術的な優位性を保ち続けることと、知財権の確保やノウハウの流出防止について積極的な対応を行うことが重要である。
事業面での優位性を確保するには、光通信ネットワークでの国際標準やデファクトスタンダードに組み込まれることが必要である。そのためには、システム・ネットワーク開発者とデバイス開発者とが、開発早期の段階からコンセプトを共有し、技術開発の流れを実用化、標準化と一致させていかなくてはならない。さらに欧米の研究者や開発者との連携も必要である。

d.PLCデバイス
PLC については、情報家電同士を接続する屋内ネットワーク用途に開発リソースを注力する必要がある。段階としては、第一に国内電波法の規制緩和、第二に異メーカ間の相互接続性を確保するための国際標準化を推進することが重要。

(2) 技術開発的視点
a. 無線デバイス
(1)高周波デバイス
研究開発では優秀な人材と優れた環境が必要。特に半導体(IC含む)の研究は初期投資が大きいため、やりたくてもできない状況が生じている。また、優れた人材の他分野への流出が懸念される。産学官の連携による技術開発及び人材育成を、国際競争力強化という面からも平行して積極的に進めることが重要と考える。

(2)ウルトラワイドバンド無線デバイス
情報家電への応用を見据え、その利用シーンに合わせた、通信制御や認証、セキュリティなどの上位レイヤーのアプリケーション開発が重要。また、戦略的に標準化作業に参画することが重要であろう。あくまで、情報家電同士をアドホックに接続することを前提としたアーキテクチャを狙う。このため、小型のデジタルカメラなどにも応用できるよう低消費電力技術開発、既存無線利用者との干渉回避技術開発、超広帯域に対応する小型のアンテナ開発を積極的に進めることが重要。

(3)ソフトウェア無線技術
ソフトウェア無線向けLSI は、微細プロセス技術、低消費電力化技術、高速デジタル技術、広帯域アナログ技術、リコンフィギュラブル回路技術、移動体通信の特質を反映したLSI アーキ等、非常に幅広い分野にまたがる技術を必要とする。
これら技術の開発には、それぞれ多額の投資と人的リソースを長期にわたって投入しなければならないものばかりであるが、ソフトウェア無線を実現するためには必須の技術であり、これらの開発は避けることはできない。
微細プロセス技術、低消費電力化技術などはソフトウェア無線に限られた技術ではないため、他のアプリケーション向けLSI にも必須の技術である。これら技術の開発を通じて、種種のアプリケーションLSIの分野での国際競争力の強化にもつながる。

b. IP ルータ向けデバイス
(1)高速ルータデバイス
パケットルータシステムの製品世代は、主にEthernet の伝送路速度の進展に従って展開されて来た。10Mbps から100Mbps そして、1Gbps、10Gbps である。今後の展開に関しては、2006 年辺りには40Gbps 速度が要求されてくると予測されている。ネットワーク容量の拡大傾向からも同様の予測が可能であり、この速度領域をターゲットとした開発に早期に着手する必要がある。
高速パケットルータシステムはIPパケットの転送を実現するものであるが、そのシステムLSIは、IPプロトコル上に重層的に開発された各種プロトコル、また各種処理方式の集積を実現する事が要求される。これらに対しては、開発パワー、リソースの集中的な投入が重要な部分を占めており、早期の集中的な投資、着手が重要な要件となる。市場への早期参入、シェア獲得に向け、40G速度ルータ用チップ技術の研究開発を加速することで、高速処理SOC実装技術などの実現技術の全般的な技術の早期育成への取り組みを促進する事も可能である。

