中国経済新論:中国の経済改革

なぜ中国の株価は上がらないのか

易憲容
中国社会科学院金融センター

1958年江西省生まれ。1989年上海華東師範大学より修士学位、1997年中国社会科学院研究生学院より経済学博士学位をそれぞれ獲得。「現代契約経済学導論」、「取引行為と契約選択」、「コースの経済思想研究」、「金融市場と制度選択」、「経済繁栄と権力運営」といった著書を発表した以外、張五常の「分益農の理論」、「経済解釈」を翻訳した訳者として、よく知られている。現在、中国社会科学院金融センターにおいて、研究活動に取り組んでいる。

中国の第16期中央委員会第三回全体会議(三中全会)は春風のように中国の資本市場を暖めた。社会主義市場経済システムにおける資本市場の位置付けが明確化され、資本市場の発展の方向も明示された。一部のメディアは、三中全会の決定が低迷し続けてきた証券市場にとって重要な支えになるとしている。これによって、今後は資本市場の地位が高まり、それに伴って市場の問題点もおおむね解決されるか、あるいは解決のめどがたつ。そうなれば、市場はすさまじいエネルギーを放出する可能性がある。すなわち、三中全会の方針を受け、中国の株式相場が再びうなぎのぼりになるかもしれない。

また、中国の証券会社、2つの証券取引所、および証券監督管理委員会から構成される動力装置は、中国経済の高成長、莫大な個人資産、香港H株の勢いという原動力で、再び中国株式市場の繁栄を作り出す、と考える人もいる。

確かに三中全会の主旨には、社会主義市場システムの整備、資本市場の大いなる発展がある。しかし、資本市場の大いなる発展は必ずしも株価の上昇を意味しない。証券会社、取引所と証券監督管理委員会という動力装置によって作られた相場は果たして通用するのか。たとえ通用しても、その結末はどうなるのか。そのような株式市場は今より良くなるか、それとも悪くなるか。このような考え方は、困難と問題を解決できるのか、それとも原動力装置に近い人々が一瞬にして富を築き、多くの問題を先送りして株式市場を絶望的な状況に追い込み、株式市場の災難を社会全体に負担させることになるのか。

ここ数年間、株価は力強く伸びている経済状況から大きく乖離している。株式市場の一日の出来高は、上海と深センの両取引所の合計でピーク時の1000億元から今や50億元前後にまで縮小した。投資家の人数では、上海・深セン両取引所の合計した口座数は7000万口座に達しているが、実際取引のある口座は1%未満にすぎない。今年前半の株式市場を通じた資金調達額は350億元未満で、対GDP比率は0.92%と、2000年の2.27%から大幅に低下した。時価総額も縮小しており、株式市場全体が低迷している。

株式市場の低迷については、株主の二元構造による流通株の割高という背景があるため、流通株と非流通株の分断が株式市場を制約しているとの見方がある。最近招商銀行の転換社債の発行時に起こった流通株の株主と非流通株の株主の激しい対立は、この問題を反映している。この見方を持っている人からすれば、株式市場の低迷の原因は、投資家が株式市場に対し信頼をなくしたことにある。非流通株の株主が株式分割を通じて市場から「金を巻き上げる」のに対し、流通株の株主は相応の利益を受けられない。このため流通株の株主は市場から退出する。また、株主の二元構造という状況下で、高い国有株のシェア、粉飾上場、インサイダー取引、虚偽の報告、上場企業の食いつぶしなどは非流通株の株主の「合理的・合法的」行為になってしまっている。このため、中国の株式市場が苦境から脱出するには、中小投資家にリターンを与え、中小投資家の信頼を取り戻し、市場の良性の発展を図るなどのことをしなければならない。そして、これらを成し遂げるには、株主の二元構造をやめ、すべての株式を流通させなければならない。最近では多くの学者や民衆がこのように考えている。

しかし、株式市場の問題点は株主の二元構造をやめることだけで解決するのであろうか。株主の二元構造が株式市場の発展にとって最大の障害であれば、この問題は短期的に解決できないため(全株式の流通が問題解決の鍵と考える人もいるが、現時点でこれを議論するのは幻想に等しい)、問題の原因が分かったとしても手のつけようがない。また、仮に全株式の流通が実現されたとしても、株式市場は本当に苦境から抜け出せるのかどうかは未知数である。実際、国有株の放出や全株式の流通の話が出るたびに、株価は急落した。では、これ以外にはどのような新しい方法があるのだろうか。

