中国経済新論:中国の経済改革

今後の中国経済成長の鍵を握る都市化

樊綱
中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長

一、都市化の遅れによる問題点

過去の20数年間、中国の経済成長は郷鎮企業を中心とする農村工業の発展に牽引されてきた。農村工業の発展により、2億人近くの農村労働力が非農業産業に従事し、収入が増えただけでなく、中国市場も拡大した。

しかし一方、このように農地を離れても郷里を離れないという特徴を持つ「農村工業化」は、中国経済が都市化よりも工業化の方が先に進んでいるという特殊性を生んだ。99年末時点、農村の郷鎮企業の就業者数と、農村で輸送や商業、工業、サービス業を営む個人を含めた非農業産業の就業者数は合計で全就業者数の53%を占めている。しかし、外来の常住人口を含めた都市部人口は全人口の32%に過ぎない。すなわち、中国の工業化(非農業化)の比率は都市化の比率を20ポイント上回っている。先進国では、経済発展の過程において一般的に都市化の水準が工業化の水準よりも高い。多くの途上国も同様である。しかし、中国は、一人当たりGDPで同じ水準のほかの途上国に比べても都市化の水準が世界平均を下回っている。

農村工業化、農地を離れても郷里を離れないことの長所は、第一に、農村工業が農地を離れても郷里を離れない農村労働力を使うため、労働コストが相対的に低く抑えられ(都市部雇用者の賃金や社会保障費用との比較で)、これによって中国経済の初期発展段階における資本蓄積を比較的高い水準に保つことができる。この点は、過去20数年間の高い成長率を説明するのに重要な役割を果たしている。第二に、経済発展の初期段階における、急速な都市化に伴う都市の貧困問題を避けることができる。ある意味で、中国の状況からいって、経済発展の初期段階における農村工業化は必要であり現実的な選択である。

しかし、経済発展は今日のようなレベルに達しており、今後は都市化の遅れによりもたらされた次のような問題点を重視すべきである。

第一は、公共インフラ施設の利用効率が低く、非農業産業の効率が向上せず、発展の速度が制約されている問題である。都市化の水準が低く、人口と産業の集積度が低いため、製造業など非農業産業の発展に必要なインフラや輸送のコストが高くなる。インフラ施設のスケール・メリットは資金が不足する途上国にとって重視すべき要因である。広い土地の至るところに工場を建て、小都市や開発区を作るのは極めて大きな無駄であり、最終的に経済全体の発展の足を引っ張る。

第二は、都市化に伴う人口集積効果がなく、生活の様々な面の公共化やサービス業の発展が進まず、雇用が増えないため、農業労働力の非農業産業への移転が遅くなる点である。このことは、ここ数年の経済成長率の鈍化に反映されている。

第三は、都市化と国民の教育水準との関連からみると、人口が農村と小都市に分散していることにより、教育施設の利用や教師の配置に関してスケール・メリットを活用できない点である。教育への様々な資源投入は少なくないが、効率が良くないため、農村の教育水準が低く、国民全体の教育水準の向上の足枷となっている。これは経済の長期的な発展にとって不利である。