(2)超電導デバイス
基幹系ネットワークなどの情報インフラシステムにおいて、必要とされるハイエンドルータのスループットは、2010 年前後に数十Tbps 級、さらに将来はPbps 級になるとみられている。しかし、現在の半導体ルータ技術によるシステムの実現は、パケット処理能力と実装の限界が予想される。実現の鍵は、本質的な高速動作性能、高密度実装が可能な低消費電力特性、柔軟で複雑な論理処理能力などを特徴とする新技術を用いたシステム構築にある。超電導特有の単一磁束量子を用いたデバイス技術はこのような特徴を本質的に持っており、有望な技術であるといえる。
光信号は160Gbps を超える処理速度が実現されているが、電気信号の処理速度は10Gbps が主流であり、40Gbps の回路が開発中である。半導体を用いた電気信号処理速度は限界が予想される。単一磁束量子(SFQ)を用いた超電導電子回路では100Gbps を超える信号処理が可能であり、半導体回路の処理速度の限界を打破できる。
SFQ技術で大容量のスイッチカードを作り多数の半導体ラインカードを接続することにより、ルータ容量を向上する。現在最も容量が大きいルータ市販品のスイッチカードは、57×5×60cm の体積を必要とする。この処理速度は480Gbps(10Gbps×48 チャネル)である。超電導スイッチカードは1.28Tbps(40Gbps×32 チャネル)のものが10センチ角程度のボード1枚に収まる予定である。
規模を拡大すれば、100Tbps のスイッチも可能である。

c. 光ネットワークデバイス
超高速/大容量光ネットワーク実現のキーとなる下記の超高速/大容量光デバイスについて、その技術的優位性を保ち国際競争に勝ち抜かなくてはならない。そのためには、技術面ならびに資金面から産学官が連携して技術開発を積極的に行い、量的・質的に飛躍したブレークスルーを狙うことが重要である。

(1)超高速/大容量光ノードデバイス
現在では、10Gbps/ch. 信号(既設)~40Gbps/ch.信号(製品展示)の光通信ネットワークが実用化されている。いずれもネットワークのノードでは、光信号を一旦電気信号に変換し、電気的処理を行ってから、再び光信号に戻して伝送するO-E-O(光-電気-光)処理が行われている。情報トラフィックの増加に伴う大容量・超高速光ネットワークのノードにO-E-O 処理をそのまま適用しようとすると、ネットワーク運用コストや消費電力、設置面積が莫大なものとなると言われている。
そのため、ノード処理を光信号のまま行う「全光化」が必要とされる。この全光化により消費電力、設置面積、さらにはノードのインテリジェンシ化、等が可能となる。全光ノードに必要とされる主要なデバイスは、例えばスイッチでは、時間スイッチ、空間スイッチ、波長スイッチなどの超高速全光スイッチである。その他、光論理デバイスや光フリップ・フロップなどのメモリデバイスなども重要であり、今後の先行的基盤技術開発が求められる。特に光スイッチ技術は、日本が研究開発で先行しており、また得意とする分野でもある。この強みを生かして、これらの技術開発を強化することが重要である。

超高速光ネットワークの全光化には、超高速光信号を発生する光源デバイスならびにその信号を伝送するための光伝送デバイスの技術開発が必要である。現在、160Gbps を超える超高速ネットワークの実験には、光ファイバを使用した光源が使用されているが、実用化を考えると光源の小型化、安定化が必要で、半導体による小型・安定光信号光源デバイスの研究開発が必須である。
また超高速の光信号を伝送するには、光ファイバ内を通過する内に劣化してしまう光信号を元に戻す、あるいは劣化しないようにする必要がある。そのために、異種ファイバの組み合わせ等による分散補償の研究開発がなされているが、小型・安定・適応性・広帯域性に課題を有しているため、それらを解決する半導体等による分散補償デバイスの研究開発が必要である。これらの技術開発では、日本は先行しており、海外では日本の技術を追いかけている状況である。これらの技術開発を強化することで、この関係を維持し、さらには差を広げることが重要である。

(3)全光プロセシング
情報通信ネットワークの大容量化・高速化のためには、リンクとノードにおける信号処理の全光化が重要な研究開発課題である。リンクの全光化のためには、伝送や分岐などにより劣化した光信号の品質を回復する光3R再生(増幅、タイミング再生、波形整形)が必要不可欠である。特に160Gbps を超える超高速光信号に関しては電気的な処理が困難であるため、全光再生技術の開発が重要である。ノードの全光化のためには、パケットヘッダの照合、光バッファメモリ、パケットの衝突検出・回避などの技術開発が必要とされる。光バッファメモリに関してはいくつかの提案はあるものの、決定的な手法が見つかっていないため、原理、材料などの基礎的な段階から研究を進める必要がある。全光信号処理の分野ではドイツ公的機関等が先行している部門もあるが、我が国が得意とする超高速光デバイス技術や光ファイバ技術を有効に利用して強化することにより、優位性を確保することが重要である。

d.PLCデバイス
PLC については、国内メーカが屋内ネットワーク用途に最大200Mbpsに及ぶ超高速モデム用チップの開発でリードしており、国際標準化の場面でも発言力を持ちつつある。比較的低速度の屋外用途モデムについて、コアとなる通信デバイスが海外企業の独壇場であったことを考慮すると、この分野で今後も日本がリードするためには、一刻も早い電波法の規制緩和が望まれる。