全株式の流通をパンドラの箱と喩える人がいる。箱を開けたら、悪魔が出てくるかもしれないし、希望が出てくるかもしれない。この間は、急いで開けたから、悪魔が出てきてしまった。それで急いで閉めたら、希望まで箱の中に閉じこめてしまった。今度、箱を開ける時は、必ず良い時機を選んで、希望を出し悪魔を箱の底に残さなければならない。全株式の流通が実現できたとしても必ずしも株式市場の問題を解決できるわけではないが、そもそもこのような二律背反があるため、具体的な方法があったとしてもその実施は非常に難しい。

では、中国の株式市場の問題点はどこにあるのだろうか。この問題については、すでに多くの議論がなされてきた。私自身も、今までは、中国の株式市場は計画的であって市場化していないことや株主の二元構造などに問題があると考えていた。しかし、これらは問題の一面に過ぎない。根本的な問題点は、劣悪な製品を高い価格で売り、上場会社が安いコストで社会の金を騙し取ることができることにある。

最近の研究報告によれば、中国の株式市場はすべての市場参加者にとって魅力がないわけではない。流通市場の投資家を除けば、すべての主要市場への参加者は中国の株式市場の発展を通じて大きな経済的利益を得た。ここ10年間、上場企業の国有株・法人株の株主は12100億元以上、国内証券会社は3000億元以上、証券仲介機関は約200億元、投資信託会社の信託料は約70億元、投資信託のファンドマネジャーの年間信託収入は100万元前後、である。これに対し、流通市場の投資家は8900億元以上の損を被っていると推計されている。これらの数字から分かるように、計画や行政の方法で市場に参加した人々が、利益を上げているのに対し、個人で自由に参加した人々は資産を失う結果となっている。商品とサービスを提供する側は莫大な利益を上げているのに対し、商品とサービスを受ける側は損害を受けている。また、これらの商品とサービスはすべて政府の管理下に置かれている。すなわち、現在の市場ルールは完全に略奪という形で、社会の富を少数の部門あるいは人に集中させた。略奪の方法は、劣悪な商品を高く売ることである。このため、あらゆる企業は上場を争っている。

それでは、なぜこのような劣悪商品販売の行為が十数年にわたり横行してしまったのだろうか。それは、政府の作ったルールは利益が少数の人に傾斜するルールであり、市場を発展させる基本的な市場ルールが欠けているためである。市場ルールは本来、自明であり、規範や制定、立法を必要としない。欧米諸国では、法律の公正さは、裁判官の尊厳や、条文内容の細かさ、判例に対する尊重だけでなく、より重要なのは長い歴史をもつ陪審員制度に現われている。多くの大きな案件の裁判は、裁判官の主な役割は事実の究明で、判決を下すのは陪審員である。普通の陪審員は法学部の出身でないため、法律・条文について深い理解はなく、案件を判断する時は個人の常識や公正に対する理解に基づく。そして、このような公正に関する常識は、我々の生活、我々の日常の行為の中に存在する。このような陪審員制度により欧米諸国の司法の公正さが保たれている。

中国の株式市場の根本的な問題点は、このような前提条件が成立しないことにある。中小投資家は投資収益を得るために市場に参加したが、なぜみんなが大損をする結果になったのか。一人や二人が儲からない場合は、株式市場のリスクを十分に認識せず投資のタイミングを逸したと言えるが、すべての中小投資家が儲からない場合、これは市場の制度に問題があると言わざるを得ない。さらに、この市場では、市場に参加すれば儲かるという保証が全く存在しない。株式は、安く買って高く売るものである。しかし、なぜPTのようなごみ株が暴騰し、ニワトリが鳳凰になることができるのか。

現在の市場について、株価が低迷し、経済ファンダメンタルズから乖離していると指摘されている。しかし、株価の低迷で収益が減少した証券会社がなく、特に権力に近い会社は収益が減少するどころか、むしろ増えている。犯罪を除けば、熾烈な競争で倒れた証券会社はない。

2つの証券取引所に目を転じると、立派なビルが建てられ(二つの取引所は現地および全国で最も立派な建物である)、取引所の従業員は全国で最も高いレベルの給料と福祉を受けている(これらについては、取引所の従業員の買った高級車や高級住宅から一目瞭然である)。株式市場の低迷は彼らに何ら影響を与えていない。

三中全会の精神は資本市場の発展にとっての原動力となり、市場も反応したが、株価の上昇は一時的に過ぎなかった。株価は一部の人の予想したようにうなぎのぼりにはなっておらず、少し上昇してから元に戻った。株式市場の健全な発展のためには、根本的な問題点の解決、一部のところに利益を傾斜させる現在の政策の転換、公平な市場ルールの確立が求められる。特に、中小投資家に対して、市場への参加は儲かることであり、彼らの利益は守られ富が奪われないことを示す必要がある。これは市場の常識である。

2003年11月10日掲載

出所

博士珈琲
※和訳の掲載にあたり先方の許可を頂いている。

2003年11月10日掲載

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