我々は、都市化を加速させる段階に来ている。この新しい発展段階において、都市化はこれまでの農村都市化を基礎に、中国の工業化と近代化を一層推進することになろう。

二、大都市の発展による都市化

以上の分析から分かるように、都市化の最も重要な効果は、「集積効果」と「スケール・メリット」である。このため、都市化を進めるには大都市の発展に重点を置くべきである。大都市の発展に伴い、周辺の小都市も発展し、所得水準がある程度に上昇すれば「郊外の地域」も続いて発展する。もちろん、これはあくまで大都市の発展の延長線であり、小都市を中心に都市化を進めることではない。中国の小都市も一定の発展を経て近代化を実現する必要があるが、大都市に流入する人口が増えるにつれ小都市は最終的に消滅するかもしれない。小都市は大都市を代替することができないし、全体の効率も大都市に及ばない。中国経済改革研究基金会国民経済研究所の王小魯博士の研究によれば、経済発展水準、教育水準、国民の健康水準、環境・汚染、交通状況、土地の使用などの指標を総合して比較すると、中国では100~400万人の都市の総合効率が最も良く、小都市が最も悪い。海外の研究でも、過去100年間、大都市の発展に一部の問題が発生したが、総じて言えば、大都市とりわけ特大都市・超大型都市の総合効率は小都市よりも優れるという結果が得られた。確かに、所得水準や、交通・通信の水準がある程度の高さに達した後、大都市周辺の小都市あるいは住宅地域はより速く発展するようになるが、現状の中国にとってこの段階はまだ早すぎる。また、この変化自身は大都市の発展の一部であり、大都市を発展させず小都市だけ発展させるという根拠にはならない。

中国の広大な農村地域および小都市は、発展の必要があり、近代化を実現しなければならない。しかし、農村の近代化の前提は、農村人口の一人当たり所得水準の向上である。そして一人当たり所得の水準を向上させるための前提は、農民の大半が農村を離れ都市に入ることである。そうすれば、残った少数の農民が「土地が少なく人口が多いこと」による所得の低下に見舞われず、「土地が少ないが人口はもっと少ないため所得が高くなる」という段階に入ることによって農村生活の近代化、都市化が実現する。これはつまり非農業産業の発展と非農業雇用の増加である。前の分析からも分かるように、これらの実現は、大都市の集積効果にかかっている。すなわち、中国が農村近代化を迎えるためには、都市化を加速しなければならない。都市化がなければ、農村の近代化もないのである。

三、今後の中国経済発展の鍵となる都市化

今後、中国が都市化を主要原動力とする工業化(非農業化)の過程は、より多くの農民が、所得が比較的高い非農業産業に就職する過程でもある。そして所得向上を通じて、有効需要が増え市場が拡大し、9億人の農村人口が近代化した経済成長と市場に融和される(50~80年かかるかもしれないが)。現在、多くの製品が売れず、多くの生産能力が過剰になっている。しかし、長期的に見て、農民が都市化の過程で所得が比較的高い職業に就くことができれば、現在の生産能力はむしろ拡大する必要があるかもしれない。現在、多くの農民が家電製品を買わないのは、電気がないわけではなくお金がないからである。

様々な角度からの分析結果から見て、都市化は、いますぐ進めなければならない仕事だけでなく、今後かなり長い期間にわたって中国の経済成長の重要な一環となる。これをしっかりと押えておけば、雇用の増加、産業競争力の上昇、内需の拡大、教育水準の向上、健康と衛生、環境保護の改善が遂げられ、経済を良い循環にのせることができる。このため、都市化は、長期発展計画の柱の一つになるべきである(もう一つの柱は体制改革である)。

どのように都市化を進めるかは、深く掘り下げて議論しなければならない。市場経済に基づいて形成された都市の都市化を重点的に進めるべきであろう。既存の特大都市をこれ以上拡大することは難しいが、特大都市を中核とする「都市ベルト」あるいは「都市ゾーン」の形成は意義がある。これにより沿海地域の既存の小都市を、多くの大都市に発展させることができる。中国のような人口大国にとって、今後50年間に50~100の200万人以上の大都市が誕生しても多すぎるということはない。本当の問題点は、都市化の過程において政府、特に中央政府の役割は何かである。都市自身は公共インフラ施設を意味するため、都市の形成は「公共財」の供給とも言える。確かに多くの公共財は民営部門によって供給させることができるが、政府が組織し計画を立てる必要がある。中央政府は広く意見を聴取した上で、計画して全体を統括し、地方政府が各自の利益のために自分の都市を大きくしてしまうなど資源の非効率的な使用を防がなければならない。そして、体制改革を加速し、人口の流動性、特に全国にわたる流動性を高めることは、資源の効率的配分の促進、経済原理に沿った都市計画作りの重要な制度面の前提である。

2003年2月10日掲載

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