(3)生産技術的視点
a.無線デバイス
(1)高周波デバイス
研究開発と生産技術を一体化して取り組むことで将来のビジネス展開を有利に展開できる。したがって、研究開発だからといって、生産性のない安価な装置で技術開発を行うことはビジネス展望を見誤る可能性がある。生産装置の開発と一体化したR&Dが重要である。また、高度な先端技術分野では、研究開発から量産までの全てを一つの企業体で一元化するのではなく、台湾におけるMEMS政策のように、民間ファウンドリーへの技術移管を前提とした産学官連携の枠組みが望まれる。

(2)ウルトラワイドバンド無線デバイス
日本の生産ラインでアジアに対抗するには、形状や容量の制約が多い小型の情報家電向けの用途を開拓し、無線物理層技術は先行欧米企業とアライアンスを組みつつ、通信制御や認証、セキュリティなどの上位レイヤーのアプリケーション技術、低消費電力技術、干渉回避技術、広帯域アンテナ技術を垂直統合的に組み合わせたUWBチップセットを開発・生産する視点が重要。

(3)ソフトウェア無線技術
前述のようにソフトウェア無線向けLSI は、非常に幅広い分野にまたがる技術の集大成であり、日本の半導体産業の総合力が生きる市場である。

b. IP ルータ向けデバイス
(1)高速ルータデバイス
本LSI市場は、プロセス技術、高速I/O 技術、回路設計技術、評価技術、装置アーキ等の幅広い分野の知識のトータルソリューションを売る市場であり、日本の半導体産業がその総合力を思う存分発揮できる分野である。

(2)超電導デバイス
超電導デバイスの生産ラインは半導体のそれに比べると安価である。半導体の複雑な製造工程に比べて構造が単純であり、半導体より高速動作を実現するための最小寸法が半導体に比べて一桁以上大きくてすむからである。8インチウェハを用いた製造ラインのコストは半導体のそれの百分の一程度と推定できる。
現在、超電導プロセスに使用している装置は15年ほど前に導入した装置を主力としており、1チップ上に集積できるジョセフソン接合数は10万個レベルである。ルータ用スイッチやサーバ用プロセッサの能力を半導体では不可能な領域にまで高めようとすると1,000万個レベルのジョセフソン接合を用いる必要がある。複数チップをボード上に配置して構成するとしても1チップ100万個レベルの集積規模が望まれる。半導体では3世代ほど前の0.2~0.3ミクロンルールの装置を用いれば、1チップ100万接合を集積した超電導回路が実現できる。このため、超電導プロセスの早急な基盤整備が望まれる。

c.光ネットワークデバイス
半導体による光デバイスの生産技術については、チップ製造からアセンブルに至るまで、日本が技術的に優位を保っている。しかし今回の通信バブル崩壊により、デバイス生産・開発体制への影響が懸念されている。産学官で連携し、次世代の超高速光通信ネットワーク用光デバイスの技術開発を進め、新たな市場の創出を図り、日本の生産技術を維持・発展させることが重要である。

d.PLCデバイス
PLCのコアとなるデバイスは、干渉回避機能とモデム機能を担うチップ部分と考えられるが、数多くの情報家電に採用されることを考慮すると、多様なデザインに対応できるようなインタフェースのラインアップとモジュール化を考慮した設計が重要であり、我が国の中小企業の機動力な製造能力を活用することも重要である。

