中国経済新論:世界の中の中国

「市場を以て技術と交換する」戦略は成功を収めた

王志楽
中国対外貿易経済合作部国際貿易経済合作研究院 多国籍企業研究センター主任

改革開放以降、外資を誘致するために実施された「市場を以て技術と交換する」という戦略は失敗したと批判する人がいる。中国の市場が外資に奪われてしまったにもかかわらず、外資の先進技術を手にすることができなかったからである。

さらに、外資系企業の中で、外資による独資または資本支配が主流になった現在では、市場の開放と引き換えに先進技術を手にすることはさらに難しくなっている。まず、外資企業は自社の技術を漏らしてライバルを育ててしまうほどの愚者ではない。また、外資で働く中国人技術者が仕事で身に付けた技術を将来中国企業で使えるのではと期待する人もいるが、これも他力本願になってしまう。中国人技術者が外資系企業において技術を学び、習得することや、一部の技術の研究開発に参加することは勿論できるが、肝心なコア技術を身に付けることは到底できないという。

こうした外資への批判は特に自動車産業に集中している。WTOに加盟してから5年、中国の自動車市場は非常に好調で、乗用車の販売が年々大幅に増加している。しかし、売れているのは殆んど外国のブランドで、国産のブランドは見当たらない。中国の大手自動車企業が外資と合弁会社を作ってしまったからである。このような合弁会社は開発能力がないため、自社技術や自社ブランドを持っていないのである。

このような批判をする人たちは、「自主革新」を「自社革新」と誤って理解し、外資の導入でカギとなる技術を得ることはできないと思っている。彼らは、外資の研究開発センターでは中国の優秀な技術者を集めて研究を行っているが、開発された技術は結局外資ものになり、中国に残されるものがないと主張し中国での研究開発センターの設立を奨励する政策が間違っていると結論づけている。

しかし、外資企業の進出による外国の先進技術の導入は、一回限りのものではなく、更新された技術の継続導入も行われている。最も重要なのは、外資が中国でサプライチェーンを構築することで、多くの中国産業が産業全体のレベルを向上させたことである。企業間の一対一の競争に取って代わって、産業間の競争ないしグローバル規模での競争に変わった現在では、外資が中国にもたらした影響は、個別の中国企業への影響だけではなく、産業全体への影響もあると思われる。

このような影響は自動車産業で顕著である。上述の批判とは対照的に、自動車産業では、市場と技術の交換の戦略は成功を収めているのだ。

まず、海外の一流メーカーとの合弁を通じて、合弁企業の技術が根本的に改善され、レベルが向上した。同時に、外資進出による顕示効果および競争の激化は、国内の自動車メーカーの成長を促した。外資との協力と競争を通じて、中国の自動車メーカーの技術力と競争力は向上した。

また、自動車産業の集積とサプライチェーンが形成された。上海を例に挙げれば、20数年来の、ドイツのフォルクスワーゲン、アメリカのゼネラルモーターズ(GM)との合弁で、上海の周辺地域では自動車産業のサプライチェーンができた。上海大衆(フォルクスワーゲンとの合弁会社)は340社、上海通用(GMとの合弁会社)は178社の部品サプライヤーを持ち、それぞれ自社のサプライチェーンをつくった。また、両社は独自の販売とアフターサービスのシステムを構築した。上海大衆は中国全土で800余りの販売店、上海通用は669のディーラー(輸入車のディーラーを含む)を持っている。上海汽車集団は上海大衆と上海通用の両合弁メーカーの設立以外にも、40数社の重要な自動車部品メーカーを合弁で設立した。上海大衆と上海通用はこれらの部品メーカーと共同で新車のデザインや開発に取り組むことによって、商品の開発周期を短縮することができた。自動車産業チェーンの形成は、先進技術とともに先進的な経営理念をもたらしており、中国企業の自動車開発の土台を作り上げた。最近になって、自動車部品と自動車の輸出がますます増えていることは、中国自動車産業全体のレベル向上の現れである。

さらに、外資との合弁企業は、多くの経営者、技術者、熟練工を育てた。これらは今後、中国企業の自社ブランド開発の人材資源になる。

以上を見てきたように、外資の顕示効果とそれに伴う市場競争がなければ、中国の合弁および国内自動車企業が十数年という期間でこれほど大きく進歩することはできなかった。鄧小平は、1991年に上海大衆を視察した後にこのように述べている。「もし市場を開放していなければ、我々は未だにハンマーで打ちながら自動車を生産していただろう。現在は大きく変わった。これは質の変化だ。質の変化は自動車産業に限らず、各分野で現れる。」

中国の国家発展改革委員会工業部門のある指導者が、ドイツの自動車企業を含めた外資が中国の自動車産業で果たした役割を三つにまとめている。

  1. 企業管理、品質管理、生産管理および商品技術などの面において、外資の合弁企業は重要な貢献をした。外資は絶えず新しい企業管理制度、品質管理思想、サービス理念を導入し、新商品を開発し、政府および業界による製品基準の向上を促進する。
  2. 合弁企業の存在により、中国の自動車部品産業の発展が促される。上海大衆のサンタナモデルの国産化をきっかけに、1986年から、地域、部門を跨ぐ、全国20の省と直轄市に及ぶ百社余りの部品メーカーからなる乗用車の国産化のための共同体が結成された。中国の自動車産業に、世界レベルの品質基準を満たす部品メーカーが育った。
  3. 自動車産業を主管する部門をはじめ、中国政府は外資との協力関係を通じて、政策立案の能力を高めた。まず、合弁企業の成功は、中国の自動車産業の対外開放を促進し、政府による自動車産業政策の立案の参考になった。また、外資を通じて、中国政府は自動車商品管理に関する外国の管理体制と法律法規を理解することができた。これは、車両の管理制度および技術に関わる法体制などにおいて、中国政府の決定に大きな影響を与えた。

しかし、自動車産業のこのような発展は、中国企業が自社ブランドを開発する能力や自社ブランドを持つ結果につながっていないとの批判がある。

外資が中国の自動車生産技術に与えた影響について、商品に直接に現れる技術と、これらの商品を開発、設計、生産する技術を混同してはならない。調査によれば、中国に進出したほとんどの大手外資企業が、契約書の約定どおりに中国側に技術を譲渡している。また、譲渡された技術のほとんどは先進技術である。問題は、外資との合弁の過程で、中国側は技術の導入、消化、吸収、革新を通してこれらの技術を自分のものにしておらず、外資の技術提供にずっと頼り続けるという受身の体制になっていることにある。外資の進出が中国の技術進歩の障害になっているのではなく、制度の欠陥と政策の不備および企業自身に存在する問題がこれらのマイナスな影響をもたらしたのである。中国企業が直面する問題を検討する際は、外部のせいにするばかりではなく、自身または内部から問題を発見すべきである。このような態度を持ってこそ、問題の正確な発見と有効な解決に役立つのだ。

2007年11月7日掲載

出所

王志楽主編『2007跨国公司中国報告』(中国経済出版社、2007年)より一部抜粋
※和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている。

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2007年11月7日掲載

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