「ストレージデバイス」

§環境認識
ネットワークの高速大容量化、ITインフラの整備に伴い、動画像等大量のデータを扱うことが普通となり、身の回りの情報は膨大な量に膨れあがって来ている。ネットワークに直接つながり映像データの一時保存やサーバとしてのハード磁気ディスク(HDD)、最近注目されている光ディスクとHDD を組み合わせて使うDVD レコーダー等、情報家電分野での需要が急拡大している。正に「情報爆発時代の到来」で、ネットワーク上を流通する膨大なコンテンツをブロードバンドアクセス回線を介してオフィスや家庭で蓄積したり、持ち運びできるストレージデバイスの大容量・高速化がますます重要となる。
このような用途のストレージデバイスとして、コスト、記憶容量、転送速度、アクセス速度、信頼性、あるいはデータ保存性を考慮すると、HDDや光メモリが、ブロードバンドネットワーク時代の情報蓄積に適した情報ストレージと位置づけることができる。
DVDに代表される光記録技術(レーザ、光ヘッド、媒体、記録方式、フォーマット等)、小型ストレージ市場(記録できる光ディスク、2.5インチHDD等)はいずれも日本の独壇場であるものの、Seagate(米国メーカ)が2003 年より2.5 インチHDD 市場に参入しつつある。更に、米国ではストレージを、プロセッサ、通信技術とともにブロードバンドネットワーク時代を支える3つの重要戦略技術と捉え、商務省を中心に関連する米国メーカ(Seagate、 HP、 Maxtor、 Quantum など)が産学官の協力組織INSIC(INformation Storage Industry Consortium)に参画して、次世代で主導権をとるべく、記録密度1テラビット/inch2 の先行技術を開発中である。また韓国、シンガポールなどにおいても、大学や国立研究所内にストレージ技術の研究センターを設立し、産学官が協力して急速に技術力を向上させつつある。
次に設備投資や生産の観点から、まずHDD 産業はそのデバイス製造ではナノメータレベルの技術が既に活用されており、基本的に半導体産業と同等レベルの生産設備を製品の世代交代に併せて導入することが必要である。しかし、近年の経済状況を背景に関連部品メーカ及びHDD メーカでは大型設備投資を抑えざるを得ない状況となっている。このような中にあって米国の主要メーカであるSeagate 社は、ピッツバーグ研究所の人員・設備充実及び磁気ヘッドやディスク部品生産用の製膜装置の更新を積極化させている。一方、光ディスク等生産拠点は、日本から台湾、韓国、中国へと移り、技術的にも最近の韓国の進歩には目覚しいものがある。加えて、一部アジアの国による知財権を無視したドライブの低価格攻勢で、日本勢が体力を減らしていく危険性をはらんでいる。

§対応策
21世紀はブロードバンドネットワーク時代と言われる。社会全体でやりとりされるデータ量は今後飛躍的に増大し、大切なデータのストレージは重要になる一途である。ビジネスにおいては、企業のIT 化を初めインターネット・ビジネスの進展による膨大な顧客情報の管理など、企業が扱うデータ量は爆発的に増加している。個人レベルでは、デジタルTV 放送の開始やインターネット利用の普及など、家庭においても情報ストレージのニーズは爆発的に増大する。世界レベルでは2000 年の3EB(Exa:1018乗)が2010年には170EB に増大すると見込まれている。ストレージデバイス技術はブロードバンドネットワーク時代を支える重要技術であり、日本が主体的に技術リーダーシップを確保していくべき事業分野である。戦略的にその技術優位性を確保するような方策が望まれる。

(1)事業視点
a.HDDデバイス
最も市場ボリュームの大きい3.5型HDDでは米国が80%以上の市場シェアを確保している。しかし、最近急速に市場が拡大しつつある2.5 型以下の小型HDD では日本メーカのシェアが優位にある。またHDD を構成するモータ、磁気ヘッド、磁気ディスク基板などの部品レベルの日本のシェアは80%以上である。磁気ディスク関連部品や小型HDDの製造では高度技術が必要であり、多くの技術ノウハウが存在する。現在の状態を確保出来れば、国産技術の優位性を確保できることになる。メーカは経済的要因によって開発・生産拠点の海外進出、技術のライセンシング等を行う側面は否めないが、高度技術、ノウハウの海外流出を抑制する方策が必要と考えられる。
HDD の出荷数は増大を続けているが、コスト低減も依然継続しており、企業としての利益を確保するため量産効果に依存しなければならないのも事実である。このため、米国においてはQuantum、HMT、 Headway、 IBM のHDD 部門が他社の傘下に入り統合され、国内においても磁気ディスクメディア分野で三菱化学の磁気ディスク部門が昭和電工に統合されている。これらの統合において、Headway は日本企業であるTDK の、IBM のHDD 部門が日立の傘下となったことは、この分野では日本企業が主体性をもって同業統合を進めていることの表れとみることもできる。
HDD 技術は高度なナノテク技術をベースとするとともに、機械、電気、材料、化学、電子回路、信号処理などの多様な要因からなる複合技術である。このため最先端の生産設備を導入しても、容易には参入でき難い性格を保有しており、参入障壁は半導体分野の液晶やDRAM に比べて高いと考えられる。しかし、韓国のサムソン社は米国メーカへの資本参加をよりどころにHDD 分野へ参入し、その市場シェアを拡大中である。経済状況が悪化すると国内の有力HDD 関連メーカに海外資本が参入し、高度技術・ノウハウが流出する懸念も存在する。
重要技術を計画的に育成し、産業の活性化を図る方策が不可欠である。米国を先頭に、近年ではシンガポール、韓国、中国などのアジア諸国で国がハイテク技術のレベル向上と関連産業の活性化を国策として推進中である。我が国においても、産学官が強力に連携してe-life の重要要素技術となるHDD 技術開発、応用技術、関連ソフトウエア技術の先行的かつ戦略的な開発に取り組む必要がある。
このようにして、メーカがこれまで保有してきた技術、及び今後開発する技術の活用においてベクトルを合わせることによる相乗効果を発揮でき、強力な技術開発が可能となる。磁性材料技術、微細加工技術、高精度・高速機構系技術、トライボロジー技術などのHDD 関連のハードウェア技術では日本は国際的に優位にあり、またモバイル応用等の小型軽量分野では装置化、ソフトウェア技術の優位性も高い。諸外国に先を越される前に「強きをさらに強くする」戦略的な方策が有効と考える。
HDD を構成するモータ、磁気ヘッド、磁気ディスク基板などの部品レベルの日本のシェアは高い。この様な重要部品生産における高シェアの位置づけを戦略的に活用することが有効であろう。また高度な集積技術が必要となる小型HDD の生産技術、応用技術の優位性を継続的に確保することも有効である。これらの技術に関連する研究・技術開発において、国内産業は主体性を発揮し続けなければならない。単独企業の判断に任せていたのでは、経済情勢の厳しさを背景にコア技術の海外拡散が起こる可能性が高い。この分野の技術優位性を確保し産業の活性化・成長を図るためには、産学官の連携が果たす役割は極めて重要である。重要技術の囲い込みに配慮しつつ、また同時に非コア技術の国際展開を図ることも必要であろう。人件費要因の高い製造分野、アセンブリー技術などはアジア地域を中心に展開し、国際分業にも留意すべきであろう。

b.光ストレージデバイス
プリプレス用途からマーケットインしたDVDは、大容量高速化とともに家庭用や計算機ペリフェラル用途の記録のできるストレージ機器として一大マーケットになる。現在光ストレージ技術、小型HDD技術は日本の独壇場であるが、将来にわたってマーケットと技術の優位性を確立するためには、小型でも容量ニーズを満たしうる1テラビット/平方インチ級の高密度化技術開発が必要である。さらに先行して開発した技術を実用化し、小型大容量の光ストレージ市場等新規なマーケットを創出することと平行して、他国が立ち上がる前に世界標準化し、アプリケーションを含めて日本産業が主導権を握るという攻めの視点が必須である。

(2)技術開発視点
a.HDD デバイス
HDD 及び関連ストレージ技術をトレンドをベースに予測すると、約5年後には3.5 型HDD では、記憶容量が1-4TB に達し、現DVD 並の映像を1500 時間も記録することが可能となる、2.5 型HDDでも600GB-2TB の装置容量が得られ、低消費電力、低騒音、省スペースの観点から主流となり、価格も1万円程度まで低下しよう。1 型HDD でも30-60GB の装置容量に達し、高画質動画を20時間以上記録することができ、小型デジタルムービーとして有望である。また、電子レンジ、冷蔵庫、電話、FAX、オーディオ機器などの家電品の機能メモリーとして組み込まれ、活用されることが期待されている。
書き込み可能なDVD は、ディスク1枚で100GBの容量実現が期待できる。5-10GB 対応の装置では現VTRはほとんどDVDに置き換わるであろう。また低価格HDD と組み合わせた家庭用映像録画装置も広範囲に普及するものと予測される。半導体メモリも主流品が4GB に達し、圧縮された高音 質な音楽を60時間以上録音・再生することができる。高画質な動画機能付きのデジタルカメラのストレージとしても十分な容量を確保できると予測される。
このようにストレージも多様化するが、関連マーケットの拡大に対応していずれの型のストレージも生産量は増大基調にある。HDDの今後の技術開発視点として留意すべき事項として以下が挙げられる。

  • 高密度化
  • ハンドリング性
  • 低消費電力
  • 耐環境性
  • 高信頼化、長寿命化
  • インタフェースの高速化

b.光ストレージデバイス
他の追随を許さないドラスティックなビットコスト低減を実現するブレークスルー技術開発が肝要で、産官学の連携で日本発技術の「近接場光・磁気ハイブリッド記録」によりこの高記録密度を実現することが重要である。

  • 小型でも容量ニーズを満たしうる1テラビット/平方インチ級の高密度化技術開発
  • 光記録と磁気記録を融合した小型ストレージシステム開発

(3)生産技術視点
a.HDD デバイス
HDD 生産では半導体に勝るとも劣らない高度なナノテク技術が活用されている。主な設備は製膜設備と微細加工設備である。製膜設備においては、数? 10層もの多層薄膜を0.2nm 以下の膜厚精度で2.5-5 インチ径の基板に高速形成できる装置が必要である。金属、半導体、酸化物などの多様な材料をカバーするとともに基板温度の高精度制御が必要となる。従って、HDD 生産に特化した製膜装置の開発が必要となる。
微細加工装置では、HDD の記録密度が年率60-100%の割合で向上してきたことを背景にヘッド加工用露光装置として、g線、i 線、KrF と小さくなり、現在ではKrF が広く採用されている。しかし、ここ1~2年、「デモ」レベルでの記録密度の伸び率が年率30%程度へ低下してきており、これを打破するために、5年後にはヘッド加工だけでなく媒体加工としても、電子線描画装置を用いた露光装置を用いることが必須になろうと見なされている。
HDD 技術分野では、これまでは半導体分野で開発された生産装置を改良することによって基本的には生産に用いることが可能であった。しかし、数年後を展望すると、微細化、機能薄膜の極薄化は半導体分野技術を上回る勢いにある。半導体分野に先行する生産装置の開発も新たな課題となっている。

b.光ストレージデバイス
大容量化には、半導体、ディスプレイと同様に媒体やヘッド等の電子線描画等によるナノメータ加工、評価技術がキー技術である。また光ストレージは、マスタリング、媒体、コンポーネント、ドライブ、信号処理、システム化等の総合技術で、それぞれの段階でビジネスが成り立つ仕組みつくりが必要である。その反面ドライブアセンブリ等の拠点がアジア等海外に出て行くことはビジネス上避けられない。

  • 1テラビット/平方インチ級の高密度化に対応したナノメータ加工・評価技術開発
  • 材料/デバイス/装置/システム、各段階で儲かる仕組み作り
  • 先行開発技術の成果を早急にビジネスモデルとして展開し、これを標準化しシステムとして権利化する
  • 生産の海外展開、海外他社の模倣的生産販売に対応した知財権確立と断固とした行使

「ディスプレイデバイス」

§環境認識
技術レベル、知財権で優位にある筈の日本が韓国、台湾、中国に市場シェアを奪われつつあり、それが今後も拡大すると予想されることにディスプレイ産業の深刻さがある。勢いづく韓国メーカは、独自技術の開発に力をいれるのはもちろん、重要特許や技術の買い上げ、日本人専門技術者の採用など次々と技術基盤を強化し、技術、知財、さらにはノウハウでも追いつき、追い越す勢いである。
台頭するアジア各国企業は国家ぐるみで資本/大量生産の論理による市場制覇戦略に徹することが特長で、マネーゲームの様相まで呈している。また、既にアジア製商品には性能・品質で日本同等以上かつ低価格なものが存在し、PC 用ディスプレイなどの汎用品では日本メーカは苦戦をしいられている。
一方、国内では複数のディスプレイ・メーカが長年にわたり熾烈な競争を展開してきており、それが海外メーカに勝つ原動力になっていた。しかし、その時代は終焉を迎えており、海外の資本/大量生産の論理による市場制覇戦略に太刀打ちできなくなっている。ディスプレイ生産の設備投資が高額なため近年1社単独での研究開発・製造は困難な状況であること、海外企業のコストダウン攻勢に対応するために産業構造・生産体制の抜本的改変が不可欠なこと、さらには、PDP を中心とする新規ディスプレイの即戦力人材の不足の顕在化など問題が山積しており、このままでは日本のディスプレイ産業の将来が危ぶまれる状況にある。ある韓国メーカは、日本がリードしているPDP でも3 年で日本を追い越すと宣言している。
さらに、日本では厳しい経済情勢下、選択と集中の名の下に行われるリストラにより専門技術者の海外流出、工場まるごとの海外企業への売却まで、様々な形で技術・ノウハウの海外流出が、なんら制約を受けることなく続いている。
ディスプレイ産業を防衛強化するためには、産学官の連携を中心とした方策を早急に組み立てる必要がある。グローバルな競争が激化する21世紀の新しいパラダイムを目指すグランドデザインが求められている。
このような背景の下、平成14 年度の経済産業省e-Life 戦略研究会で問題提起があり、業界においてFPD産業強化の機運が盛り上がり、様々な手が打たれはじめている。

(1)国内企業合併による体力強化
(2)FPD国内生産体制の強化
(3)アジアメーカー特許侵害に対する本格的提訴
特許侵害品(PDP)、コピー品(液晶TV)の輸入中断措置
(4)人材・技術流出防止のための各種制度強化
・経済産業省による技術流出防止指針 -意図せざる技術流出防止のために- 発行

§対応策
ここで更なる施策を打ち、この流れ「FPD産業の強化」を加速定着させることが必要不可欠である。それには、特に 次の項目の具体化が急がれる。
(a)FPD産業の基盤を支える技術者の育成
(b)裾野を形成する関連産業の強化
(c)知財活用の具体策
(d)技術流出防止の施策

その他の対応策もさらに徹底した実施が望まれる。
(1) 事業視点
一社だけの対応では、資金力、技術開発力、全ての点で限界があり、アジアの台頭に対抗できない。国内同士の熾烈な過当競争消耗戦から脱却して、デバイスの製造会社の統合促進が必要不可欠である。また、為替レートなどのハンディがあることから同じ土俵上での戦い、すなわち国内の工場の単なる生産効率改善、大型投資、大量生産では、海外に対抗できない。海外と国内の棲み分けを念頭に低価格化競争からの脱却を図る必要がある。すみわけに当たっては、苦し紛れのグローバル化の名のもとに行われる、部材・製造ノウハウを含む装置の海外流出防止等、日本の国益を守るガイドラインを作成し、多方面から歯止めをかける必要がある。
また、特許侵害製品の輸入禁止処置に加え、国内の知財を分析検討し、様々な観点から検討すべきである。例えば、日本のディスプレイ・メーカが過去に出した知財を活用することも考えられるが、今後の新しい分野について産学官が連携して知財創出を行い共同活用することも考えられる。
現状では、海外と国内の棲み分けを総合的観点から考える必要がある。一般的には汎用品は海外、先端技術商品、高付加価値商品、新ジャンル商品は国内とするのが日本の現状技術レベルから妥当な選択である。
具体的には、デバイス、システム半導体によるディスプレイの付加価値UPで世界をリードし国際競争に勝ち抜く戦略が考えられる。ソフトによるディスプレイの新規応用分野囲い込みによって、ディスプレイ産業を強化するという戦略である。サービスからハードまで垂直型の日本のマーケティング・ベンチマーキングで世界の市場を先導、製造事業をトータルコストで成立させるのである。
また、市場変化・多様化への適応力とコスト力を両立させるオンデマンド型ものつくりの仕組み開発に集中させることも今後の事業推進に不可欠な視点となる。

(2)技術開発視点
商品は「高い質感、品質」など「汎用品」とは一味異なった「価値」を感じさせるものが望まれる。それにはユーザインタフェース、ハードとソフトの融合に視点をおいたディスプレイの新技術開発、新規応用製品の創出が重要である。
具体的には、システムインテグレーションによりディスプレイに新たな機能を加える差別化、ソフトの取込が不可欠で、下記のような研究開発が望まれる。

テーマ(1):高品位TFT デバイス・システム基盤技術
結晶性Si TFT と有機表示材料(液晶材料・有機発光材料)を同一基板上にインテグレートする技術
テーマ(2):低温高品位TFT プロセスモジュール
半導体成膜及び不純物導入プロセスの低温化により可撓性基板へのTFT 形成を可能とする技術
テーマ(3):日本がトップの地位を築いているPDP、有機EL の地位を固める新規技術開発
(低消費電力化、長寿命化、低コスト化、高性能化・高付加価値化促進)
また、「新しいものづくりの仕組み」の基盤開発には産・官・学のシステマティックな連携が欠かせない。

新規応用創出が期待される分野としては、以下の3分野がある。
(1).ネットワーク・テレビ(情報家電)
(2).リッチコンテンツ・モバイル(携帯電話、PDA)
(3).ペーパーライク・ディスプレイ(印刷物の電子化)

(1). テレビは近い将来、家庭におけるAVネットワークの核になり、多様なブロードバントネットワークから配信を受け、ストレージに記録し、ホームネットワークを通じて各部屋の端末に配信するようになると予想されている。その意味で、まさに家庭でのコア・ディスプレイである。サーバ側のセントラル・ディスプレイは、概ね、1-2m の視距離からの視聴が主たる用途。端末側のパーソナルディスプレイは、デスクトップないしラップトップで、30-40cm の明視の視野で視聴したり、情報の入出力をすることもあり得る。前者は、解像度が大きければ大きいほど良いが、40-60インチの画面で、走査線1080本(HDTV)あれば、60-40ppiとなり必要十分であろう。この条件からPDPとLCDが適している。後者は、200ppiが最適で、20-30インチで走査線2000本は欲しいのでLCDが適している。

(2). モバイル(2~5インチ程度)は、モバイル向け放送・通信の広帯域化で、薄型・コンパクト、低消費電力、高解像度なものが一層要求されるので、LCDまたは、今後の技術動向によっては有機ELが適している。特に、低温ポリシリコンを用いた、高解像度で、ドラーバーコストの安いものが良く、汎用化されるであろう。日本としては、さらに制御回路、絵作り、指紋認証等のシステムインテグレーション(システム・オン・グラス)により、国際競争力を持つ製品創出が期待される。

(3). もう一つの大きな応用分野は、紙の代替、電子の紙、動くグラビヤ写真である。いつでもどこでもどんな情報も誰でもが享受できる社会=ユビキタス社会において、バッテリー消費が少なく、紙のような視認性に加えて、情報の入出力や視聴が自由な姿勢で行え、かつ、柔らかくて軽いディスプレイは、人間の究極の要求であろう。
実現に向けては、表示機能材料、アドレス回路、基板、モジュール(実装)技術、入出力機能、その他の付加機能をペーパーライクな性質に仕上げる要素技術開発が必要である。いずれも未開拓の分野が多く、個々に企業が研究開発していては、投資効率が悪いので、産官学を巻き込んだアライアンスで開発スピードと確度をあげる必要がある。

(3)生産技術(新しい物作りの仕組み開発)
まずは、汎用品の大量生産から脱皮した新たな生産システム(オンデマンドプロダクション)の構築が必要である。その構築にあたっては革新的な高い生産効率(投資効率含む)を有した新規設備及びプロセスの開発と部材の抜本的コストダウンが不可欠である。部材のコストダウンには、材料素材面からの見直しや機能統合など従来の延長思考からの脱却が必要である。
メーカ毎の新たな製造手法、これを具現化する独自の内製装置、新ハイテク材料の開発が特に重要と考えられる。当然ながら模倣されない高度な技術が開発目標だがノウハウのクローズの戦略必要で、それにはセットとデバイスの一気通貫開発でセットを最終顧客に提供することが肝要である。結局、市場ニーズに適応した先端製品の開発に加え、その製造技術の根幹を押えることが肝要である。

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